存在定義という神スキルが最強すぎて、異世界がイージー過ぎる。

つうばく

第3話 「何故だろうか。テンプレ外しでテンプレ現象が起きてる」

「娘の命を救ってくれたのだろう。この度は本当に助かった。私はノーヴァ公爵家現当主のガルバだ。本当にありがとう」

 そう言い、ガルバ様は膝に頭が付くぐらい深々と頭を下げた。

「ガルバ様、頭を上げてください。俺としては当然の事をしただけですから。それに貴族の方が俺みたいな平民に頭を軽々しく下げたりするのはいけませんって」

 まぁ、どうやってあの魔物を倒したのかは分からないけどな。

 それよりも、頭を上げてもらいたい。
 この状況、俺が悪いみたいだ。

「いや、大事な娘の命を助けてもらったのだ。貴族という立場は関係ない。今は一人の娘の父親として、だ。だから、貴族や平民など関係ない。本当にありがとう」

 そう言ってガルバ様は顔を上げた。

 この人、父親の鏡だなぁ。
 とっても良い人だ。

「それと、私のことはガルバと呼んでくれ」

「分かりました、ガルバ様」

「ガルバだ」

「ガルバさん」

「……まぁ、それで良いだろう。それとかしこまった敬語もいらん」

 もう、この人良い人過ぎるよ。
 ただ、貴族に敬語使うなって言われても、使っちゃいそうだなぁ。

「お父さん、シン様にあまり迷惑をかけないでよ」

「分かっている、分かっている」

 そう言いながらガルバさんは俺の方を見てくる。
 それも、ニヤニヤした顔で。

 ……何か嫌な予感がするのだが。

「それにしてもクリス。どうやら、相当、シン君の事を気に入っている様だなぁ。ノールに聞かせたら喜びそうだなぁ」

 やっぱり、そいう考えだったか。

 はぁー。
 誤解を解くのは面倒くさそうだな。
 まぁ、クリスがなんとかしてくれるだろう。

「そんなんじゃないもん! それになんで、お母さんの名前が出てくるの!」

 クリスは顔を赤面させて言った。
 ……クリスには期待しなかった方が良かったかな。

「いや、お前は今まで全くと言っても良いほど、色恋沙汰などに興味など無かっただろう? ノールもそのことで、相当頭を悩ませてた様だからな。もちろん、私も嬉しいぞ」

「なっ! だから、違うって!」

 そう、クリスはガルバさんに抗議していた。
 抗議という程のものでもないなぁ。

 痴話喧嘩というものだろう。

「そう言えば、そのお母さんは何してるの?」

「ノールは寝室で寝てる。ぐっすり過ぎて起こせないのだ」

「あぁ〜、お母さん寝てるの起されたら怒るもんね」

 そう言って二人はブルブルと震えていた。

 ……この家の支配権はクリスのお母さんにあるんだろうなぁ。
 ガルバさん頑張れ!

「そんな事よりも、話があったの。旅の途中でこんな物を見つけたから、お父さんに調べて貰おうって思ってて」

 そう言ってクリスは、床に置いていたカバンから何かを取り出した。

「何か良くわからない石と読めない文字が書かれた紙なんだけど……」

「そうか。ふむふむ。全く読めないなぁ」

「お父さんが知らないっていう事は古代文字ではないんだね」

「ああ。少なくともこの大陸の文字ではないだろうなぁ」

 ガルバさんって考古学者なのだろうか?

「ああ、置いてけぼりにしてすみません。お父さんは考古学者で、古代文字や古代呪文を研究してるんです。なので、知っているのかなぁーっと思ったんですが……期待はずれでしたね」

