俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい
聖母
「早く!早く!早くしないとジンちゃんの出番に間に合わないよ!?」
「え、そんなわけないじゃん!そういうことが起きないようにこうして早めに準備して……」
「早くするのー!!!」
「「えぇ……」」
私の娘である長女の茄林と次女の心愛が面倒臭そうに声を出す。
ほんとに!わかってないんだから!
電車が事故で止まるかもしれない!何かの都合上ジンちゃんの出番が早まるかもしれない!あらゆる事態を想定して行動するべきなの。はぁあ、愛すべきジンちゃん。可愛いよ。帰ってきたらジンちゃんの汗だくの下着をくんかくんかしてから手洗いしよう。密かなマイブームだ。
「ママはお兄ちゃんのことになったら妥協しないね……」
「そうね……」
ふふん。当たり前。ジンちゃんは私の全てであり生きる糧であり愛する人なのだ。ジンちゃんジンちゃんジンちゃん。早く子供産みたい!!
「うへ……うへへへ」
((だめだこりゃ))
*            *             *
「さ!着いたよ!!」
あの後、我が娘達を急かしに急かし続けた。そのおかげか予定よりも早く準備がすんだためこれ幸いと車を走らせ、そして今!会場へと到着したのだ。
やっぱりと言うべきか、野次馬がかなり多いみたい。早く席取らなきゃ。
ジンちゃんのあまりのかっこよさのため、会場には入場規制がかかっている。しかし、私達家族は『関係者』なので、会場の入口に立つ警備員さんに身分証明書を提示する。
「はい、出場者の御家族の方々ですね。えっと……前原…柚香様。……。まえ……はら?前原!?」
身長180センチはあろうかという、大きな体付きの警備員さんが声を荒らげながら私に迫ってきた。……あなたの大きなおっぱい当たってますよ。
「前原というと……その、前原仁様の御家族でしょうか?」
くっ……この警備員もジンちゃんを狙ってるのか!?ジンちゃんは渡しませんからね!
というか、一警備員が素性を詮索していいの?
「……ええまあ、そうですね。私がジンちゃ……仁の母です」
「そ、そうでしたか……。貴方があの聖母様。前原仁様という素晴らしい御方を御育て下さった恩は皆感謝しております。誠にありがとうございます」
暖かな涙を流しながら、警備員さんは帽子を脱ぎ頭を下げた。それは正しく、かの聖母マリアを眼前にしたようだ。
……。
「はい?」
えっと……。
「はい?」
あ、混乱して同じ事言っちゃった!少しずつ整理しよう。今この人なんて言った?せいぼ?歳暮?あーお歳暮?今は夏だからお中元ですよ?お歳暮はもっと寒くなってから……
「し、失礼しましたお見苦しいところを。では、お通り下さい聖母様」
「ちょっと待ってぇえ!!」
言ったもん!今絶対『聖母様』って言ったもん!聞き間違えてないもん!
「ママって聖母だったんだねぇ」
「そうよ、お母さんは聖母なの」
娘達がなんかすごく受け入れている!私も『ちょっと……いいかも』なんて思っちゃったのは秘密!!
「あ、あの。聖母様とは一体?」
しかし、これを聞かずにはいられない。いや、何となく分かるんだけどきちんと説明して欲しい。
「はい、あなた様は偉大なるお方です。神たる仁様を出産なさった柚香様は正しくこの世の起源。故に聖母様。そう、ファンクラブサイトに記載されております」
「ふ、ふ〜ん。そうですか。まあジンちゃんですし?私から産まれたとか未だに信じられないような可愛くてカッコよくて良い匂いのする子ですし?私が聖母様っていうのも納得って感じかな?」
「(ママ、ちょっと調子に乗ってるねお姉ちゃん)」
「(そうね、少しニヤついてるし聖母様扱いが嬉しかったのかもね)」
ふふん!そう、私は聖母。なんてったって、ジンちゃんのママだからね!
さ、張り切ってジンちゃんの応援に向かおう!!
