銃剣使いとアストラガルス ~女の子たちに囲まれる、最強と呼ばれた冒険者の物語~

夕月かなで

第11話 能力と飯と我が儘ウェイトレス

 動物と意思を交わす事ができると言った姫さんは、俺達が驚いている顔を見てニシシと笑った後、詳しい説明を始めた。

「実はね、私は先天的自発能力スキリエルを持っているの。王族の遺伝でね」
「マジか」
「マジよ」
「そ、それって本当に教えてよかったの? わ、私達消されちゃったりしない?」
「大丈夫よ。無理矢理言わされた訳でもないし、私としても隠したままは嫌だし」

 先天的自発能力 スキリエル は、能力を生まれ持った人のことだ。
 もう一つ先天的自然能力 アビリエル というのものがあり、違いは自分で発動を操作できるかできないかという部分だけ。
 先天的自発能力とは自分で操作できるものだ。

 これまで会ってきた依頼者や冒険者の中に、そういったものを持っている人もいた。
 研究者の論文によると能力の強さは人それぞれで、少しだけ触らずに物を動かせるものから、音の反射を利用して空間を把握するものまで多岐に渡るらしい。

「私の先天的自発能力は、動物奏者タクト・アニマっていうの。動物と意思疎通をしたり、動物を操ることができるわ」
「……すごい。お喋りできる?」
「ええ。王城で暮らしていた時は、よく王城の小屋でスフォーやお部屋でペットにしてたクーホとお話してたもの」

 スフォーは多分、騎士団の騎乗部隊とかスフォー車用として王城にもいるんだろうな。
 クーホっていうと爪の鋭い鳥で、大きい奴はモンスターにも属するんだが、それをペットにしているとは流石王族という所だろうか。
 冒険者に仲間として連れている奴は見かけたことがあるが、ペットにしている奴は初めて見た。
 しかし、部屋で一人ペットと喋っている王妃様か……。

「なんかその光景を思い浮かべると、涙が出てくるんだが」
「べ、別に寂しいからって訳じゃないからね! 能力っていうのは使えば使うほど身体に馴染んで、より効果が強くなるの。だから普段から使うようにしてるのよ」
「頑張ってるんだね! フィーちゃん!」
「ほ、褒めないでよ。恥ずかしいじゃない。……でも、ありがと」

 無垢なミルねぇに褒められた姫さんは、顔を紅くしてそっぽ向いた。
 ミルねぇの甘やかしのターゲットになったみたいだな、よく甘やかされる俺には苦労が分かる。
 まぁ頑張れ。

「んで、その能力を使えばこの依頼を達成できると?」
「そうよ。以前王城でも使用人の飼ってたキャッシーが逃げちゃったことがあって、周りにいた動物達に話を聞いて見つけたことがあったの。だから同じことをすれば、私でもこの依頼をできるかもしれないわ」
「……よし、分かった。じゃあこの依頼は受けることにしよう。後二つは、さっき渡した中から選んでくれ」
「ありがとう!」

 そうして姫さんは俺もよく知っている商店の掃除と、小包配達の依頼を選ぶ。
 俺が依頼内容と頭の中の地図とを比べて、最適な順番を考えた結果、ペット探し、小包配達、掃除の順番で行くことにした。
 受付にいたラジクに依頼書を持っていって、どうせならと姫さんに依頼の受注をやってもらったが、目をキラキラさせながらラジクに依頼書を渡していた。
 普段やらないことをやってテンションが上がっているらしい姫さんは、受注を終えると俺達に元気よく声を掛けた。

「じゃあ早速出発よ!」
「ああ、行こうか。……飯を食いに」

 依頼をやる気満々だった姫さんだが、俺の言葉に空腹を思い出したようでキュルルという可愛い音を鳴らした。
 途端に顔を紅く染める姫さんを連れたって、俺達はよく行く酒場へと足を進めるのだった。
 その間、姫さんはお腹の音を紛らわすことで忙しそうだったが。

「ち、違うのよこれは! そ、そう!ユードよ! お腹空いてるのよねユード!」
「いやまぁ、空いてるには空いてるが。ぎゅーぎゅー言ってる姫さんよりは空いてないな」
「ち、違うもん! そんなの言ってないもん!」
「フィーちゃん、言葉遣いが変になってるよー」
「……幼児退行」
「う、うるさーい! さっさと行くわよ!」

 どうやら、仲良くやっていけそうな気がする。



 少しお昼には早い時間、俺達は行きつけである酒場ウィルヘイムへとやってきた。
 酒場という名前通り夜は酒と料理を楽しむ場所だが、昼も営業している。
 安くて美味いと評判で、近所の住民たちがよく食べに来ているのだ。
 俺は冒険者でも街中の依頼を取り扱うなんでも屋だった為、数日に一回は来る行きつけになってしまった。
 アリルは討伐に行く事が多いので、お昼にここで一緒に食べるという機会はあまり無かったのだが、晩飯としてネムねぇを含めた家族で来る事もある店だ。

