俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい
狂人の牙
『ピピピ!ピピピ!』
「……」
『ピピピ!ピピピ!』
「……」
『ピピピ!ピピピ!』
「……うっさい」
『ピピピ!ピピピ!』
「うっさい」
『ピピピ!ピピピ!』
「こいつ……!」
『ピピピ!ピ『パァン!』……』
ぶっ壊してやろうかこの目覚まし時計。
おい、人間様を舐めるんじゃねえぞ。俺達がその気になれば目覚まし時計など一瞬で滅ぼせると知れ。
……。
「……」
おはようございます。目覚まし時計の猛攻に耐えきれず少し乱暴にアラームを止めてしまった。
「……眠い」
寝癖でぴょこっと跳ねてしまっている髪の毛の一束を弄りながら欠伸をする。
今日は土曜日。中学校の同窓会の日だ。竜崎を殴り飛ばして一週間近くが経ったが、未だ音沙汰はない。まぁないにこしたことはないからな。
同窓会は17時から、駅の通りにある飲食店で行われる。現在時刻は朝の9時。
「8時間か」
何しよう。
……。
「寝るか」
眠気に敗北を喫した俺は二度寝の闇へと引き摺られていった。人間たるもの睡眠は欠かせないのだ。
*               *                 *
「ん、本当に付いていかなくていい?」
「うん、大丈夫だよ」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
時刻は16時を少し過ぎたといったところ。
俺は今、玄関先にて同窓会に着いて来たがるソフィを宥めている。
ソフィア・マルティス。彼女は俺の身辺を警護してくれる男性特別侍衛官、通称SBMと呼ばれる超エリートだ。主に学校の行き帰りなどに同行してもらっている。
今から贖罪の機会である同窓会に行くわけだが、ソフィは置いていこうと考えている。勿論今回の同窓会に危険がないわけではないのだが、護衛を付けて行くのはカッコ悪いと思ったのだ。同窓会に、中学校に関係ない人を連れていくのにも抵抗があるしね。
「……ん、分かった。ご主人様がそう言うなら。気を付けて」
「うん、ありがとうソフィ。行ってきます」
渋るソフィだったが、なんとか説得出来たようだ。俺は家を後にする。
ちなみに母さんや姉さん、心愛にはもう同窓会に行く旨は伝えてある。ソフィは俺の事を心配して少しだけ着いてきてしまったのだ。可愛いのう。
「……同窓会か」
今から向かう先に何が待ち受けているのか。知らない人ばかりの同窓会がどう言ったものになるのか。様々な不安要素が思い出され少し気分が沈んでいると。
「……んん?」
何か……。
「……」
違和感のようなものを感じとった俺はすぐ様後ろを振り向く。……気の所為かもしれない。何かどことなく粘っこい雰囲気?みたいな。
言うなれば、シャンプーをしている時に後ろに気配を感じてしまった時みたいな感じだ。
「……って、それ絶対気の所為だろ」
後ろに気配を感じて実際に何か居たことなんて1度もないわけで。俺はそういう達人でもないし、気の所為以外の何物でもないのだ。
恐らく同窓会の直前でナーバスになっているのだろう。
遅刻なんてしたらイメージ悪いし誰よりも早く会場に着いてやるぞ。
俺は少し足早に歩を進めた。
*            *            *
一体なんなんだ?
「はぁ、はぁ」
早歩き……いや、むしろ小走りのようなスピードで俺は移動していた。部活で体力をつけているにも関わらず、少し移動しただけで何故か息は切れ汗が吹き出していた。
おかしい。おかしい。
あの例の粘っこいモノが離れてくれない。振り払っても振り払っても嫌な雰囲気が粘り強くまとわりついてくる。
つけられている?