「ぐっ!」

「なんのために考古学者なのだか……はぁー」

「ぐぅっっ!」

「やめた上げて! それ以上ガルバさんをいじめないで!」

「シン様がそう仰るなら……仕方ないですね」

 ふぅ〜。

 それ以上やってたらガルバさん終わってただろうなぁ。
 実の娘にあそこまで言われたのだから。

 ただ、既にガルバさんは沈没していた。
 頭がガクッと下がっている。

 クリスはほっといてるし、そうしておこうか。

「俺にも見せてもらって良い?」

「あっ、はい。これです」

 そう言って解読不可能な文字が書かれているという紙を見せてもらった。

「……本当に読めないの?」

「はい。全く」

「そうか」

 ひとつ分かったことがある。

 ここの世界の文字というものは日本語ではない。
 かと言って英語などの文字でもない。

 ただ、日本語が通じているが……まぁ、何かあの声の主がしてくれたのだろう。

 いや、今となっては声の主というのは失礼か。

 あの神。
 それも女神様がそいうのを付けてくれたのだろう。

「どうかしたのですか?」

「ああ。俺さぁー」

「はい」

「この文字読めるわ」

 その解読不可能の文字はなんと日本語だったのだ。

「本当にか、シン君!?」

 沈没していたはずのガルバさんが物凄い速度で起き上がり聞いてきた。

 ……この人は大丈夫なのだろうか。

 今頃、心配になってきた。

「はい。何故か分からないですけど……」

 まぁ、日本語だからだが。
 こいうのは言わない方が良いだろう。

 日本語が広まるというのも悪くはないのだが……何かしてはいけない気がする。

「そうか。それで、その紙にはなんと記されているのだ!」

「えーとですね『この紙と一緒にある石に足りない事を記しときました。では、よろしくお願いしますね!』って書いてあります」

 まぁ、全部嘘なのだが。
 読んだのは最後の文だけだ。

「なんだ、ただの手紙であったか。だが、どうしてシン君にしか読めない文字で書いたのだろうな」

「さぁー。シン様。なにか心当たりでも?」

「全くないな。うーん」

 とりあえず、これで良いだろう。
 こんなのここで言えるものではないしな。


 本当に書いてあったのはこういうものだった。


『シン様へ。

 こいう形になってすみません。
 色々研究したところ、こういう風にだったら、契約には背かないようなので、こいう形になりました。
 シン様が転移したのは、神の世界で【アストラスト】と呼ばれる世界です。
 その世界では異世界の定番が揃っているかと思われます。
 その中で、やはり気になることでしょう。
 自分のステータスを。
 なので、その時に興奮して頂きたいがために、私は書かないことにします。
 ただ、シン様のスキルだけ、教えておきましょう。

 スキル【存在定義】

 シン様が放たれた言葉は、存在が定義されることとなります。
 まぁ、詳しいのは自分で考えてください。
 もしくは、冒険者ギルドにでも行ってみて。
 冒険者登録をすれば、鑑定水晶で自分のステータスを図れますから。
 あっ、出来れば誰かと行ってくださいね。
 驚く所を見たいですから。
 それと石にはちょっとした能力があるよ。
 グヘヘへ。
 では、その力を駆使して最強とされる敵を倒してください!
 私は裏世界から見守っておきます。

 ついでですが、その世界が滅びるというのは私が死ぬということですから。
 そこをきちっと覚えておいてくださいね。


 追伸

 私に会いたければ、そのスキルでどうにかしてね。

 それと、もしこれがシン様以外の人が取ったときは、どうにかして誤魔化してね。
「この紙と一緒にある石に足りない事を記しときました。では、よろしくお願いしますね!」的な感じで』


 という、なんとも大事なことを軽く書かれた手紙だった。

「まぁ、あの神らしいなぁ」

 ノリで俺をこんなところに送ったぐらいだし。

「何か言いましたか?」

「いや、なーんにも」

「そうですか」

 だが、そのお陰で今があるんだしな。
 あいつには感謝しないと。

「これは私が預かっても良いかな?」

「私はそれで。シン様は?」

「……いや、俺が預かっても良いか?」

 この手紙、それに石はあの神からの贈り物だ。
 これは俺が持っておくべき、なはず。

「ああ、もちろんだ。娘を助けてくれた恩人に、無理、など言うわけないだろ。どうぞ、貰ってくれ」

「ありがとうございます」

 これで、ゲットだ。
 俺は受け取った紙と石をソファーの横っちょに置いておいた。

「シン君よ。お主はこれから行くあてでもあるのか?」

 俺にガルバさんが聞いてきた。

 行くアテか。
 ……全くない。

「ないですね。旅の途中だったのですが、いつの間にか迷ってしまい、気付いたら手ぶらだったもので」

「……悲惨じゃったな」

「はい……」

 なにか空気が重たくなった!?

 どうにかして変えなければ。

「であれば、お主、この王都にある私の別荘に少しの間住むか?」

 願ってもいなかった話だ。
 こんなの断るわけない。

「ありがとうございます! とりあえず自立出来るぐらいまで使わさせていただきます」

「うむ。それとクリス。さっきからうずうずしておるがお主はもちろんこっちだぞ」

「えぇ〜。お父さんのケチぃ〜」

「ケチではない。それにシン君もそれじゃあ気が休まんだろ。我慢せい」

「……はい」

 ガルバさんの説得でどうにか、なったようだ。
 ……一瞬、クリスが来たらどうしようと思っていたのだが、良かった良かった。

「なんで、シン様はそんなに嬉しそうなのですか。私といるのは嫌なのですか」

 こいつ。
 俺に八つ当たりしてきやがった。

「違げぇーよ。ただ、嬉しかっただけだよ」

「私と離れるのが?」

「だから、違うって」

 なぜ、そこにそんなこだわるんだ。
 はぁー。

「ただ、初めて会ったような俺にここまでしてくれてさぁ」

「当たり前だろ。娘の恩人なんだ。それに ────」

 ガルバさんは続けて言う。

「将来の息子になるかもしれんからな」

「そうですね」

 ……この親子は大丈夫だろうか?

 というか、ならないよ。

 ならないからね。

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