俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい

めんたま

憧れの先輩 後編

.....今なんて?

聞き間違い?空耳?幻聴?
...違う、確かに私は聴いた。

『前原仁くん』と。
私の憧れの人。夢にまで見た人。雲の上の人。初めて見た時の衝撃は忘れられない。
そんな人が今、この場に?信じられない。

「ウソ...でしょ...」

隣に座る凪が掠れた声でそう呟いたのが耳に届いた。ほんのさっきまでざわついていた会場も今は物音1つしない。静寂がこの場を支配した。

『さあ、前原仁くん』

頭の整理がつかない私を置いて状況はどんどん進む。
生徒会長さんがそう言って舞台の脇に向かって手招きの仕草をする。

...本当に?そこにいるんですか?前原先輩。
期待していいんですか?

心音が強くなっているのがわかる。変な汗が出そうだ。

私は目をめいいっぱい見開いて舞台の脇を注視する。お願いします、神様。前原先輩が本当にいますように。

一瞬とも永遠とも感じられる時間を経て、ついにその時が来た。

あっ...舞台の脇から人影が......。



「あ.......」

艶やかな黒髪をベースとし先端はきらやかな銀髪に染まっている。二重のキリッとした大きな目は吸い込まれそうになるほど魅力的だ。鼻筋はスラッとしており、唇は細くも太くもなく絶妙に調和している。それらが織り成すは最高の美。さらに優しげな顔立ちがその練度をさらに底上げしもはや言葉で形容できない。
あの人は....。
あの方は。

「...まえ...はら先輩」

まるで一瞬で喉が乾ききったかのように声が出なくなってしまった。
間違いない。間違えるはずなんてない。
あれは、前原先輩だ。

会場の皆んながどんな反応をしているのかは分からない。何故なら私が前原先輩から目が離せないからだ。女としての本能が、彼から視線を外すことを許可してくれない。

前原先輩は生徒会長さんからマイクを受け取る。そして姿勢を正した。

『こんにちは、春蘭高等学校説明会に参加して下さった中学校生徒の方並びにその保護者様。本日はお忙しい中、足を運んで下さり誠にありがとうございます。ご紹介に預かりました、春蘭高等学校1年1組の前原仁と申します。この度僭越ながら私が司会・進行役を務めさせて頂く事となりました。どうぞよろしくお願い申し上げます』

殺人級のスマイルを浮かべながら、右手でマイクを持ち左手を鳩尾みぞおち辺りに添え礼をする。
その姿は言うなれば幻想的。ファンタジーな世界に迷い込んだかのようだ。

カッコよすぎて泣きそう。
これ夢じゃないんだよね?私本当に実物の前原先輩を見てるんだよね?
誰か私の頬をフルスイングでぶん殴って。夢じゃない事を確信させて欲しい。
それくらい嬉しくて信じられなくてどうにかなりそう。

「なんで...前原先輩が」

潤む涙腺を必死に抑え込んでいると、隣の凪がそう言ったのが聞こえた。

確かに何故前原先輩が説明会にいるんだろう。1年生がこの時期に生徒会に入ってるって事はないだろうから一般生徒のはずだけど。

そんな疑問が頭に浮かんだ私だったが、それは直ぐに霧散した。

『お気に召して頂けたでしょうか?このサプライズは、説明会にお越し下さった皆様への感謝として計画させて頂きました。この場におられる方の中には彼、前原仁くんを慕う方も少なからず居られるかと存じます。どうぞ彼の甘い声音で、我が校の伝統、行事、学業その他の説明をお聞き下さい』

前原先輩から再度マイクを受け取った生徒会長がそう言う。
成る程。これは確かに粋なサプライズだ。
生徒会長さんグッジョブ過ぎる。
私今日が人生の絶頂かもしれない。

というかこれ本当に説明会だよね?なんか説明会というより、ライブみたいになってるのは気のせい?
....まあ前原先輩が無茶苦茶カッコイイから小さいことはいっか!