俺がそう思うまでに時間はかからなかった。それ以外考えられない。
俺はこの世界では希少な男性であり、かなりのイケメン。その境遇から、女の子に後を尾行されるなどもはや日常茶飯事だ。その度にこの体の身体能力のスペックを生かし、女の子達を撒いてきた。だけど、今回は……。
視線だ。
ネバネバした。
決して逃れられないとそう感じてしまうほどに。圧倒的な存在感と不快感。
それなのに、その人物の姿が全く見えない。
気の所為で片付けたい。しかしこれは流石に……。今までの女の子達とは違い、随分と熱心なファンのようだ。
同窓会があるのだ。早めに撒かないとまずいぞ。
というより今この場所はダメだな。この高架下は人気が無さ過ぎて撒こうにも撒けない。もう少し人通りが多い道に入って、人混みを利用しないと。
そう思考した俺は、少し遠回りになってしまうが人通りの多い商店街へと足を向けた。
その時。
「ぁ"……」
目の前で爆発が起こったかと思った。
凄まじい衝撃で視界がスパークして、何も見えない。視界は真っ白。自分が立っているかどうかも分からない。ひとつ知覚出来るのは、耳が甲高い『キィイイン』という音に支配されていること。
訳が分からない。
「……ぁぐ」
一瞬のスパーク。気が付くと俺はゴツゴツした冷たいコンクリートの上に倒れ伏していた。口の中に砂利が入り込む。
は?
何だ?
状況が掴めない。
壮絶な混乱。しかし現実は俺の理解を待ってはくれない。
「……ぅあ"」
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い!
正に激痛。後頭部の一部が焼かれるように痛い。バーナーでじっくりと炙られているような。凄まじい痛み。
それなのに体が動かない。地面を転げ回りたい衝動に駆られるのに、体が動かない。
「……ぐぁ、あ"」
声にならない悲鳴を上げる。
意識が飛びそうだ。
何なんだこれは。一体何が起きている?
全く分からない。
とにかく痛い。痛い。
「あはっ!ダーリン痛そう〜!」
は?
そんな時、辛うじて機能している耳から異常な程軽快な声が聞こえてきた。
「やっと逢えたねダーリン!凛海はずっとこの時を夢見ていました♪」
誰だこの人は。
いや誰でもいい、助けてくれ。頭が痛い。
「……あれ?ちゃんと生きてる?死んじゃったらやだよ?」
なんなんだこいつ。もしかして俺の幻聴か?明らかに異常だ。
心底楽しそうに、こちらへ問い掛けてくる声。朦朧とした意識の中俺は目線だけを声の方向へ向ける。
意識が朧気なせいで得られる情報は少ない。
先端に赤い液体がついたスパナ。
顔はまではよく見えないがボサボサの長髪。
水色を基調として黄色の水玉で模様付されたスニーカー。
足元には……飛び散った?赤い液体。
……。
こいつ……!!
「……ぉまえ」
俺の血だ。
スパナの先端に付着した液体は。足元に飛び散っている液体は。
なんてことは無い。俺はこいつにスパナで殴り付けられたのだ。目の前で爆発が起こったと錯覚したのは、殴られた衝撃か。
もしかして俺のあとをつけていたのはこいつか?
「……お?」
火事場の馬鹿力とはこのこと。先程まで指一本動かせなかった俺だが、犯人を前にしてようやく体を起こす。
「……はぁ"、なんで……」
なんでこんな事をしたのか。怒りよりも先に疑問が湧く。
答えて欲しい。願いを込めてその人物がスパナを持つ右腕を掴む。
「ん〜?なんで?なんでかぁ。そりゃあ、ダーリン、君は凛海の物だから。何してもいいでしょ?」
絶句。
一体なんなんだこいつは。俺はいつこいつの物になったんだ。
「……うぐ」
頭が痛い。まだ焼かれるような痛みが持続している。あとどれだけ意識を保てるか。心無しか痛みが増しているような錯覚さえ覚える。
「ほらほら、いつまでもそうしてちゃ動けないでしょ」
そう言って自らの右腕を掴む俺の手を剥がす。
「さ、家に帰ろ!ダーリン♪」
「……ッ!?」
ヒョイっと俺の体を持ち上げ肩に担ぎ歩き出す。
