銃剣使いとアストラガルス ~女の子たちに囲まれる、最強と呼ばれた冒険者の物語~
第04話 親代わりのおっとりシスター
――魔法とは、体内に存在する魔力という力を使って行使される、術式効果と呼ばれるものである。
魔力を使うことで起動する、詠唱や魔法陣という術式によって齎される効果そのものを指す、という面倒な説明が研究者の論文には書かれている。
まぁ、噛み砕いて言えば。
魔法とは、詠唱又は魔法陣を使って、不思議な現象を起こすこと。
詠唱は複数の文節から成り、文節それぞれに意味を持つので、文節内で詠唱が途切れると魔法は失敗に終わる。
逆に魔法陣は記号や図を描いたもので、魔法陣を描いた媒体かその場の地面や空中に直接描くことで魔法を発動する。
詠唱の場合は発動してしまえば、操者の意思以外で止めることができないが、魔法陣の場合は魔法陣そのものを破壊してしまえば強制的に止めることができる。
更に人が生まれ持つ魔力には色がついており、濃さや色の違いによって魔法適正や使用できる魔法の種類が変わる。
これこそは天性の才であり、いくつ歳を取ろうと何を食べようと、魔力の色が変化することはない。
今回俺が詠唱にて発動した、火の玉で周囲を照らす魔法の朱灯は赤魔法と呼ばれるものであり、魔力の色に赤が混ざっている人しか使用できない。
こういった形で人々は自身の魔力に合ったものを行使し、適正のない魔法を一生使うことができずに悔しがるのだった。
「――ネムねぇ、いるか?」
俺達が住んでいるスモーリ住宅区にある、広い自然公園の中に位置する教会へと俺はやってきた。
国教である女神ソーシャを讃えるソーシャ教。
そのソーシャ教のスモーリ教会に、俺たちの最後の家族が働いている。
教会の周りは自然公園としての草原や森が広がっており、散歩やピクニックにも丁度良く、ミルねぇの散歩コースにも入っている。
教会の奥には、公園からは直接見えない位置にこの地区の死者を埋葬するための墓地が広がっている。
こういった自然公園、教会、墓地が王都の中でも、二十個以上も設けられているのだ。
朱灯の魔法を解除した俺は、無駄に大きい扉を開いて教会へと入っていく。
どうやら今日はもう人がいないみたいで、聖堂はとても静かだった。
偶に夜遅くに仕事帰り人がやってきたりするので、
ネムねぇは他の教会よりも遅い時間まで教会を開いている。……その代わり、他の教会よりも一時間ほど遅い時間に開くのだが。
「あ、ユードくん~。今日もお仕事お疲れさま~」
「ネムねぇもな。仕事は終わったのか?」
「ううん~、まだ書類が少し残ってるの~」
「そっか、先に食べるか?」
「うん~! お腹ペコペコなの~、食べる~」
喋り方がとてもスローで、語尾が伸びているのが特徴の女性、ネム。
俺達の保護者で、小さい頃からよく面倒を見てくれた恩人だ。
俺が小さい頃は不器用でも頑張る姿を見て、とても頼り甲斐があるなぁと思っていたものだが、俺達が成長していく毎にぐうたらな性格が顔を出し始め、今ではすっかり俺に面倒を見られる側へなっている。
その最大の欠点が、お酒が好きすぎることだ。
さすがに教会では飲まないが、家に帰ればすぐ晩酌というほどの飲んだくれだ。
時々二日酔いのまま教会に行ったりしているが、罰は当たらないのだろうか。
そして容姿はミルねぇ以上のインパクトがある。
髪の色は輝く綺麗な銀色で腰辺りまでのロングなのだが、身嗜みを気にしない性格からかボサボサの髪をしている。
所々は寝癖で跳ねたり。
身長は百六十五センチほどで少しタレ目、少しミルねぇに似ているかもしれない。
そう、特に胸の大きい所なんてそっくり、……いやミルねぇ以上だ。
件の尺度によると、ケー。
ミルねぇより大きなあの塊に、どれだけ長い期間抗ってきたか。
保護者とは言っても、母というよりはお姉さんといった所な為、非常に危ない存在だった。
昔はお世話するんだと言ってお風呂に入ってこようとまでするし、今では面倒だから身体洗ってとまで言ってくる。
