俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい

めんたま

思い掛けない遭遇×2

「ふぅ…中々貴重な体験をさせてもらった」

腕で顔を伝う汗を拭いつつそう呟く。
今の時刻は午後3時と言ったところ。まだ気温が下がる気配は微塵もない。
それにしても暑い。まあ間も無く学校も夏休みに入るという時期なので当たり前と言えば当たり前なのだけど。…そろそろ定期試験の勉強も始めないと。


こんにちは、前原仁です。
神崎家で莉央ちゃんと萌陽さんと親交を深め合った俺は、現在帰路についている。予定ではもう少し遊ぶはずだったのだが、俺が乳圧呼吸困難によりダウンしてしまうというハプニングがあったため、彼女たちが俺の身を案じてくれ早めに帰るように言われたのだ。其処まで言われてしまってはこちらとしても反論することは出来ず、大人しくお暇させてもらった。

「…」

目を細めながら、容赦なくこの町一帯を照りつける太陽を見やる。
そして、思い出すのだ。

あの柔らかさを。あの大きさを。あの温かさを。

数十秒ほど前に呟いた独り言の、貴重な体験とは正に乳圧臨死体験の事である。
世界中を探し回ってもおっぱいで死に掛けた人はそうはいまい。あれは苦しく辛い経験だった。しかし、それを上回る程の幸福感を確かに俺は感じているのだ。

「ふふふ」

そんな馬鹿なことを考えながら、俺が端から見たら不審者認定請け合いの形相で笑みをこらえていると。


「あれっ!仁だ!」

パッと花が咲いたような声が前方から聞こえてきた。明るく、綺麗で、こちらまで元気になってしまいそうな声色である。

おっ、この声はあの人か。
こんな所で遭遇するとは奇遇だ。

太陽から目線を外し、其処にいるであろう人物を予想しながら顔を向ける。

「こんにちは、すみれ先輩」

「えへへっ!こんにちは!」

うん、思った通り今俺の数メートル程前で弾けんばかりの笑顔を見せてくれているこの女の子は、2年生の弓道部の先輩である片岡すみれ先輩だ。

「こんな場所で会うなんて珍しいです」

「だね!確か仁の家この辺りだったっけ?私は習い事があって、今その帰りなんだ〜」

「ああそういう事ですか。僕も今帰りなんですよ。折角ですし途中まで一緒に帰りませんか?」

「もちろん!!えへへ」

という事で、帰路を共にする事になった。
…そういえばすみれ先輩と2人きりになるのは久しぶりかもしれない。すみれ先輩は中川楓先輩や田島奈々先輩といる事が多いし、俺も莉央ちゃんや美沙といる事が多い。2人きりになるタイミングがほとんど無いのだ。
だからその分今から沢山話すことができたらいいな、と思う。


「仁は何の帰りだったの?」

「僕は莉央ちゃん…クラスメートの子と遊んだ帰りですね」

2人並んで歩き出す。
すみれ先輩はそれ程身長が高くなく、歩幅が狭い方なので俺もそれに合わせ少しゆっくり目に調節する。

「莉央ちゃんって…あぁ神崎さん!仁あの子と仲良いもんね〜」

「あれ?すみれ先輩、莉央ちゃんの事ご存知なんですか?」

2人に接点はあっただろうか?共通点と言えば…うーん、『俺』くらいしか思い浮かばないな。学年も部活も違うしなあ。

「知ってるよ!私達中学校が同じだったんだよ〜」

「えっ!そうだったんですか。それは知りませんでした」

確かに中学校なら高校よりも人数は少ないため、学年は違えども多少なり交流があるのは頷ける話だ。
そうか、莉央ちゃんとすみれ先輩がねえ。思わぬ所で縁があるものである。
中学校が同じ…中学校が…うん?