何者だこいつ。俺の体重は60キロ。間違ってもこんな子犬みたいに扱えるような重量ではない。ましてやこいつは女性。有り得ない。
「ま……!どこべ……」
『待って!何処へ行くんだ?』
そう問いを投げられる程俺の体力はもう残っておらず。
「ふんっ♪ふふふんふふふん♪ふふふん♪ふふふん♪ふんっ♪ふふふんふふふん♪ふっふっふーふふんっ♪」
異様に不気味な鼻声を耳に、俺は辛うじて保っていた意識を手放した。
「……」
『ピピピ!ピピピ!』
「……」
『ピピピ!ピピピ!』
「……うっさい」
『ピピピ!ピピピ!』
「うっさい」
『ピピピ!ピピピ!』
「こいつ……!」
『ピピピ!ピ『パァン!』……』
ぶっ壊してやろうかこの目覚まし時計。
おい、人間様を舐めるんじゃねえぞ。俺達がその気になれば目覚まし時計など一瞬で滅ぼせると知れ。
……。
「……」
おはようございます。目覚まし時計の猛攻に耐えきれず少し乱暴にアラームを止めてしまった。
「……眠い」
寝癖でぴょこっと跳ねてしまっている髪の毛の一束を弄りながら欠伸をする。
今日は土曜日。中学校の同窓会の日だ。竜崎を殴り飛ばして一週間近くが経ったが、未だ音沙汰はない。まぁないにこしたことはないからな。
同窓会は17時から、駅の通りにある飲食店で行われる。現在時刻は朝の9時。
「8時間か」
何しよう。
……。
「寝るか」
眠気に敗北を喫した俺は二度寝の闇へと引き摺られていった。人間たるもの睡眠は欠かせないのだ。
*               *                 *
「ん、本当に付いていかなくていい?」
「うん、大丈夫だよ」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
時刻は16時を少し過ぎたといったところ。
俺は今、玄関先にて同窓会に着いて来たがるソフィを宥めている。
ソフィア・マルティス。彼女は俺の身辺を警護してくれる男性特別侍衛官、通称SBMと呼ばれる超エリートだ。主に学校の行き帰りなどに同行してもらっている。
今から贖罪の機会である同窓会に行くわけだが、ソフィは置いていこうと考えている。勿論今回の同窓会に危険がないわけではないのだが、護衛を付けて行くのはカッコ悪いと思ったのだ。同窓会に、中学校に関係ない人を連れていくのにも抵抗があるしね。
「……ん、分かった。ご主人様がそう言うなら。気を付けて」
「うん、ありがとうソフィ。行ってきます」
渋るソフィだったが、なんとか説得出来たようだ。俺は家を後にする。
ちなみに母さんや姉さん、心愛にはもう同窓会に行く旨は伝えてある。ソフィは俺の事を心配して少しだけ着いてきてしまったのだ。可愛いのう。
「……同窓会か」
今から向かう先に何が待ち受けているのか。知らない人ばかりの同窓会がどう言ったものになるのか。様々な不安要素が思い出され少し気分が沈んでいると。
「……んん?」
何か……。
「……」
違和感のようなものを感じとった俺はすぐ様後ろを振り向く。……気の所為かもしれない。何かどことなく粘っこい雰囲気?みたいな。
言うなれば、シャンプーをしている時に後ろに気配を感じてしまった時みたいな感じだ。
「……って、それ絶対気の所為だろ」
後ろに気配を感じて実際に何か居たことなんて1度もないわけで。俺はそういう達人でもないし、気の所為以外の何物でもないのだ。
恐らく同窓会の直前でナーバスになっているのだろう。
遅刻なんてしたらイメージ悪いし誰よりも早く会場に着いてやるぞ。
俺は少し足早に歩を進めた。
*            *            *
一体なんなんだ?
「はぁ、はぁ」
早歩き……いや、むしろ小走りのようなスピードで俺は移動していた。部活で体力をつけているにも関わらず、少し移動しただけで何故か息は切れ汗が吹き出していた。
おかしい。おかしい。
あの例の粘っこいモノが離れてくれない。振り払っても振り払っても嫌な雰囲気が粘り強くまとわりついてくる。
つけられている?