アリルとミルねぇからの凍える視線で俺を殺す気なのだろうか。
果てにはアリルとミルねぇも俺の身体を洗うと言って風呂に入ろうとしてくるし。
仕事中はシスター服を着ている間も破壊力抜群の肉体は浮き出るように着飾られ、教会に来る男性達の半分がネムねぇ目当てになるくらいに凄まじい。
だが、家では下着しか着ない。
これが一番困る。年頃の男がいるのに、何度言っても聞かないし直さない。
だらしなさは家族一で、時々色々な部分が見えそうになるので勘弁してほしい所だ。
「どうしたのユードくん~? 私の服に何か付いてる~?」
「いや、何でもないよ」
「そっか~。お~ユードくんのご飯、今日も美味しそうだね~」
目を細めて喜んでくれるネムねぇを見ると、料理を作って持ってきた甲斐があるというものだ。
「ああ、食べてくれ」
「うん~、いただきます~」
俺の作った野菜と肉の炒め物を美味しそうに口に入れるネムねぇ。
凄まじいスピードで次々と飲み込む前に入れていくので、頬っぺたがどんどん膨れ上がっていく。
まるでペットとして流行している、ラムスターという小さくて足の速い動物みたいだ。
以前、ペットの捜索依頼で探したことがあるけど、かなり似てるな。
「もがもが、ぬーもむん、んっ、もーがもんばっま?」
「口の中のものを飲み込んでから話せ、ほら」
「ん、んくっ、ふ~。ユードくん、今日はどうだった~?」
俺が教会に備え付けられているキッチンから汲んできた水を渡すと、口の中のものごと飲み込んでしまった。一体どんな喉をしているのやら。
というかもうちょっと味わってくれ、寂しいじゃないか。
そうして落ち着いたネムねぇは引き続き料理を食べながら、今度はゆっくりとしたペースで食べながら話を振ってくる。
話をする為にも、ネムねぇの向かいへと腰掛けた。
「どうって、仕事か?」
「そうだよ~。この頃信者の皆から、なんでも屋が来てくれたって話をよく聞くんだ~。活躍してるみたいだね~」
「まぁ、活躍と言っていいものかは分からないがな」
「でも、あたし的には嬉しいかな~。街中なら危険も無いんだし~」
「まぁな。でも稼ぎは少ないし、代わりと言っていいのか分からないけど、アリルが危険なモンスターと戦ってるし。時折、何やってんだろうなって思うよ」
俺がそう言うと、ネムねぇはフォー持っていない手で俺の頭を撫でる。
少し恥ずかしいが、安心するものだ。
「アルは優しいからね~。ユードくんはミルの為に沢山頑張ってるんだから、もっと休んでていいんだよ?」
「頑張ってる、か。これで皆を食っていかせられるくらい稼げれば文句はないんだがな」
「そうだね~。心配だけど、アルは戦ってないと不安そうだからね~。とりあえず家計は安定してるんだし、もうちょっと休んでもらうように言わなきゃね~」
「全く、父に似て戦闘大好きなのかね」
「……ユードくんも、本当は戦いんでしょ?」
食事の手を止めたネムねぇはこちらを覗き込むように見てくる。
その心配と期待が交じった目に、俺は目を逸らすことしかできなかったが、ネムねぇは俺の行動から感じ取ったようだ。
「ミルも落ち着いてきたし、ユードくんが戦いたいなら私が代わりに~」
「いい。それにネムねぇには朝から仕事がある訳だし」
「でも」
「大丈夫だ、それに街中の仕事も捨てたもんじゃないからな。色んな事に、色んな人に触れられるし」
「……そっか~。じゃあ、しょうがないね~」
「そうだな。仕方がない」
完食したネムねぇは優しい目でこちらを見てくる。
俺が胸の底に隠していることもお見通しなんだろうな。
でも、俺は今のままでいい。
なんでも屋という、戦わない臆病者というレッテルを貼られたとしても。
俺は家族を守ることができればそれでいい。
二人で並んで、教会のキッチンで食器を洗う。
とは言ってもネムねぇは不器用なこともあり家事が上手ではないので、俺が洗ってネムねぇが布で水分を拭き取る形だ。
俺の以外の家族、家事ができないってどういうことだ?