「....ちょっと私意識飛んでた」「...私も」「仁様...仁様ぁ....」「仁先輩...!?本物!?」「仁くんと結婚したいわ」「...お母さん何言ってんの?...気持ちは分かるけど」「生前原先輩、写真よりエロい」「色気ヤバイよね....」「舞台が楽園化してる」

どうやら会場のみんなも再起動し始めたようだ。色々とヤバイ人が多そうだけど、どれも同意できるものばかりなので何も言えない。
にわかに館内が騒ぎ始めた。

『ひとつ注意事項を申し上げるとすれば、前原仁くんが舞台にいるからといって、無理やり壇上に上がろうとする方や彼に向かって声を張り上げるような方がおられた場合残念ながらその方には退館して頂く場合がございます。ご注意下さいますようお願いします』

と、其処でまるで見計らったかのように生徒会長さんが注意を促す。
その注意が効いたのか、館内はまた静かな空間へと戻った。
まあ、生で前原先輩を見られるチャンスなのに退館なんて事態になれば目も当てられないし、もう誰も騒ごうとする人なんていないだろう。私も絶対に騒ぐ事はしない。というよりさっきから前原先輩をガン見しているので騒ぐ余地がないと言った方が正しいかもしれない。カッコよすぎます先輩。

『あはは...という事なので皆さん気を付けて下さいね?...それでは説明会を開始致しましょう。先ずはお手元の資料をご覧下さい」

生徒会長さんからマイクを返してもらった前原先輩がそう言う。
ちなみに生徒会長さんは脇に下がる事はなく、少し後ろで待機するようだ。

お手元の資料....。...くっ!お手元の資料をご覧になりたいのに前原先輩から視線を外す事が出来ません!どうしましょう!

『あ、あの...お手元の資料を』

先輩が困惑したようにそう言う。

えっ?もしかして私に言ってるのですか!?

と一瞬ドキっとしたのだがどうやら違うようだ。
視界の端で周りの人々を見てみると、みんながみんな前原先輩をガン見して資料を見ていない。どうやら私と同じように視線を外せないようだ。

『えっと....』

い、いけない!前原先輩がどうしていいか分からず少し焦り出している。
ダメだ、ご尊顔を記憶に焼きつけたいのは山々だけどそれで憧れの人を困らせてしまうのは本意ではない。きちんと指示に従わないと。

私は金縛りから抜け出す思いで必死に眼球を動かし、なんとか手元の資料へと目を向けた。くっ...舞台には神が遣わし天使が降り立っているのにそこから視線を外すとはなんたる苦行なのだろう。これが神が私たちに課した試練だというのか!
だが私は耐えてみせる。全ては前原先輩のためにっ!

『....よ、良かったです。少しずつ資料を見てくれる方々が出てきてくれました。それでは改めて説明会を開始したいと思います』

...良かった。ファンとして前原先輩に迷惑をかける愚行は絶対NGだ。これからはその事も念頭に置いて行動するようにしないと。

『ではまず我が校の伝統理念についてご説明します。我が校ではーーー』

ついにあの前原先輩が説明会を行うという夢のような時間が始まりを告げた。
この日の事は一生忘れないだろう。今日が人生の絶頂期である事を確信した私は、先輩の声に耳を傾けるのだった。



『ーーーでは、これをもって本日の春蘭高等学校説明会を終了とさせて頂きます。長い間お付き合い下さり誠にありがとうございました。お帰りの際はどうか事故や事件にお気をつけ下さい。では、これにて失礼致します』

一瞬だった。
前原先輩が説明会を開始したかと思えば、直ぐにそれは終わりを告げた。

早い、早過ぎる。
そんなはずなんてない、もっと前原先輩の存在を堪能したい。そう思って時計を見ると既に長針が2回転しており2時間が過ぎた事実を教えられた。

もうそんなに時間が....。どうやら先輩に夢中になりすぎて時間感覚がおかしくなっていたようだ。

「えっ!?もう!?」「私まだまだ仁くんの事....」「仁様ぁ....お別れなのですか...?」「先輩....」「行かないで...!」

参加した生徒達も皆一様に同じ反応を見せる。こうも皆の時間感覚を狂わせるとは...時空を歪ませるほどの美貌とは恐れ入ります。

....って違う!恐れ入ってる場合じゃないでしょ!
前原先輩が行っちゃう。もうしばらく会えなくなる。
『嫌だ、行かないで』そう叫びたいけど、それは先輩を困らせる発言だ。到底実行は出来ない。