俺がそう思うまでに時間はかからなかった。それ以外考えられない。
俺はこの世界では希少な男性であり、かなりのイケメン。その境遇から、女の子に後を尾行されるなどもはや日常茶飯事だ。その度にこの体の身体能力のスペックを生かし、女の子達を撒いてきた。だけど、今回は……。
視線だ。
ネバネバした。
決して逃れられないとそう感じてしまうほどに。圧倒的な存在感と不快感。
それなのに、その人物の姿が全く見えない。
気の所為で片付けたい。しかしこれは流石に……。今までの女の子達とは違い、随分と熱心なファンのようだ。
同窓会があるのだ。早めに撒かないとまずいぞ。
というより今この場所はダメだな。この高架下は人気が無さ過ぎて撒こうにも撒けない。もう少し人通りが多い道に入って、人混みを利用しないと。
そう思考した俺は、少し遠回りになってしまうが人通りの多い商店街へと足を向けた。
その時。
「ぁ"……」
目の前で爆発が起こったかと思った。
凄まじい衝撃で視界がスパークして、何も見えない。視界は真っ白。自分が立っているかどうかも分からない。ひとつ知覚出来るのは、耳が甲高い『キィイイン』という音に支配されていること。
訳が分からない。
「……ぁぐ」
一瞬のスパーク。気が付くと俺はゴツゴツした冷たいコンクリートの上に倒れ伏していた。口の中に砂利が入り込む。
は?
何だ?
状況が掴めない。
壮絶な混乱。しかし現実は俺の理解を待ってはくれない。
「……ぅあ"」
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い!
正に激痛。後頭部の一部が焼かれるように痛い。バーナーでじっくりと炙られているような。凄まじい痛み。
それなのに体が動かない。地面を転げ回りたい衝動に駆られるのに、体が動かない。
「……ぐぁ、あ"」
声にならない悲鳴を上げる。
意識が飛びそうだ。
何なんだこれは。一体何が起きている?
全く分からない。
とにかく痛い。痛い。
「あはっ!ダーリン痛そう〜!」
は?
そんな時、辛うじて機能している耳から異常な程軽快な声が聞こえてきた。
「やっと逢えたねダーリン!凛海はずっとこの時を夢見ていました♪」
誰だこの人は。
いや誰でもいい、助けてくれ。頭が痛い。
「……あれ?ちゃんと生きてる?死んじゃったらやだよ?」
なんなんだこいつ。もしかして俺の幻聴か?明らかに異常だ。
心底楽しそうに、こちらへ問い掛けてくる声。朦朧とした意識の中俺は目線だけを声の方向へ向ける。
意識が朧気なせいで得られる情報は少ない。
先端に赤い液体がついたスパナ。
顔はまではよく見えないがボサボサの長髪。
水色を基調として黄色の水玉で模様付されたスニーカー。
足元には……飛び散った?赤い液体。
……。
こいつ……!!
「……ぉまえ」
俺の血だ。
スパナの先端に付着した液体は。足元に飛び散っている液体は。
なんてことは無い。俺はこいつにスパナで殴り付けられたのだ。目の前で爆発が起こったと錯覚したのは、殴られた衝撃か。
もしかして俺のあとをつけていたのはこいつか?
「……お?」
火事場の馬鹿力とはこのこと。先程まで指一本動かせなかった俺だが、犯人を前にしてようやく体を起こす。
「……はぁ"、なんで……」
なんでこんな事をしたのか。怒りよりも先に疑問が湧く。
答えて欲しい。願いを込めてその人物がスパナを持つ右腕を掴む。
「ん〜?なんで?なんでかぁ。そりゃあ、ダーリン、君は凛海の物だから。何してもいいでしょ?」
絶句。
一体なんなんだこいつは。俺はいつこいつの物になったんだ。
「……うぐ」
頭が痛い。まだ焼かれるような痛みが持続している。あとどれだけ意識を保てるか。心無しか痛みが増しているような錯覚さえ覚える。
「ほらほら、いつまでもそうしてちゃ動けないでしょ」
そう言って自らの右腕を掴む俺の手を剥がす。
「さ、家に帰ろ!ダーリン♪」
「……ッ!?」
ヒョイっと俺の体を持ち上げ肩に担ぎ歩き出す。
何者だこいつ。俺の体重は60キロ。間違ってもこんな子犬みたいに扱えるような重量ではない。ましてやこいつは女性。有り得ない。
「ま……!どこべ……」
『待って!何処へ行くんだ?』
そう問いを投げられる程俺の体力はもう残っておらず。
「ふんっ♪ふふふんふふふん♪ふふふん♪ふふふん♪ふんっ♪ふふふんふふふん♪ふっふっふーふふんっ♪」
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めんたま
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