「そういえばね~、この頃参拝してくれる人が増えてるんだよ~」
「そりゃ良かったな。この前教会の前で信者さんが奥さんに連れて行かれてたけど、よく減らなかったな」
数日前、ネムねぇ目当てで参拝していたおっさんが、激怒した奥さんに殴られて連れて行かれた事件があった。
あの時見ていた人の中にもネムねぇ目当ての人は多いと思うのだが。
それでも増加傾向にあるということは、偏にネムねぇの布教活動のお陰かもしれないな。
「あれは怖かったね~後で懺悔室に来たもん~」
「そりゃまぁ、来るよな」
「髪の毛も奥さんの手でばっさり剃られてたし、反省してくれたみたいだよ~」
「そうか、大切なものを失くしたんだな……」
「でもソーシャ様は赦してくれますから~」
「一番赦さないのは奥さんだろうけどな」
名前も知らないおっさんだが、どうか元気でいてほしいものだ。
女神ソーシャの救いがあらん事を。
まぁネムねぇに色目使ってる時点で断罪されてもいいと思うけど。
いや、もう奥さんに断罪されてたか。
「それにしてもよく見てるんだな。普通増えてるか減ってるかなんて気付きにくいんじゃないか?」
「これでもこの教会唯一のシスターだからね~。信者達のことはバッチリ把握してるの~。馬鹿にしちゃ駄目だよ~、ぷんぷんっ!」
「ごめんごめん。まぁ頑張ってるんだな、ネムねぇも」
「うん~、ユードくんが毎日美味しいご飯作ってくれてるからね~。元気百倍だよ~」
「そいつは単純なこって」
そうして食器を持ってきた食事を持ってくる時に使った箱に入れ、ネムねぇが教会の戸締まりをして共に外へ出る。
肌寒い風が顔に当たる中、俺は白い息を吐きながら魔法を詠唱して辺りを照らす。
ネムねぇが戸締りの確認をしている間、ボーっと空を埋め尽くす星々を眺めていると、突然後ろから手を握られた。
驚くように振り返ると、シスター服の上にコートを着たネムねぇがえへへ~と笑いながら俺の手を掴んでいる。
「はぁ、さっさと帰るぞ」
「うん! えへへ~」
可愛いお姉さんだこと。
「ただいま~」
「ただいま」
「おかえり!」
「……おかえり、ユー。ネム姉さん」
俺達が帰ると、まだ寝ていなかったアリルとミルねぇが出迎えてくれた。
石鹸のいい匂いを香らせて、生地の薄い夜間着を着た二人は妙に艶っぽい。
特にミルねぇ、襟元がぶかぶかすぎる。
もっとお淑やかになってくれ。
「よ~し、それじゃあ飲むぞ~!」
「駄目。先にお風呂行ってこい」
「え~!? 一杯だけでいいから~」
ネムねぇは俺に撓垂れ掛かっておねだりをしてくる。
上目遣いやめろ。
後、デカい胸を押し付けてくるな、お酒渡しそうになるだろうが。
「ネムさんの一杯は酔いつぶれるまで飲むから駄目だよ!」
「……ネム姉さん、お風呂入って」
姉と妹の援護を受け、どうにか俺の理性は陥落せずに済んだ。
毎日こいつら家族と暮らしてる訳だけど、未だ慣れないもんだ。
その内心臓に疾患でも罹るんじゃないか。
「分かったよ~。それじゃユードくん、お酒の準備よろしくね~」
「分かったから離れろ。まだ酔ってないだろうが!」
「えへへ~」
ネムねぇは撓垂れ掛かったまま、更に身体を押し付けるように腕を回してきた。
そうなってくると、二人も負けじとくることになる。
「あっ、じゃあ私も!」
「……ひしっ」
「離れろって! お前ら女の子らしくしろよもっと!」
「……その結果だから」
「だね!」
「えへへ~」
柔らかい感触と、言葉とは裏腹に感じる女の子らしい香り。
俺もアリルも鎧を脱いでいるから、柔らかい膨らみもスベスベな肌の感触も全てが脳に伝わってしまう。
いかん、このままでは俺の理性が崩壊してしまう。
「おいどこ触ってる! 離れろぉッ!!」
その後、拳骨三発で離れていただいた。
