俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい

めんたま

これからは優しく

「知ってる天井だ....」

 目を覚ますと見慣れた、とまでは言わないまでも見覚えのある白い天井が目に入ってきた。
 とりあえず体を起こして未だ覚醒していない意識のままボーッと辺りを見渡してみる。

 えっと、病院?

 …あー、そうだ異世界転生したんだ。
 夢じゃなかったんだなあ。

 今更ながら、信じられない体験をしていると実感した。これからの生活には不安があるが、それ以上の高揚感が俺の体を満たして行く。

 よし、やるぞ。この異世界で、何が俺を待っている?なんでも来い。俺は自重しないぞ、謳歌しまくってやる。

 そうこれからの生活に思いを馳せていると、

『コンコンコンッ』

 と小さくノックの音がした。

「はーい」
  
『ガララ』

「おはようございます前原さん。体調の方は大丈夫ですか?」

 返事をした後、ドアの少し控えめの開音と共に入ってきたのは昨日の美人看護師さんだ。

「絶好調です。色々お世話になりました」

 今日で退院ということだから、お礼を言っておいた。〜微笑みを添えて〜

「あぅ…。本当に退院しちゃうんですね…もう少しいてくれてもよかったのに…」

 看護師さんは顔を真っ赤にして、後半はボソボソと拗ねるように口を尖らせて言う。
 か、可愛いです。ご馳走様です。

 その後看護師さんと他愛のない会話を楽しんでいると、母さんがやってきた。どうやら今日は土曜日で仕事は休みのようだ。この世界でも基本的に曜日などは変わらない。

「母さん、おはよう」

「おっ!?お、おはようジンちゃん」

 母さんは例に漏れずニマニマしながら挨拶を返した。…母さんは俺と喋る時何が楽しいのか、よくニマニマしている。

 そして、母さんとは昨日あまり話をする時間を取れなかったため、改めて色々家族のことや学校のことを聞いてみた。

 どうやら俺には妹と姉が1人ずついるらしい。一つ屋根の下に男1人女3人か…。家族とは言え、俺からしてみれば初対面の美人さんばかりだからな。変な気を起こさないようにしないと。

 俺が通っている高校(というか入学式の前に前原仁くんが階段から落ちたためまだ1回も行ってないそうだが)は、春蘭高校というそこそこ頭の良い学校らしい。男子というだけで推薦でいけるという。…俺は死に物狂いで受験勉強したというのに、羨ましいぞ前原仁くん!!!


 母さんとそんなことを話している間に、どうやら退院の時間が訪れたようだ。

 退院時のお見送りには、俺を担当してくれたお医者さんと看護士さんが来てくれた。かなり名残惜しそうな顔をしていたのはいいのだが、母さんが運転する俺が乗る車を全力疾走で追いかけて来るのは本当にやめて!怖い!怖いから!


 そんな一幕はありつつ、とりあえず俺は家に帰ることになった。

 病院から家までは、車で15分ほどだっただろうか。その家は、二階建ての一軒家だった。そこそこ大きく白塗りの壁が綺麗だ。

「ど、どう?ジンちゃん。この家見て何か思い出しそう?」

 母さんが上目遣いでそんなことを聞いてきた。いちいち仕草が可愛いな。こんな可愛い人がお母さんとか世の男達はみんなマザコンになってしまうぞ。もちろん俺も例には漏れない。

「うーん…。ごめんね、やっぱり何も思い出せないや」

  悩む素振りを見せつつ申し訳なさそうに言ってみた。我ながら中々の演技力だ。どれだけ悩もうと思い出すはずなんてないのだが、体裁というのはとても大事だ。

「そ、そっか!うん、大丈夫だよ!これから何か思い出していくかもしれないし!さ、とりあえず家に入ろう」

 母さんは俺の言葉に、残念なようなホッとしたような何とも言えない複雑な表情をしていた。

 家に入ると、外観通りにそこは前の世界の一般住宅とそう大差ないものだった。せっかく異世界に来たので、未知の建築技術や建築素材に出会えるかもと密かに期待していたのだが、この世界は異世界と言っても前世との相違は少なそうだ。まあ病院の構造からして、その可能性は高いと思っていたんだけど。

 俺は母さんに連れられてそのままリビングに入る。

 …うーん、散らかっている。
 ペットボトルや空き缶が机の上に置きっぱなしだし、服も脱ぎっぱなしで床に放置だ。ゴミ箱もゴミで溢れている。

「…母さん。さすがに汚すぎると思うよ?」

「あ、ち、違うの!ジンちゃんの意識がない間家事が手につかなくて…昨日もジンちゃんが起きたことが嬉しくて大騒ぎしちゃったから…。いつもはこんなに汚くないよ?ほ、本当だよ!?」

「あぁ…ごめんね?じゃあまずは掃除しよっか。僕も手伝うよ」
  
 今更だが、俺が喋る時の一人称は『僕』だ。人当たりを気にしていたら自然とそうなっていた。
 俺が母さんにそう提案してみると、

「ほぇ!?」

 例えるならば腹の底から空気が押し出されたような変な声を母さんが出した。どうしたんだ?一体。

「どうしたの?」

 とりあえず聞いてみよう。

「ジ、ジンちゃんが掃除手伝ってくれるの!?え、えぇ!?」

 …なにをそんなに驚いているのだろうか?家族として家の掃除を手伝うのなんて当たり前の…

 いや、違う。この世界ではないんだ。
 失念していた、そうか、この世界の男子は家のために掃除をすることなどはしないのか…。
  
 というか今までの母さんの反応を見るに、まさか俺が憑依する前の前原仁くんも高慢で偉そうな男だったんじゃ…。そうだよ、勘違いしていた。自分はこの世界では珍しい女性に優しい男性と考えいたが、俺が憑依する前の前原仁くんはただの男性だ。『この世界』の男は皆高慢、それには前原仁くんも含まれている。ましてやこの容姿だ、まさしく王のように振舞っていてもおかしくはない。俺の馬鹿野郎。そう考えると、母さんの態度にも納得がいく。

 …よし、これからはきちんと皆に優しくしよう。それが俺にできる罪滅ぼしだと考えることにする。

 そしてまずは今出来る事から、だ。今出来る事とはもちろん掃除を手伝うことである。

「当たり前でしょ?僕は母さんの息子で、家族だよ?家事くらいいくらでも手伝うよ」

 そう母さんに言ってみた。

「ジンちゃん…。う"ん、ありがどう…。うぇええ…」

 また泣き始めてしまった…。それだけ俺が転生する前の前原仁くんの日頃の態度が悪かったってことかな。
 これからはたくさん親孝行しよう。

 母さんは鼻水を垂らして泣きながら掃除をしていた。
 泣きすぎだよ…。
 床を綺麗にしながら汚してるよ。正気に戻って。


 でも、それだけ喜んでくれたんだな。

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