思いがけず少し嬉しい情報を入手してしまった私は、スキップでも始めそうな程軽快な足取りで会場へと足を進めるのだった。
*           *            *
「人多いなぁ」
私達が会場に着くと、そこは観客で埋め尽くされていた。満員という言葉が生温く感じられる程に、人々が圧縮されている。
嫌な予感がして、必死に首を振り辺りを見渡すも当然ながら席などどこにも空いていない。
こ、これは……!恐れていた事態である。
「……見る場所なさそうだよ」
「非常にまずいね……」
ミンミンと騒がしいセミの鳴き声が強くなった気がする。気になっていなかった猛暑が、今になってぶり返してくる。
「「「……」」」
どうしよう。
ジンちゃんの勇姿を見ることは叶わないの?誰か席譲ってくれないだろうか。
このような事態にならないように早くに家を出たというのに。結局はこうなってしまうのか。
「はぁ……」
項垂れ、諦めかけていたその時。
「あ、あれ!前原君のご家族じゃないですか!」
弾けるような声が私達にかけられた。
「ほぇ?」
傍から見ればさぞ間抜けな声をしていたと思う。まぁ意気消沈していたので許して欲しい。
ジンちゃんの大会を見に来る知り合いなんていたかな……。
「あ、足立さん!」
ちぎれんばかりに腕をこちらに振っているあの小動物……もとい小柄な人物は、スポーツライターの足立蘭さん。ジンちゃんが掲載された、月刊スポーツ男子の記者さんだ。
この前の大会で少し挨拶した程度の関係だったが、覚えてくれていたみたい。
「お久しぶりですっ!」
「お久しぶりです。その節は、うちのジンちゃんをカッコ可愛く撮って下さってありがとうございました」
「あ〜いえいえっ!それが私達の仕事ですからね!撮ったのは私じゃないですし……」
この人がここにいるということは、また取材かな?あ、よく見たら観客席の至る所にカメラマンさんがいる!上等そうなカメラだ。いかにもプロ!って感じ。場所がバラバラってことは、あの人たちは足立さんとは別の会社でライバル企業ってことかな?
入場規制がかかってたと思うんだけど、記者さんは規制外みたい。
「足立さんは本日も取材ですか?」
まぁ当たり前のことだけど、社交辞令として聞いておく。
「そうですっ!でもせっかく席とったのに同僚が熱中症でダウンして来られないらしいですし、前原君の影響が凄すぎて他の記者も来てるし散々ですよ〜」
……なんですと?
今聞き捨てならないことを言いましたね?
「席を……とっておられるのですか?」
「え?あ、はい。同僚の分とあと機材を置く分で3つほど」
こ、これは!!
茄林と心愛と目を合わせて頷き合う。彼女たちも分かっているのだ。ここが勝負どころである、と。逃す手はない。
「あのぅ。もし宜しければなんですけど、その3つの席を譲っていただくことは出来ますか……?」
出来るだけ腰を低くして言ってみました。
「あぁ、なんで出入口で立ってるのかと思ってたんですけどそういう事でしたか!どうぞとうぞ!是非お使いくださいっ!機材なんてその辺の床にぽーいっとしておきますので!」
っし!!ジンちゃん!!ママやったよ!御褒美に帰ったら下着はむはむしてもいいかな!?いいよね!?
というか足立さん聖母!私なんかじゃなく足立さんが聖母だよ!
「ありがとうございます!!」
「「ありがとうございます」」
私たちは誠心誠意お礼を述べ、聖母たる足立さんの寛大なお心に感謝するのだった。
*           *             *
足立さんとジンちゃんの美しさについて語り合っていると大会開始の時刻になった。それまでは少し喧騒に包まれていた会場だが、最初の選手が入場した瞬間静寂が台頭する。
うぅ。もう少しジンちゃんがお風呂に入った後の残り湯について話したかった……。
ジンちゃん達、春蘭高校の出番は中盤だったはず。その時まで待ち遠しいが、今は高校生達の青春を見守ろうではないか。
……なんか目線がオバサンになってきてる。
「(次、いよいよ前原君の高校の番ですね)」
2時間ほどたっただろうか。隣に座る足立さんが小声で話しかけて来た。
もちろん、把握している。
「(はい、楽しみです)」
ジンちゃんはこの前の大会で圧倒的な成績で優勝している。今回の注目選手なのだ。そのためか、少し会場の空気がピリついた気がする。
……いや、違った。それもあるかもしれないけど、ただ単に超絶美少年の出番なので観客席の女性達が野獣の目になっているだけだった。
ジンちゃんが入場する。
相変わらず本気のジンちゃんの顔は引き締まってて、鳥肌が立つほどの気合が伝わってくる。普段の優しいジンちゃんとは似ても似つかないけど、そんな姿も好き。
頑張れジンちゃん。
祈るように両手を握り、目をぎゅっと瞑る。頑張ってきたあの子がどうか報われますように。
「え、そんなわけないじゃん!そういうことが起きないようにこうして早めに準備して……」
「早くするのー!!!」
「「えぇ……」」
私の娘である長女の茄林と次女の心愛が面倒臭そうに声を出す。
ほんとに!わかってないんだから!