あ、という事は。

「すみれ先輩」

「うん、どうしたの?」

「中学校の時、すみれ先輩の1つ下の学年にとても顔の整った男子生徒がいませんでしたか?」

そう、ちょうどさっき莉央ちゃんの家で見た中学校の卒業アルバム。それに写っていたイケメン君の事を思い出したのだ。確か俺や桐生先輩とはタイプが違う、俗に言うオラオラ系だったはず。
この世界に存在する数少ないイケメン。同じイケメンとして興味が出てくるのは仕方の無いことだろう。
莉央ちゃんに例のイケメン君について聞いてみても、『仁くん以外の男の子の話はしたくないです!』の一点張りだったからな。ここですみれ先輩に出会ったのは僥倖だった。

「あー…いたね。名前は確か竜崎郷りゅうざきごう

「そう、その人です!実はその竜崎くんの話を聞きたいんですよ」

そこでちょうど前方の歩行者信号が赤に変わった。俺たちは横断道路の手前で一時停止する。

「…別にいいけど、何を聞きたいの?」

…なんだ?明らかにすみれ先輩の様子が少し前と全然違う。
具体的に言うならば、何処となく不機嫌なような。いや、それも違うな。興味無さげというのが適切かもしれない。

「どうしたんです?」

何か変なことを聞いたかなと不安になった俺はそう聞いてみる。

「…私、竜崎くんちょっと苦手なんだよねー」

すみれ先輩は申し訳無さそうに苦笑いしながらそう答えた。
なぬ。そうなのか。

「そうだったんですか。それはすみません」

何故苦手なのか聞きたい気持ちは確かにあるのだが、すみれ先輩のこの反応からしてあまり竜崎くんの話題は好まないのだろう。無理矢理根掘り葉掘り聞く事はやめておく。彼の話題はここまでだ。
またいずれ他の誰かから聞けばいいことだからな。

「ごめんね?」

「いえいえ、仕方ない事ですよ」

楽しく会話したかったのだが、俺のせいで少し気まずくなってしまったな。
なんとかしてこの空気を変えなければ。
そう思い、俺は新たな話題を出すことにした。

「あ、そういえばこの前───」



「仁く〜〜んッ!!!!」

のだが、其処で俺の言葉に被せるようにある女性の大声が鼓膜を揺らした。
声量の割に声が小さく感じるのは、距離があるからだろう。

うん?誰だろう?この聞いていて心地よい美しい声は聞き覚えがある。

…あ。
まさか、あの人?あの人なのか?

「えっ、だれ?どこ?」

すみれ先輩はそう呟きながらキョロキョロと辺りを見回す。

「ここっ!ここだよ〜ッ!」

もう一度声が響く。
今度はきちんと方角まで把握することができた。
俺は声の出処であろう場所へ目を向ける。


「あっ!やっと気づいた!久しぶりだね〜!」

道路を隔て、向かい側の信号の下で大きく手を振る美しい茶髪ロングの女性がいた。風で靡く髪は一本一本がまるで芸術品のような輝きを放っている。
やっぱりこの人だったか。


…相変わらず綺麗な人だ。


「お久しぶりです!恵令奈えれなさん!」

俺も負けじと叫び返す。

あの人は近藤恵令奈さん。俺をナンパした事がある美人お姉さんだ。残念ながらナンパの時は俺に用事があったため遊ぶ事は出来なかったが、その代わり後日デートした事がある。そのデートはとても楽しかったもので、今でも時々思い出す程である。

「あははッ!相変わらずカッコいいねぇ仁くん!」

「ありがとうございます!」

道路を挟み俺たちは久しぶりの会話を交わす。本当に実際会うのはあのデートぶりのことだ。連絡はちょくちょく取り合ってはいたのだが、お互い予定が合わず二回目のデートを行う事がなかなかできなかったのだ。

…会えて嬉しいなあ。


そうシミジミと思っていると。



「…仁。あの綺麗な女の人、だれ?」

低い、それはもう低い声が地の底から湧き上がってきたような迫力を伴って聞こえてきた。

え"っ?

すみれ先輩、ですよ、ね?
かつて聞いた事がない凄烈な声だったものだから、心の中で変な声を出してしまった。
こ、怖いですよ?先輩。

「あの人大人だよね?…一体どういう関係なの?」

無表情でそう問うてくるすみれ先輩。
不穏だ。不穏すぎる。

これは…、まさか。
そうなのか?




修羅場、なのか!?

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