俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい

めんたま

部活に入るということ

久しぶりの部活見学に自分でも気分が高揚しているのが分かる。心なしか足取りがいつもより軽いようだ。

心を落ち着かせるようにまずはぶらぶらと校舎内をゆっくり回る。よし、少し落ち着いた。

さて、本命は弓道部だが、一応他の部活も見て回ってみよう。

何の部活がどこで活動しているのかまだよくわからない。とすれば、自然と足が向かうのは体育館か運動場。俺が向かったのは体育館だった。

体育館はひときわ大きいので俺でも場所が分かる。

キュッキュッ
「ファイトー!」

....懐かしい。体育館の床とシューズが擦れる甲高い音。部員がお互いを励まし合う声援。どれも記憶にあるものと遜色ない。こういうのは世界が変わっても不変なんだな....。

っと感傷に浸ってる時じゃないな。
どんな部活が活動しているのか見てみたいが、男がいきなり現れたら騒ぎになってしまうかもしれない。
俺はひょこっと、体育館の入り口から顔だけ出す。

おお、やっぱりかなり広いな。テカテカと光を反射する木目調の床、爛々と輝く天井に吊るされた照明、体育館はどこもこういう作りなんだなぁ。右側には舞台があるな。演劇部が練習しているみたいだ。緑色のネットで体育館を二分し、向かって左側がバスケットボール部、右側はバレー部が使用しているみたいだ。
....男はいない。聖也は何部なのだろうか。また今度聞いてみるとしよう。

バスケ部は....どうやらラダートレーニングをしているようだ。ラダートレーニングと言うのは、はしごロープのようなものを地面において、その上を両足ジャンプしたり、複雑なステップをしたりするトレーニングだ。運動部に入ったことがある人なら一度くらいは目にしたことがあるのではないだろうか。俺も昔はよく行ったトレーニングだ。

....あれ?見覚えのある人が。

美沙?

美沙もラダートレーニングに混じっているみたいだ。ということはバスケ部だったのか。確かに身長は俺と同じくらいで、高めではあるのだが、まさかバスケ部とは。

美沙は先ほど俺と喋っていた時のようなぼんやりとした顔ではなく、目つきは真剣そのもの。汗を拭いながら、必死に腰と足を動かしている。「フッ!フッ!フッ!」という掛け声がここまで聞こえてくる。

.....かっこいいな。

これがギャップ萌えってやつか。前世でも、普段おちゃらけた奴が部活の試合などで必死に頑張り活躍してる姿を見た女子が「ギャップすご...かっこいい」と言っていたのを耳にしたことがある。実体験を伴って初めてその意味がわかった気がする。

声をかけようかと思ったが、やめておこう。彼女の努力に水を差すようで、何か違う気がする。

俺はそのままそっと体育館を離れた。

ちなみにバレー部と演劇部には知り合いはいなかったみたいだ。

俺はその後もこっそり様々な部活を見て回った。聖也はどうやらサッカー部に入っているようだ。数人の男たちと、女子から少し離れたところで固まって練習しているのを遠目に見た。

  1時間ほどかけてできるだけの部活を見て回った俺は本命の弓道部に行こうと思ったが、問題が1つ。

「弓道場の場所が分からない....」

俺ってバカなんだろうか?なぜ同じ過ちを何度も繰り返すのだろう。

ううむ、以前の職員室の場所が分からなかった時のように人に尋ねられれば良いのだが、皆部活中であまり人がいない。....困った。

そうしてあたりを見渡していると、担任の福岡先生がこちらに歩いてくるのが見えた。

「福岡先生!」

救いの神よ!俺は笑顔で駆け寄る。

「あ、あら前原くん。まだ帰ってなかったのね、何か私に用事かしら?」

やはりキャリアウーマンオーラがえげつないな、福岡先生は。かっこいい。

「はい、実は弓道場を探していまして。場所を教えてもらえませんか?」

「....弓道場?なんでまた?」

「実は、弓道部への入部を考えているのですが、とりあえず見学だけでもさせていただこうかと」

そう言うと福岡先生は少し嬉しそうな顔になった。

「あら!そうなの?それはちょうどよかったわ。実は私弓道部の顧問をしているのよ」

おお!なんという天運。

「そうでしたか!見知った先生が顧問で僕嬉しいです!」

「う、嬉しいことを言ってくれるじゃない。じゃあ今から弓道場へ案内するけど、その前に前原くんに言っておかなければならない話があるわ」

福岡先生はいきなり神妙な顔つきになった。

「話、ですか?」

「ええ。男子、それも前原くんのような美少年が部活動に入るにあたっての、ね」

「はぁ....」

俺は福岡先生の言葉の意味をよく理解できず、曖昧に頷く。

「包み隠さずストレートに言うけど、前原くんが弓道部に入部すると、まず間違いなく部内が混乱するわ。それだけならまだなんとでもなるの。でも、その噂を聞きつけた生徒たちがこぞって弓道部へ入部してくることが予想されるわ。そうなると、もう収集がつかなくなる。本当に弓道がしたい子と、ただの前原くん目的の子、部内の勢力が真っ二つになってしまい、最終的に部は崩壊するわ。過去にこういう事例があったの」

.......。十分にありえる話、というかかなり可能性が高い話だ。しかし、それは....

「....それはつまり部活に入ることは諦めろ、そうおっしゃっているのでしょうか?」

「そこまでは言ってないわ。ただ、対策を講じる必要があるだけよ。具体的には、前原くんが入部した後の、部員数制限などが考えられるわね」

「....僕が入部すると弓道部にかなり迷惑がかかるみたいですね.....」

「取り繕っても仕方ないから言うけど、それは確かに否定できないわ。でも悪いことばっかりじゃないの。男の子の入部による、部員達のモチベーション向上、部費の増加とか色々な恩恵があることも事実なのよ」

「....なるほど」

「今の話を踏まえた上で聞くわ。前原くんはそれでも弓道部に入部したい?」


....前世では何も成し遂げられなかった自分。恐れて、怯えて、縮こまって殻に閉じこもっていた自分。本当にやりたいことを見つけられず、毎日くすぶっていた自分。何もなく空っぽだった自分。
    もう自分に嘘はつきたくない。

「僕は....、は、皆んなに迷惑がかかるとしても、入部したいです。なぜなら、俺がそうしたいから。弓道部の皆んなには俺から謝罪します。だから俺は、弓道部へ、入部します」

俺は福岡先生の目を真っ直ぐ見てそう言った。先生は真摯に見つめ返してくる。

「....わかったわ。今から弓道部の部長を呼んでくる。1組の教室で少し待っていてもらえるかしら?3人でこれからのことを相談しましょう」

「はい、よろしくお願いします」

俺はそう言って深々と頭を下げた。福岡先生はそんな俺に、慈しむように微笑みかけ、部長さんを呼びに弓道場へ向かっていった。

この世界の男子は自由奔放でなんのしがらみもなく生きていると思っていたが、男子も意外と苦労しているのかもしれない。

....見学をせずに決めてしまったが、後悔はしてない。大丈夫だ。俺は今世ではやりたいことをやると決めた。自重はしないぞ。

あっ、生徒会のこと忘れてた......。

俺は遠い目をしながら、しばし福岡先生が向かった方向をぼんやりと見つめるのだった。

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