説明会が始まる前生徒会長さんに注意を促されたにも関わらず、前原先輩の名前を呼ぶ参加者達も多くいるようだ。まあ既に説明会は終了したので、あの注意事項が有効かどうかは定かじゃないんだけど。私だって呼びたい。私は此処にいます!と先輩に伝えたい。

...でも、今も困ったように笑いながら手を振っている彼の姿を見ているとこれ以上負担を掛けるのはダメだと思う。

「.....ッ」

必死に唇を噛んで言葉が出ないようにしながら耐える。
次にあなたに会えるのはいつですか?もし私が春蘭高校に受からなかったら一生会えないのですか?
頭に浮かんでは消えていくそんな言葉を抑え込む。

私が葛藤している間にも先輩は歩を進める。
そしてついに先輩の体がスッと脇へと入り、姿が見えなくなった。

「あぁ....」「凛々しいお姿が...」「これが虚無感...」

これ本当に学校説明会が終わった後?と言いたくなるような反応をする生徒達。

「......」

凪も一見いつも通りの表情だが何処か物悲しげな雰囲気だ。先輩のファンであるため彼女も何か思うところがあるのだろう。

「カッコよかったあ〜」「春蘭絶対に受かる!」「仁様最高すぎます....」「今夜のオカズにさせてもらいます先輩っ!」

しかしそんな私達とは逆に、先輩と別れる事を悲しむのではなく、先輩と会えた事を喜ぶ人達も多くいるようだ。
確かにその反応が正しいのだろうとは思う。本来ならここは喜ぶべきところだ。

...それなのに、虚無感が抜けてくれない。
先輩と同じ空間にいたあの時間が満たされすぎて、彼がいない今の現状に耐えられない。なんて私は欲張りなんだろう。自分が嫌になる。

「...帰ろっか」

「...そうね」

あの憧れの人に会えた後こんなに悲しい気分になるなど、過去の私に言ったら信じられないに違いない。

前原先輩のカッコよさについて語り合う人、余韻に浸るように放心する人、悲しむ人。
様々な人が未だ会場に残る中、私と凪は体育館を出た。

どうやら大部分はまだ館内に残っているらしく、帰る人は少ない。

「...前原先輩かっこよかったね」

「...ええ。想定以上だったわ」

「説明会は楽しかったけど、今は寂しいね」

「...ええ」

2人で、なんとも静かな会話を交わしながら校内を歩く。
あぁ...明日からどうやって生きていけばいいんだろう。前原先輩のあの笑顔を思い出す度に胸が苦しくなる。こんな気持ちになるなんて思いもしなかった。

「「....」」

会話もあまり弾むことはなく黙々と歩き続け、ついに出口である校門前まで来てしまった。ここを越えればそこはもう春蘭高校の敷地ではなく、今日の説明会は本当に終わりだ。

...前原先輩とてもカッコよかったです。私ますますファンになっちゃいました。...またいつかお会いできることを切に願っています。

心の中でそう呟いた私は足を一歩踏み出し、校門から出ようとした。


ーーーーその時。



「ちょっと待ってそこの2人!」



後ろからそんな声が聞こえてきた。


...この声、聞いたことがある。いつ聞いた?ついさっきだ。それにこの声色は男性。ついさっき聞いた男性の声。それって...?いや、そんな訳ない。あり得ない。

私と凪は同じタイミングで恐る恐る振り返る。ここに居るはずなんてない人の顔を期待しながら。

ーーーそこには、


「はぁはぁ...やっと追いついたよ。帰るの早いね?」


走ってきたのか息を切らしつつそう言う目の前の男性。


えっ?

