俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい

めんたま

取材本番

「あぁ!いい!今の顔!はぁはあ!」

カシャ

「そこぉおお!前原様ぁ!」

カシャ

「ほおっ!?最高!...今の表情頂きます!」

カシャ

「ここだっ!!いいですねぇ!うへへへへ」

カシャ


俺は今弓道をしている所の写真を撮ってもらっているのだが....

なんていうか...うん、柊さん?ですよね?
最初のイメージは知的な美人さんだったんだけど...
俺の写真を撮ってる時、顔はダラケきって今にもヨダレが垂れてきそうだし目はすごくいやらしいし、心なしか口調も変わってるんだよねぇ。
仕事中は人格が変わる人もいると聞くがそのタイプだろうか?

「いまっ!その体勢をしばらくキープしてくださいな!」

「わ、わかりました...」

つるを限界まで引き絞ったこの体勢で待機か。これは結構きついぞ。

「んん〜っ!凛々しい!はぁ!はあ!」

カシャ

ずっとこの調子なのだろうか....

ーーーーーーーーーーーーーーー

「うっひょおおお!さいっこうぉお!」

カシャ

3分後、俺は未だに先の体勢のままでいた。

そ、そろそろヤバイぞ...!乳酸が!乳酸が溜まっておる!もう間もなく筋肉が吊りそうだよ!

「はぁはあ...あの、柊さん....。さすがに....そろそろ体力的にキツイです...。まだです、か?はあはぁ...」

息も絶え絶えに俺は尋ねる。

「....ふーっ...、ふーっ....」

カシャカシャ

しかし何故か柊さんは鼻息を荒くさせカメラのシャッターを切るスピードを加速させた。
なんだ?聞こえていないのか?

「あの....?」

とりあえずもう一度声をかけてみる。

「いいっ!!息を切らした、瞳を涙で潤ませながら頬を赤らめる美少年っ!溢れ出るリピドーが止められません!うへ、うへへへ」

....ダメだ、完全にキャラが崩壊している。もう先ほどの柊さんとは別人と考えたほうがいいだろう。
今の逝っちゃってるモードの柊さんでは話が通じなそうだ。足立さんに協力を扇ごう。

俺の死角となる場所に先ほど立っていたと思うので、そちらに顔を向ける。

「足立さ...」

「...ふぅ...ふぅ...ぐへへ。この美少年をこうしてああして...ぐへっ...ぐへへへ」

.......。
足立さん妄想トリップ中は使い物にならない、と。
ここはもうあの人に頼るしかない。

「ぶ、部長....」

我が春蘭高校弓道部一のしっかり者、右京部長に縋るしかあるまい。
他の部員たちももれなく妄想トリップ中みたいだしな。
...すみれ先輩あなたまで....。

俺は名を呼びながら部長の方を向く。

「....へ?あっ、ど、どうした前原!」

....?部長にしては珍しく何やらぼーっとしていた様子だ。以前すみれ先輩から右京部長は男が苦手だと聞いたことがあるから、他のみんなと同じように妄想中だったということもないだろう。何か悩み事でもあるのだろうか?今度話を聞いてみようか。

「そ、そろそろキツイので、柊さんを正気に戻して貰っていいですか...。未だにシャッターを切っているので無断で体勢を戻すのも心苦しくて....。部長にしか頼めないんです....お願いします」

「あっ!?そ、そうだな。わかった!」

まあとりあえず今は目の前のピンチに対処しなければな。
部長に声を掛けるとどうやら協力してくれるらしい。さすがだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

その後なんとかして柊さんを正気に戻した俺はただいま弓道場の横にある部室で絶賛インタビュー中だ。
ちなみに正気に戻った柊さんは特に取り乱すことなく、真顔で「失礼致しました」とだけ言いスッと身を引いていった。あれだけ逝っちゃっていながら、その後堂々としていられる精神力の強さを俺は見習いたい。

「じゃあ弓道を始めたのは高校入学してからってことかな?」

「はい、その通りです」

インタビューをしてくれているのは足立さんだ。いつのまにか妄想トリップから脱していたようだ。また、インタビュー中の足立さんはキリリとした所謂仕事専用の顔つきで普段の小動物感は綺麗さっぱり失われている。ここら辺はさすがプロと言ったところか。

本当は、弓道は10年以上嗜んではいるがこの世界の前原仁くんは(おそらく)弓道の経験などはないと思うので申し訳ないとは思うが嘘をついておく。

「それで、この前の大会で全部的中ってかなり凄いことだよね?何か特別な練習とかしてるのかな?」

「いえそのようなことはありません。しかし弓道に対しての熱意は人一倍持っていると自負しています」

「なるほど....熱意。それが大会での前原君の的中に繋がっているのかもしれないね」

このような感じでインタビューは進んでいった。
しかしインタビュー開始15分ほどたってから、少し主旨が変わってきた気がする。

「前原君は女性にも優しいという噂を聞いたんだけど、そこのところ教えてもらってもいいかな?」

「え、ええ。僕は女性に対しても男性に対しても接する態度をそれほど変えるつもりはありません。みんなと交流を深めていきたいなと思っています」

「前原君ほどの容姿なら女の子がたくさん寄ってきたり、またまたいっぱい告白されたりすると思うけど、実際それについてどう考えているのかな?」

「えーと、とても喜ばしいことです。しかし、おっしゃる通り告白を頂くこともあるのですが本当に僕でいいのかなといった思いを抱いているのも事実です。だから、こんな僕を好いてくれる女の子達にはいつも感謝でいっぱいです」

少しためらいながらもとりあえず無難な答えを返しておくけど....

これ、スポーツ雑誌の取材だよね?
明らかに関係ない質問内容じゃないか...?

俺の疑問をよそにその後も20分ほど無関係な質問タイムは続いた。


「今日は貴重な時間をくれてありがとう前原君っ!最高の記事にして見せるよ!」

グッと凄くいい笑顔でサムズアップする足立さん。

「本日はお忙しい中ありがとうございました前原様。それと少し取り乱した時間もございまして誠に申し訳ありませんでした。ご迷惑を....。これからは精進致します」

物凄く綺麗なお辞儀を披露する柊さん。うーん、やっぱりこうして見るとすごい変貌っぷりだったなさっきのは。

「いえ、頭を上げてください柊さん。確かにあの体勢維持はしんどかったですし、柊さんの変わり様にはビックリしました。でも、」

「....でも?」

俺はそこで一旦言葉を切り、柊さんは続きを促す。


「それ以上に楽しかったです。足立さんは妄想の世界に突入しちゃいますし、柊さんは人格変わっちゃってますし、ふふっ。取材の方達が良い人でよかったです」

今思えば、前世で受けた取材は記者の仕事で仕方なくやっていますよといった雰囲気がありありと感じられた。それに比べてこの女性達は本当に嬉しそうにしてくれていた。
この世界の女性達は本当に賑やかで、楽しい人達ばかりだ。全く退屈しない。
俺はこの世界に転生できて幸せ者だ。

俺は改めて転生できたことを感謝し、自然な微笑みを浮かべた。


「その笑顔いただきますっ!!!」

カシャ


すると、そこを柊さんが目にも留まらぬ速さでカメラを構えシャーターを切る。

....今残像が見えたような気が...。

そんなこんなで俺は無事に取材を終え、まだ見ぬ記事を楽しみに部活の練習に戻るのだった。

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