電車が事故で止まるかもしれない!何かの都合上ジンちゃんの出番が早まるかもしれない!あらゆる事態を想定して行動するべきなの。はぁあ、愛すべきジンちゃん。可愛いよ。帰ってきたらジンちゃんの汗だくの下着をくんかくんかしてから手洗いしよう。密かなマイブームだ。
「ママはお兄ちゃんのことになったら妥協しないね……」
「そうね……」
ふふん。当たり前。ジンちゃんは私の全てであり生きる糧であり愛する人なのだ。ジンちゃんジンちゃんジンちゃん。早く子供産みたい!!
「うへ……うへへへ」
((だめだこりゃ))
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「さ!着いたよ!!」
あの後、我が娘達を急かしに急かし続けた。そのおかげか予定よりも早く準備がすんだためこれ幸いと車を走らせ、そして今!会場へと到着したのだ。
やっぱりと言うべきか、野次馬がかなり多いみたい。早く席取らなきゃ。
ジンちゃんのあまりのかっこよさのため、会場には入場規制がかかっている。しかし、私達家族は『関係者』なので、会場の入口に立つ警備員さんに身分証明書を提示する。
「はい、出場者の御家族の方々ですね。えっと……前原…柚香様。……。まえ……はら?前原!?」
身長180センチはあろうかという、大きな体付きの警備員さんが声を荒らげながら私に迫ってきた。……あなたの大きなおっぱい当たってますよ。
「前原というと……その、前原仁様の御家族でしょうか?」
くっ……この警備員もジンちゃんを狙ってるのか!?ジンちゃんは渡しませんからね!
というか、一警備員が素性を詮索していいの?
「……ええまあ、そうですね。私がジンちゃ……仁の母です」
「そ、そうでしたか……。貴方があの聖母様。前原仁様という素晴らしい御方を御育て下さった恩は皆感謝しております。誠にありがとうございます」
暖かな涙を流しながら、警備員さんは帽子を脱ぎ頭を下げた。それは正しく、かの聖母マリアを眼前にしたようだ。
……。
「はい?」
えっと……。
「はい?」
あ、混乱して同じ事言っちゃった!少しずつ整理しよう。今この人なんて言った?せいぼ?歳暮?あーお歳暮?今は夏だからお中元ですよ?お歳暮はもっと寒くなってから……
「し、失礼しましたお見苦しいところを。では、お通り下さい聖母様」
「ちょっと待ってぇえ!!」
言ったもん!今絶対『聖母様』って言ったもん!聞き間違えてないもん!
「ママって聖母だったんだねぇ」
「そうよ、お母さんは聖母なの」
娘達がなんかすごく受け入れている!私も『ちょっと……いいかも』なんて思っちゃったのは秘密!!
「あ、あの。聖母様とは一体?」
しかし、これを聞かずにはいられない。いや、何となく分かるんだけどきちんと説明して欲しい。
「はい、あなた様は偉大なるお方です。神たる仁様を出産なさった柚香様は正しくこの世の起源。故に聖母様。そう、ファンクラブサイトに記載されております」
「ふ、ふ〜ん。そうですか。まあジンちゃんですし?私から産まれたとか未だに信じられないような可愛くてカッコよくて良い匂いのする子ですし?私が聖母様っていうのも納得って感じかな?」
「(ママ、ちょっと調子に乗ってるねお姉ちゃん)」
「(そうね、少しニヤついてるし聖母様扱いが嬉しかったのかもね)」
ふふん!そう、私は聖母。なんてったって、ジンちゃんのママだからね!
さ、張り切ってジンちゃんの応援に向かおう!!