魔力を使うことで起動する、詠唱や魔法陣という術式によって齎される効果そのものを指す、という面倒な説明が研究者の論文には書かれている。
まぁ、噛み砕いて言えば。
魔法とは、詠唱又は魔法陣を使って、不思議な現象を起こすこと。
詠唱は複数の文節から成り、文節それぞれに意味を持つので、文節内で詠唱が途切れると魔法は失敗に終わる。
逆に魔法陣は記号や図を描いたもので、魔法陣を描いた媒体かその場の地面や空中に直接描くことで魔法を発動する。
詠唱の場合は発動してしまえば、操者の意思以外で止めることができないが、魔法陣の場合は魔法陣そのものを破壊してしまえば強制的に止めることができる。
更に人が生まれ持つ魔力には色がついており、濃さや色の違いによって魔法適正や使用できる魔法の種類が変わる。
これこそは天性の才であり、いくつ歳を取ろうと何を食べようと、魔力の色が変化することはない。
今回俺が詠唱にて発動した、火の玉で周囲を照らす魔法の朱灯は赤魔法と呼ばれるものであり、魔力の色に赤が混ざっている人しか使用できない。
こういった形で人々は自身の魔力に合ったものを行使し、適正のない魔法を一生使うことができずに悔しがるのだった。
「――ネムねぇ、いるか?」
俺達が住んでいるスモーリ住宅区にある、広い自然公園の中に位置する教会へと俺はやってきた。
国教である女神ソーシャを讃えるソーシャ教。
そのソーシャ教のスモーリ教会に、俺たちの最後の家族が働いている。
教会の周りは自然公園としての草原や森が広がっており、散歩やピクニックにも丁度良く、ミルねぇの散歩コースにも入っている。
教会の奥には、公園からは直接見えない位置にこの地区の死者を埋葬するための墓地が広がっている。
こういった自然公園、教会、墓地が王都の中でも、二十個以上も設けられているのだ。
朱灯の魔法を解除した俺は、無駄に大きい扉を開いて教会へと入っていく。
どうやら今日はもう人がいないみたいで、聖堂はとても静かだった。
偶に夜遅くに仕事帰り人がやってきたりするので、
ネムねぇは他の教会よりも遅い時間まで教会を開いている。……その代わり、他の教会よりも一時間ほど遅い時間に開くのだが。
「あ、ユードくん~。今日もお仕事お疲れさま~」
「ネムねぇもな。仕事は終わったのか?」
「ううん~、まだ書類が少し残ってるの~」
「そっか、先に食べるか?」
「うん~! お腹ペコペコなの~、食べる~」
喋り方がとてもスローで、語尾が伸びているのが特徴の女性、ネム。
俺達の保護者で、小さい頃からよく面倒を見てくれた恩人だ。
俺が小さい頃は不器用でも頑張る姿を見て、とても頼り甲斐があるなぁと思っていたものだが、俺達が成長していく毎にぐうたらな性格が顔を出し始め、今ではすっかり俺に面倒を見られる側へなっている。
その最大の欠点が、お酒が好きすぎることだ。
さすがに教会では飲まないが、家に帰ればすぐ晩酌というほどの飲んだくれだ。
時々二日酔いのまま教会に行ったりしているが、罰は当たらないのだろうか。
そして容姿はミルねぇ以上のインパクトがある。
髪の色は輝く綺麗な銀色で腰辺りまでのロングなのだが、身嗜みを気にしない性格からかボサボサの髪をしている。
所々は寝癖で跳ねたり。
身長は百六十五センチほどで少しタレ目、少しミルねぇに似ているかもしれない。
そう、特に胸の大きい所なんてそっくり、……いやミルねぇ以上だ。
件の尺度によると、ケー。
ミルねぇより大きなあの塊に、どれだけ長い期間抗ってきたか。
保護者とは言っても、母というよりはお姉さんといった所な為、非常に危ない存在だった。
昔はお世話するんだと言ってお風呂に入ってこようとまでするし、今では面倒だから身体洗ってとまで言ってくる。
アリルとミルねぇからの凍える視線で俺を殺す気なのだろうか。
果てにはアリルとミルねぇも俺の身体を洗うと言って風呂に入ろうとしてくるし。