「いらっしゃいませなのだ! あ、ユーさんなのだ! 4日振り!」
「よぅスズ。昼飯食いに来たぜ」

 この酒場の看板とも言えるウェイトレス、スズ・ベアが、テーブル席に座った俺達にメニューが書いてある本と水の入ったコップを持ってきた。

 茶色のふんわりと浮いているようなショートボブに、アリルより少し小さい身長。
 丸っこい目はその人懐っこさを表しており、この酒場で一番人気のウェイトレスだ。
 衣装はウェイトレス用の、ドレスと言うには簡素で普通の服というには装飾が多い。
 丁度、間を取ったようなものだろうか。
 下着が見えそうになるくらいの短いスカートは二重になっていて、内側の一枚についたフリルで可愛さを増幅させている。
 上半身は大胆にお腹を見せる服装で、胸元の下から大きく三角のように清潔感溢れる真っ白服が分かれ、色気を出している。
 そして大きめの襟の中から出てきた真っ赤なリボンが胸元をより強調させている。

 尚、彼女には胸が無い。
 トリプルエーというらしい。
 きっと俺がその話題に触れることは、死を意味するだろう。
 なので胸についての話は以上とする。

 そんなスズは、俺の一つ下で十八歳だ。
 お昼と夜は酒場で働いていて、それ以外の時間では街中での酒場の宣伝をしており、ばったり出会うことも多い。
 一応、家族以外では一番顔を合わせている子だ。
 それに俺のこともユーさんと呼んで慕ってくれているし。

「スズちゃん、こんにちは!」
「……スズくん、久しぶり」
「いらっしゃいなのだ、ミルルお姉さんにアリルも」

 こんな感じでミルねぇとアリルとも仲が良い。
 お店の料理が美味しいこともあるが、仲の良い店員がいることも俺達がよく通う理由の一つかもしれない。
 時折俺に聞こえないようにこそこそと話しをしている事があるが、多分女性だけで話したい事もあるだろう。
 そういう時は見ない振りをしている。

「アリルがお昼に一緒なんて珍しいのだ。それに今日は新しい顔もいるのだ」
「あ、この子はフリ」
「フィーよ。少しだけユード達と一緒に行動することになったの。よろしくね」
「……へぇ。フィーさん、だね。……覚えたのだ! これから酒場ウィルヘイムをよろしくなのだ!」
「え、ええ。よろしく、スズさん」

 ジロジロと観察された姫さんだったが、何とかスズとのご対面も無事に終わった模様。
 そうしていると、厨房で料理をしていたこの酒場の主人でもあるウィルヘイムのおやっさんがやってきた。
 しかし今日も筋肉ムキムキだなおやっさん。
 半袖から飛び出る太い腕が、美味しい料理の秘訣なのだろうか。

「ようおやっさん。来たぜ」
「ちゃんと約束守ったみたいだな! スズ! 料理を五番テーブルに運んどけ! つーかサボってねぇで仕事しやがれ!」
「だってユーさんが来たのだー!」
「だってじゃねぇよ! 給料減らすぞ!」
「うぐっ、じゃ、じゃあユーさんまたなのだ!」
「おう、またな」

 慌しく料理を運びに戻ったスズを見て、おやっさんは溜め息を吐いた。

「ったく、あいつもユードにはご執心だな。それで、ユード。ギルドのジジイからは話を聞いてるよ」
「そうか。一応俺からも伝えておくが、上の個室をこれから六日間使いたいのと、俺達とこのフィーって子の情報を漏らさないようにしてくれ。後、もしも何かあったらフィーをここに避難させる可能性もある、その時はよろしく」
「おう、ジジイに聞いた通りで安心したぜ。フィーだったか? 困ったらいつでも来な。美味い料理はいつでも出してやるぜ!」
「え、ええ。よろしくお願いするわ」

 姫さんを安心させる為なのかは分からないが、自慢の筋肉を見せびらかすように力瘤を作るおやっさん。
 ちょっと暑苦しくて、姫さんが引いてるぞ。

「それじゃ、個室使うぞ?」
「おう。二階上がって右手の部屋な」
「了解」

 俺達はおやっさんに言われた通りに酒場の階段上がって右手の個室へと入った。
 個室の中には大きな円状のテーブルと、その周りに置かれた椅子があり、普段は使われていないはずだが綺麗に掃除されていた。
 料理を扱う店として毎日欠かさず掃除しているのだろう。

 個室での注文は秘匿性が必要なので、専属のウェイトレス一人だけが担当することになる。
 俺達が席に座ってから少しして、扉を開けて入ってきたのはスズだった。

「ボクがユーさん達の専属になったのだ! 注文は任せてなのだ!」

 自信満々に言い放ったスズだが、何故お前は席に座った。
 その事には誰も突っ込まず俺達は適当に料理を決めるとスズはメモを取って出て行った。
 そして数分後、沢山の料理を腕を使って持ち運んできたスズは、再び椅子に座った。
 席順としては、俺から左回りにアリル、姫さん、ミルねぇ、スズといった形だ。
 何故座った。