思いがけず少し嬉しい情報を入手してしまった私は、スキップでも始めそうな程軽快な足取りで会場へと足を進めるのだった。
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「人多いなぁ」
私達が会場に着くと、そこは観客で埋め尽くされていた。満員という言葉が生温く感じられる程に、人々が圧縮されている。
嫌な予感がして、必死に首を振り辺りを見渡すも当然ながら席などどこにも空いていない。
こ、これは……!恐れていた事態である。
「……見る場所なさそうだよ」
「非常にまずいね……」
ミンミンと騒がしいセミの鳴き声が強くなった気がする。気になっていなかった猛暑が、今になってぶり返してくる。
「「「……」」」
どうしよう。
ジンちゃんの勇姿を見ることは叶わないの?誰か席譲ってくれないだろうか。
このような事態にならないように早くに家を出たというのに。結局はこうなってしまうのか。
「はぁ……」
項垂れ、諦めかけていたその時。
「あ、あれ!前原君のご家族じゃないですか!」
弾けるような声が私達にかけられた。
「ほぇ?」
傍から見ればさぞ間抜けな声をしていたと思う。まぁ意気消沈していたので許して欲しい。
ジンちゃんの大会を見に来る知り合いなんていたかな……。
「あ、足立さん!」
ちぎれんばかりに腕をこちらに振っているあの小動物……もとい小柄な人物は、スポーツライターの足立蘭さん。ジンちゃんが掲載された、月刊スポーツ男子の記者さんだ。
この前の大会で少し挨拶した程度の関係だったが、覚えてくれていたみたい。
「お久しぶりですっ!」
「お久しぶりです。その節は、うちのジンちゃんをカッコ可愛く撮って下さってありがとうございました」
「あ〜いえいえっ!それが私達の仕事ですからね!撮ったのは私じゃないですし……」
この人がここにいるということは、また取材かな?あ、よく見たら観客席の至る所にカメラマンさんがいる!上等そうなカメラだ。いかにもプロ!って感じ。場所がバラバラってことは、あの人たちは足立さんとは別の会社でライバル企業ってことかな?
入場規制がかかってたと思うんだけど、記者さんは規制外みたい。
「足立さんは本日も取材ですか?」
まぁ当たり前のことだけど、社交辞令として聞いておく。
「そうですっ!でもせっかく席とったのに同僚が熱中症でダウンして来られないらしいですし、前原君の影響が凄すぎて他の記者も来てるし散々ですよ〜」
……なんですと?
今聞き捨てならないことを言いましたね?
「席を……とっておられるのですか?」
「え?あ、はい。同僚の分とあと機材を置く分で3つほど」
こ、これは!!
茄林と心愛と目を合わせて頷き合う。彼女たちも分かっているのだ。ここが勝負どころである、と。逃す手はない。
「あのぅ。もし宜しければなんですけど、その3つの席を譲っていただくことは出来ますか……?」
出来るだけ腰を低くして言ってみました。
「あぁ、なんで出入口で立ってるのかと思ってたんですけどそういう事でしたか!どうぞとうぞ!是非お使いくださいっ!機材なんてその辺の床にぽーいっとしておきますので!」
っし!!ジンちゃん!!ママやったよ!御褒美に帰ったら下着はむはむしてもいいかな!?いいよね!?
というか足立さん聖母!私なんかじゃなく足立さんが聖母だよ!
「ありがとうございます!!」
「「ありがとうございます」」
私たちは誠心誠意お礼を述べ、聖母たる足立さんの寛大なお心に感謝するのだった。
*           *             *
足立さんとジンちゃんの美しさについて語り合っていると大会開始の時刻になった。それまでは少し喧騒に包まれていた会場だが、最初の選手が入場した瞬間静寂が台頭する。
うぅ。もう少しジンちゃんがお風呂に入った後の残り湯について話したかった……。
ジンちゃん達、春蘭高校の出番は中盤だったはず。その時まで待ち遠しいが、今は高校生達の青春を見守ろうではないか。
……なんか目線がオバサンになってきてる。
「(次、いよいよ前原君の高校の番ですね)」
2時間ほどたっただろうか。隣に座る足立さんが小声で話しかけて来た。
もちろん、把握している。
「(はい、楽しみです)」
ジンちゃんはこの前の大会で圧倒的な成績で優勝している。今回の注目選手なのだ。そのためか、少し会場の空気がピリついた気がする。
……いや、違った。それもあるかもしれないけど、ただ単に超絶美少年の出番なので観客席の女性達が野獣の目になっているだけだった。
ジンちゃんが入場する。
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コメント
Qual
更新待ってました!!今月中にもう一本お願いします(*^^*)
帆楼
ホントに面白いです!!次も首を長くして待ってます!
ペンギン
待ってましたー!ありがとうございます!次回の更新も楽しみにしてます!これからも、頑張ってください!応援しています!