仕事中はシスター服を着ている間も破壊力抜群の肉体は浮き出るように着飾られ、教会に来る男性達の半分がネムねぇ目当てになるくらいに凄まじい。
だが、家では下着しか着ない。
これが一番困る。年頃の男がいるのに、何度言っても聞かないし直さない。
だらしなさは家族一で、時々色々な部分が見えそうになるので勘弁してほしい所だ。
「どうしたのユードくん~? 私の服に何か付いてる~?」
「いや、何でもないよ」
「そっか~。お~ユードくんのご飯、今日も美味しそうだね~」
目を細めて喜んでくれるネムねぇを見ると、料理を作って持ってきた甲斐があるというものだ。
「ああ、食べてくれ」
「うん~、いただきます~」
俺の作った野菜と肉の炒め物を美味しそうに口に入れるネムねぇ。
凄まじいスピードで次々と飲み込む前に入れていくので、頬っぺたがどんどん膨れ上がっていく。
まるでペットとして流行している、ラムスターという小さくて足の速い動物みたいだ。
以前、ペットの捜索依頼で探したことがあるけど、かなり似てるな。
「もがもが、ぬーもむん、んっ、もーがもんばっま?」
「口の中のものを飲み込んでから話せ、ほら」
「ん、んくっ、ふ~。ユードくん、今日はどうだった~?」
俺が教会に備え付けられているキッチンから汲んできた水を渡すと、口の中のものごと飲み込んでしまった。一体どんな喉をしているのやら。
というかもうちょっと味わってくれ、寂しいじゃないか。
そうして落ち着いたネムねぇは引き続き料理を食べながら、今度はゆっくりとしたペースで食べながら話を振ってくる。
話をする為にも、ネムねぇの向かいへと腰掛けた。
「どうって、仕事か?」
「そうだよ~。この頃信者の皆から、なんでも屋が来てくれたって話をよく聞くんだ~。活躍してるみたいだね~」
「まぁ、活躍と言っていいものかは分からないがな」
「でも、あたし的には嬉しいかな~。街中なら危険も無いんだし~」
「まぁな。でも稼ぎは少ないし、代わりと言っていいのか分からないけど、アリルが危険なモンスターと戦ってるし。時折、何やってんだろうなって思うよ」
俺がそう言うと、ネムねぇはフォー持っていない手で俺の頭を撫でる。
少し恥ずかしいが、安心するものだ。
「アルは優しいからね~。ユードくんはミルの為に沢山頑張ってるんだから、もっと休んでていいんだよ?」
「頑張ってる、か。これで皆を食っていかせられるくらい稼げれば文句はないんだがな」
「そうだね~。心配だけど、アルは戦ってないと不安そうだからね~。とりあえず家計は安定してるんだし、もうちょっと休んでもらうように言わなきゃね~」
「全く、父に似て戦闘大好きなのかね」
「……ユードくんも、本当は戦いんでしょ?」
食事の手を止めたネムねぇはこちらを覗き込むように見てくる。
その心配と期待が交じった目に、俺は目を逸らすことしかできなかったが、ネムねぇは俺の行動から感じ取ったようだ。
「ミルも落ち着いてきたし、ユードくんが戦いたいなら私が代わりに~」
「いい。それにネムねぇには朝から仕事がある訳だし」
「でも」
「大丈夫だ、それに街中の仕事も捨てたもんじゃないからな。色んな事に、色んな人に触れられるし」
「……そっか~。じゃあ、しょうがないね~」
「そうだな。仕方がない」
完食したネムねぇは優しい目でこちらを見てくる。
俺が胸の底に隠していることもお見通しなんだろうな。
でも、俺は今のままでいい。
なんでも屋という、戦わない臆病者というレッテルを貼られたとしても。
俺は家族を守ることができればそれでいい。
二人で並んで、教会のキッチンで食器を洗う。
とは言ってもネムねぇは不器用なこともあり家事が上手ではないので、俺が洗ってネムねぇが布で水分を拭き取る形だ。
俺の以外の家族、家事ができないってどういうことだ?