「……スズ、仕事は?」
「今は余りお客さんがいないのだ。だから店長に少し休憩を貰ってきたのだ」
「いいのかそれで」
「いいのだ。細かいことは気にしちゃいけないのだ」

 スズから発せられる謎の圧力に屈した俺は、とやかく言わないことにした。
 給料、減らされないといいな。

 そうして食前の祈りを済ませた後、俺達はおやっさんの絶品料理に舌鼓を打った。
 姫さんも美味しいと言っているので、どうやら王族に認められたようだぞ、おやっさん。

 テーブル中央に纏めて置いた料理を、それぞれの皿に取り分けて食べていると、ふと姫さんは王族だし、食べる時のマナーが色々あるんじゃないだろうかと思った。
 聞いてみると確かにあるらしいが、今は郷に入れば郷に従えという精神で、俺達の真似をするように食べているらしい。
 それでも物音を立てずに食べている所を見ると、やはりお嬢様なんだなぁと思う。

「んで、なんでスズも食べてるんだ?」
「何か変なのだ?」
「いや、お前ウェイトレスじゃん」
「店長から許可は得てるのだ! それに量を多めに作ってもらったのは、ボクのお陰なのだ!」

 まぁ確かにいつもより多めに盛り付けてある気がするが……。

「それで、フィーさんとユーさんは一体どういった関係なのだ?」

 こいつ金は払うのだろうかと訝しげに見ていると、スズがそう話を切り出した。
 姫さんを睨みながら。

「ああそれは」
「ユーさんは黙るのだ」
「……ああ」

 酷くない? そんなに邪険されたら泣いちゃうよ?
 俺でも。

「そうね、昨日から七日間だけユード達に色々と教えてもらうことになったの。云わば先生と生徒のような関係ね」
「ほほう。ではフィーさんはユーさんのことをどう思ってるのだ?」
「どうって?」
「い、一杯あるのだ! かっこいい! とか、抱きついてみたい! とか、寧ろ抱かれたい! とか!」

 お前は何を言ってるんだ。

「うーん、まぁ顔を見る限りはかっこいいのかしらね?」

 それは嬉しい。
 おやっさんの料理に続けて、俺の顔も王族に認められたぞ。
 疑問系だからあんまり嬉しくないが。

「ゆ、ユーさんはボクのだ! 渡さないのだ!」
「いや。まず俺はスズの所有物じゃない」
「わ、渡さないったら渡さないのだー!」

 食事を止め、両手を挙げて抗議するスズ。
 暴走気味のスズの頭にチョップを入れ、俺は姫さんに謝る。

「すまんな、こいつ馬鹿なんだ」
「そ、そう。元気があって、何というか、いい子なのね」
「因みに、お前の一個上だからな」
「ええ!? 貴方、私の一つ上なの!?」
「ええ!? この子ボクの一個下なのだ!?」

 何故互いに驚く。
 そこまで予想外だったか?
 この事実を知った瞬間、スズは先程までの姫さんへの鋭い視線を和らげた。

「……ま、人間生きてればいいことあるのだ!」
「私の背丈を見て慰めようとするのやめてくれる!? 貴方もアリルやミルルに比べれば小さいじゃない!」
「それでもフィー程小さくはないのだ。フィーは絶望的なのだ」
「ま、まだ伸びるわよ!!」

 誰でも驚くだろうしな、まさかこんなに小さい子が十七歳で更に王女様だなんて。
 特に最後の部分は普通じゃ結びつかないだろ。
 あってどこぞの貴族のお嬢様、言い合いをしている様は庶民の子供と言ってもいいくらいだ。
 でも、胸は負けてるぞスズ。

「おいスズ! 追加の料理出来たぞ持っていけ!」
「はい! ただいま行くのだ! ユーさんは後でお話があるのだ」

 個室の扉の前まで来た店長に、呼ばれたスズはビシッと姿勢を正して個室を出て行った。
 というか怖いわ、俺の心を読むな。

 スズが料理を取りに行っている間に、重要な事を皆に確認する。

「外に出たときはフィーって呼べよ、ミルねぇ。さっき言いかけたろ」
「ご、ごめんなさい。次からはしっかりします!」
「よろしい。アリルも分かってるな?」
「……勿論」
「よし、スズが戻ってくるから、くれぐれも頼んだぞ」
「そうね、皆頼んだわよ」

 丁度姫さんが言葉を言い終えるくらいに、スズが料理を持ってやってきた。

「お待たせしましたのだ! 一先ずギューニの炙りソル焼きと、キャーベのマットソースサラダなのだ!」
「ありがとうスズちゃん!」
「では食べるのだ!」
「いや、仕事に戻れよ」

 再びスズが俺の隣へと座ったところで俺達は食事を再開する。
 間髪入れず、再びスズから話題が提供された。

「それで、今日はどんな依頼を受けるのだ?」
「いつも通りだよ。フィーがいるから数は少ないがな」
「いつも通りなのだ?……なるほど。確かにフィーさんは難しいことができなそうなのだ」
「よく分かったな」
「えっへんなのだ!」
「何故威張る」

 そうして俺達の楽しい昼食は、スズに引っ掻き回されながらも過ぎていった。

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