....嘘。嘘だよね?この人がなんで?

これは夢?それとも会いたくて会いたくて、私の願望が作り出した幻影?
体が強張って言葉が出ない。

「急にごめんね?2人に会いたくてさ」

なんで...?なんでここに?
あり得ない。

「...嘘...ですよね?」

震えた声でそう言う。
あまりにも現実味がなくてついつい失礼な事を口走ってしまった。
ごめんなさい、だってとても信じられなくて。


ーーーー前原先輩が私達に会いたいなんて。


「...ふふっ嘘じゃないよ?僕は本当に君達2人に会いたかった」

そんな私を微笑ましいものを見るような目で見ながら先輩がそう言う。
...近いよぉ...カッコいいよぉ。

「...何故ですか?何故私達2人に?」

固まり何も返せない私とは違い、頼りになる凪がそう問う。はたから見れば冷静に見えるだろうが、少し声が上ずっている事が私には分かる。


「それはね、君達2人がとても寂しそうな顔をしてたのが舞台から見えたからだよ」

先輩は目を優しげに細める。

ーー!?
どういう事?

「あ、あの、寂しそうな人達なら私達以外にも沢山いましたよ?」

それまで固まっていた私だが、ようやく言葉を紡ぐ事ができた。
そう、体育館には数百名にも及ぶ人達がいたのだ。寂しそうな顔をした人達なんてごまんといたはず。私達だけじゃない。

「そうだね、ありがたい事に沢山の方が寂しそうにしてくれた。それでも僕が他でもない君達に会いたいと思ったのにはいくつか理由があるんだよ」

尚も微笑みを絶やさず前原先輩は言う。

「まず1つ目は、最初に僕が壇上した時とても嬉しそうにしてくれた事」

人差し指を立ててそう言う。

「ちょ、えっ!?あの大人数の中私達の表情まで見えていたんですか?」

「ばっちりね。舞台上っていうのはね、みんなが思ってるよりみんなの顔がよく見えるんだよ。説明会に参加してくれた方々の顔はきちんと一人一人確認してるよ?僕はとても目が良いからね」

先輩は指で目を指し、少し茶目っ気を出す。

凄すぎる。あの人数の顔を一人一人?
...私の顔も?
...嬉しい。

「そして2つ目は、資料を見る事を促した時一番早く見てくれたのが君達だった事。僕が困ってるのを見て頑張ってくれたんだよね?嬉しかったよ、ありがとう」

....泣きそう。
あの前原先輩が私達を?

「そして3つ目はさっきも言った通り、僕が退場する時とても寂しそうにしてくれた事。それに、声も出さずに必死に耐えてくれてたよね?あれはなんで?」

「...あ、あれは、あれ以上先輩を呼ぶと先輩が退場し辛くなって困るかなって...」

「そう、それだよ」

少し涙声になりつつそう返した私に先輩が我が意を得たりとばかりに反応する。

「資料の時もそうだったけど、君達は僕の事を1番に考えて行動してくれてるのがよく分かった。それでこの子達はとても優しく、強い子なんだなって思って、つい会いたくなっちゃった」

「「.....」」

涙を堪えることに必死で何も返せない。
夢なら覚めないで。現実ならどうかこのままで。

「まああれだけの人数だからね...。他にもそんな子がいたかもしれないけど、僕が見つけられたのは君達だけだった。いきなりでごめんね?ビックリしたでしょ」

頭を掻きながらそう言う。
そんな姿もとても様になっている。

「....はい」

隣で凪がそう返事する。
私も返事しないと。

「.....っ」

返事したいのに、嬉しすぎて涙を堪えることに精一杯で言葉が出ない。
手で口を抑える女の姿なんて前原先輩にこれ以上見せたくないよ。無理やりにでも何か返さないと。先輩を無視はできない。