「そういえばね~、この頃参拝してくれる人が増えてるんだよ~」
「そりゃ良かったな。この前教会の前で信者さんが奥さんに連れて行かれてたけど、よく減らなかったな」
数日前、ネムねぇ目当てで参拝していたおっさんが、激怒した奥さんに殴られて連れて行かれた事件があった。
あの時見ていた人の中にもネムねぇ目当ての人は多いと思うのだが。
それでも増加傾向にあるということは、偏にネムねぇの布教活動のお陰かもしれないな。
「あれは怖かったね~後で懺悔室に来たもん~」
「そりゃまぁ、来るよな」
「髪の毛も奥さんの手でばっさり剃られてたし、反省してくれたみたいだよ~」
「そうか、大切なものを失くしたんだな……」
「でもソーシャ様は赦してくれますから~」
「一番赦さないのは奥さんだろうけどな」
名前も知らないおっさんだが、どうか元気でいてほしいものだ。
女神ソーシャの救いがあらん事を。
まぁネムねぇに色目使ってる時点で断罪されてもいいと思うけど。
いや、もう奥さんに断罪されてたか。
「それにしてもよく見てるんだな。普通増えてるか減ってるかなんて気付きにくいんじゃないか?」
「これでもこの教会唯一のシスターだからね~。信者達のことはバッチリ把握してるの~。馬鹿にしちゃ駄目だよ~、ぷんぷんっ!」
「ごめんごめん。まぁ頑張ってるんだな、ネムねぇも」
「うん~、ユードくんが毎日美味しいご飯作ってくれてるからね~。元気百倍だよ~」
「そいつは単純なこって」
そうして食器を持ってきた食事を持ってくる時に使った箱に入れ、ネムねぇが教会の戸締まりをして共に外へ出る。
肌寒い風が顔に当たる中、俺は白い息を吐きながら魔法を詠唱して辺りを照らす。
ネムねぇが戸締りの確認をしている間、ボーっと空を埋め尽くす星々を眺めていると、突然後ろから手を握られた。
驚くように振り返ると、シスター服の上にコートを着たネムねぇがえへへ~と笑いながら俺の手を掴んでいる。
「はぁ、さっさと帰るぞ」
「うん! えへへ~」
可愛いお姉さんだこと。
「ただいま~」
「ただいま」
「おかえり!」
「……おかえり、ユー。ネム姉さん」
俺達が帰ると、まだ寝ていなかったアリルとミルねぇが出迎えてくれた。
石鹸のいい匂いを香らせて、生地の薄い夜間着を着た二人は妙に艶っぽい。
特にミルねぇ、襟元がぶかぶかすぎる。
もっとお淑やかになってくれ。
「よ~し、それじゃあ飲むぞ~!」
「駄目。先にお風呂行ってこい」
「え~!? 一杯だけでいいから~」
ネムねぇは俺に撓垂れ掛かっておねだりをしてくる。
上目遣いやめろ。
後、デカい胸を押し付けてくるな、お酒渡しそうになるだろうが。
「ネムさんの一杯は酔いつぶれるまで飲むから駄目だよ!」
「……ネム姉さん、お風呂入って」
姉と妹の援護を受け、どうにか俺の理性は陥落せずに済んだ。
毎日こいつら家族と暮らしてる訳だけど、未だ慣れないもんだ。
その内心臓に疾患でも罹るんじゃないか。
「分かったよ~。それじゃユードくん、お酒の準備よろしくね~」
「分かったから離れろ。まだ酔ってないだろうが!」
「えへへ~」
ネムねぇは撓垂れ掛かったまま、更に身体を押し付けるように腕を回してきた。
そうなってくると、二人も負けじとくることになる。
「あっ、じゃあ私も!」
「……ひしっ」
「離れろって! お前ら女の子らしくしろよもっと!」
「……その結果だから」
「だね!」
「えへへ~」
柔らかい感触と、言葉とは裏腹に感じる女の子らしい香り。
俺もアリルも鎧を脱いでいるから、柔らかい膨らみもスベスベな肌の感触も全てが脳に伝わってしまう。
いかん、このままでは俺の理性が崩壊してしまう。
「おいどこ触ってる! 離れろぉッ!!」
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