非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

私のもう少しと俺の選択肢

五十九話





【新転勇人】






「ところで円香はなんでキスしたら目に光がなくなるんですか?」
「…………死んでるんじゃないですかね……あはは…」
いや、俺からすると笑い事じゃないくらいんだけども。
不意に誰かにキスされたらあの時みたいに「もっかいしよ」とか「やーぁ」とかなっちゃう可能性あるもん。
「……なんかぼーっとしちゃうんですよね」
「うん、目が蕩けてました、焦点も合ってなかったし」
「………………えっち……」
「はい?」
今なんて言った?
「……あれ?」
「いやあれ?じゃなくて……」
なんで「この人照れながら弁解しないんだろう?おかしいな、聞いた話と違うな?」みたいな表情してるの?
「しょ、少々お待ちください?」
問いかけられても困るんですが。
あっ、洗面所へ小走りで。

なんか嫌な予感がするなあ。
円香って疑いもせずになんでも信じちゃうとこあるからまた何か変な入れ知恵されたんじゃないのか?
「……ぁ………んで……」
壁一枚向こうにいるのとそもそも小声で喋ってるということが相俟り途切れ途切れに小さい声しか聞き取れない。
電話なのか独り言なのかも判断に困るほど分かりにくい。
「…………………うん!よしっ!」
あ〜らおちゃめさん。
はっきりと聞こえましたよ「よしっ!」って。実に可愛い。
「勇人く〜……ん……」
「ど、どうしました?」
なんかひょっこり出てきたんだけど。ドアから生えてきたみたいになってる。
「…………………えっち……」
もう一回やるの!?
え、え……っと。
「……………えっち……」
ほんっとうにごめんなさい聞こえてなかったわけじゃないんです。
そんな顔赤くしてキョロキョロしながら言わせてしまってごめんなさい!
あぁ!もう俺!思い出せ!
この場合の選択肢は!!



1.「円香こそあんなキスしてきてえっちじゃないですか」

2.「そんな照れながら……さすが、可愛いですね」

3.「俺の彼女の崩壊が止まらない!!」



全部結果が見えてる!!!
1は俺が円香をそういう目で見てるって思われて「え、えっちって!確かに私からキスしまくりましたがそんなつもりありませんでしたよ!!」となって今後の関係の雲行きが怪しくなる。
3も結果的に雲行きが怪しくなるのは一緒だが道筋が違う。
多分3だと「壊れてませんよ!……壊してみます?」と、より良くない方向へ転ぶはずだからNG。

そして「2」。
この中で一番まとも“そうに見える”2だが“一番リスキー”なのが「2」だ。
なぜなら、

「そんな照れながら……さすが、可愛いですね」
「か、可愛いですか!?」
「はい、とっても」
「じゃ、じゃあ………ん〜」(目を瞑り唇を突き出しながら)

こうなる。
多分俺は、円香からキスをせがまれたら断れるような男じゃない。いや男であるがために断れない。むしろキスしたいまである。
ここで、じゃあ女になろう!うふっ♪と言えるほど肝が据わっているわけじゃない。
ここまでを踏まえ、つまり何が言いたいかというと。


「そんな照れながら……さすが、可愛いですね」

キスがしたい。

「えっ、かわ…可愛いなんて……えへへ」
あれ、待ってた返答と違うぞ?
「……もぅ、今回だけですからねっ!」
ん?
もしかして乗ってる?
調子という名の波に乗っちゃってる?
ま、まぁ乗っていいほどの外見してるから文句ないんだけどさ。
「ん〜〜」
――っと来たァ!!

ゴクリ……ッ…。






【金霧杏佳】






「え〜結構お似合いですよぉ?」
「どこがさ。」
だってあの子ガンガン喋るからあたしのペース乱されちゃうからなぁ。
「なんか、先輩にしか目がない浅見さんだけど、先輩はそれを軽くあしらってて自分から浅見さんへ近づかない感じで。付き合ったら絶対理想ですよ。好かれてて羨ましい限りです」
そんなバカな…。
「だ、だってあたしあいつに冷たい態度とってるし、分からないほど馬鹿じゃないはずだからきっともう……だよ?」
「先輩はおバカ。栄養は全てその乳にいってるんですか!!」
「真結?一応先輩。あたしは三年真結は二年」
「あ、ごめんなさい。つい……」
まぁいいんだけどさ、怒ってないし。
「というかさ、そろそろ戻らない?」
「んー……そうですね。ちょっと暑いですしね」






【新天円香】






あと少し……。
あと少しで……ッ!


(ガチャッ)


「え?ガッチャ?」
それに驚いて、目を開け勇人くんから少し離れます。
もう少しだったのにぃ。
「円香、安心して。決闘者デュエリストはここにはいないよ」


「んータイミング悪かった?」
子気味良い音を立てて開いたドアの向こうには苦笑いを浮かべる金霧先輩とニタァっと頬を釣り上げる真結の姿がありました。

「非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く