「...ありがどう...ございまずぅ」

バカバカバカ。泣いちゃったよ私。
言葉を返そうと口から手を離した瞬間、それが合図となったかのように涙腺が崩壊してしまった。

「ちょっ、蜜柑!?」

「...うぇえ...ごべんなざい...嬉じくて嬉じぐて...涙が....」

ギョッとしたような凪の声が聞こえる。
ごめん、止まらないんだよ。
憧れの人の前で号泣するなんて恥ずかしいよ。誰か止めて。

「...えぐっ...すぐどめるんで...ずみまぜん」

両手で次から次へと溢れる涙を必死に拭う。
私の涙腺仕事しすぎ。こんなに涙出さなくて大丈夫だから。

嫌われちゃう。折角会いたかったって先輩が言ってくれたのに嫌われちゃう。
早く止めないと。

そんな私の胸中とは裏腹に涙は勢いを増したように尚も流れる。
...もうダメだ。話しかけたら急に泣き出すってどんな女だ。

私の頭の中を諦念が駆け巡った。

と、その時。


フワっと甘い香りが鼻腔をくすぐった。
と、思えば頭に感じるのは力強くも優しい感触。

「.....ふぇ?」

これは....?


「泣くほど喜んでくれたのか?ありがとう。俺嬉しいよ。君の名前を聞かせてもらってもいい?」

顔を上げるとすぐ目の前には今まで見た中で1番素敵な笑顔を浮かべた天使...じゃなくて前原先輩。
それに...どうやら頭を撫でられてるみたい。

....?
頭を...?撫でられてる...?

「....ぇえぇえええ!?」

なんで!?私!?ナデナデ!?
えぇええ!?

「あっ、ごめん驚かせちゃったね」

私が叫ぶと、先輩はサッと私から距離をとりそう謝った。
あぁ...違うんです....驚いたのは驚いたんですけど違うんですぅ....。
もっとお願いしたいです...。

「あ、泣き止んだ?」

....あ、そういえばいつの間にか涙が止まってる。
まさか先輩はこれを見越して?いや、流石にそれはないか。

「は、はい。えと、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」

「あはは。後輩は先輩に迷惑をかけるものなんだよ?どんどんおいで」

うぅ...眩しいよ。後光が、後光が見える。
貴方様は本当に神が遣わした天使なのでは...?

「それで、君達の名前を聞かせてもらっても良い?」

そういえばさっきそんな事を聞かれていた。
危ない危ない、無視するところだった。

「た、橘蜜柑と言います!」

「東堂凪と申します」

「蜜柑ちゃんと、凪ちゃんね。2人は説明会に来てくれたってことは春蘭高校を志望してるの?」

「はい!絶対受かってみせます」

「私もです。それに私は弓道部に入部するつもりなので宜しくお願いします」

えっ!?凪って弓道部志望だったの?
私初めて知ったよ。なんで教えてくれなかったの?また泣きそうだよ?

「へぇ〜!それは嬉しいよ。よろしくね凪ちゃん」

「...はい」

前原先輩が笑顔で凪の手を握った。
凪は薄っすらと頬を赤く染める。
...くっ!羨ましい!けど、さっき私だけ頭を撫でてもらったから文句は言えない!

「わ、私も弓道部に入りますから!」

でも負けてられない。
私も対抗してそう明言する。

「あ、そうなんだ。でも、うちの部結構入部審査厳しいから頑張ってね?」

前原先輩は苦笑いする。
入部審査...。やっぱり前原先輩がいるから希望者が多いのかな?が、頑張ろう。

「じゃあそろそろ僕戻らないといけないから、この辺で。やっぱり思った通り蜜柑ちゃんと凪ちゃんはとても良い子だったよ」

前原先輩はそう言って、もう一度頭を撫でてくれる。
片方ずつの手で、私と凪2人ともだ。

「...ありがとうございましゅ」

「...ありがとうございまするわ」

私と凪は2人とも顔を真っ赤にして、尚且つ私は噛むし、凪は変な言葉遣いになるしもうめちゃくちゃだ。

「...ふふっ、じゃあ来年一緒に勉強できる事を楽しみにしてるよ。じゃあね」

そんな私達を見て、口に手を当てて少し笑った前原先輩はそう言って去ろうとする。

...これで今度こそお別れか。

いや、ここで終わって良いの?私。
ダメだ、攻めないと。
いけ、言っちゃえ蜜柑。

「....前原先輩!!」

こちらに背を向けて体育館の方向へ戻ろうとする前原先輩を留める。

「うん?どうかした?」

不思議そうにこちらに向き直る先輩に私は叫ぶ。


「いつか!!先輩さえ良ければ!!私を、お嫁さんにして下さいッ!!」


言った。言い切ったよ私。
ファンとして前原先輩に迷惑をかけるような愚行はしないとかカッコつけて言っておきながら無茶苦茶困らせるようなことを。
ごめんなさい、我慢できなかったんです。
でも反省はしてるけど、後悔はしてないです。

「蜜柑!?何言ってんのよ!?」

凪が焦ったように叫ぶ。
まあ、そりゃ友達が急に求婚し始めたら驚くだろう。けど許して欲しい。
前原先輩への愛が止められなかったの。
よく分からないけど、今この場で言いたかった。


前原先輩はキョトンとした顔をする。

......。
...うぅ。なんか私とんでもないこと言ったんじゃないかな?って今更ながらに思ってきた。
確かに、会って数分でプロポーズするのはやり過ぎた...かもしれない。
まずい、やらかした?

それに前原先輩がいるということで、先程から少し野次馬が集まっていたのだ。その数は少なくまだ数人といった所だが、私は大声で叫んだので恐らく聞こえている事だろう。

冷や汗がダラダラ噴き出す。

そして私が先程の言動を後悔し始めた時。



「....いいよ?」



前原先輩がさも当たり前のようにそう答えた。

......。

.....?


「「えっ.....」」

「「えぇええぇええええぇえええ!!??」」

私と凪の声が辺りに響き渡る。
嘘でしょ!?えっ?プロポーズ成功!?
前原先輩の奥さんになるの私!?
えぇ!?

「あははっ!じゃあまたいつか会おうね〜」

イタズラが成功した子供みたいな無邪気な笑顔でそう言い残した先輩は、そのまま体育館へ駆けて行った。

「「.....」」

その場に私達は立ち尽くす。
何とも言えない気持ちだ....。先輩は私が冗談で言ったと思ってああ返してくれたのだろうか?それとも本気で....?

うぅぅ...気になるぅうう!
本気だったら最高過ぎませんか!?

先程までの悲しい気持ちはどこへやら。
どこか満たされない感情は完全に消え失せ、私の胸中を支配するのは幸福感。

「....ずるい」

凪が隣でそう呟く。
ごめんね、抜け駆けするみたいになっちゃって。

「ご、ごめんね?」

「...別にいいわよ。...私だって来年絶対にプロポーズするんだから」

「えっ?ごめん、ちょっと後半聞こえなかった」

「...何でもないわ。さあ帰るわよ」

「あっちょっと待って!」

さっさと歩き出す凪を私は駆け足で追いかける。
そして小走りしながら後ろを振り向き、心の中で言う。

先輩!!
来年私が入学したら、ちゃんと冗談なのか本気なのか教えて下さいね!

予感した通り、この日は私にとって一生忘れる事ない日になったのだった。



さあ、帰ったら勉強頑張ろう。

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コメント

  • めんたま

    はっ!確かに短針だと1日たってますね。すみません、直しておきます

    1
  • ユーノ

    179677さん残念ながら短針2週だと24時間しかたってないので2日でなく、1日ですね

    だとしても短針ではなく長針の間違いでしょうね〜

    1
  • ノベルバユーザー179677

    短針が2回転したら2日たってますよ

    5
  • 10969K

    主人公が……見てて意味わからん。なんだコイツってなるくらいイケメンで、もう発狂しそうです。もうめちゃくちゃ面白いです。これからも頑張ってください。

    2
  • ベニ

    この話が一番すき。

    5
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