人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』で成り上がる~

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44  黒白の町

 




 壊滅したイングラトゥスを発ってから3日が経過した。
 一旦トランシーへと戻り、その日のうちに南下。
 翌日の昼頃に次の町アルウェウスに到着し、そこで一泊して、鉱山町モンスへと向かった。
 モンスでプラナスの手配した帝国への案内人と合流すると、いよいよ国境越えだ。

 馬車の前方には小さく、至る所から煙の立ち上るモンスの町並みが見える。
 モンスは鉱山町であると同時に、レグナトリクス王国随一のアニムス生産地でもある。
 戦時中、しかも国境地帯が近いとなれば、職人たちは常に大忙しだろう。
 煙突から上がる煙たちは、その多忙さを象徴しているに違いない。

 さて、そんなモンスへの道中。
 僕は膝の上にエルレアの体を乗せ、百合にひっつかれながら馬車に揺られていた。
 2人ともそれぞれ僕の胸と肩を枕にしてぐっすりと眠っている、昨日の夜更かしが祟ったんだろう。
 実は、僕もついさっきまで寝ていた。
 目を覚ましたのは、袋の中のオラクルストーンからプラナスの声が聞こえてきたからだ。

『首尾はどうですか、そろそろモンスに到着した頃でしょうか?』
「うん、ちょうど町が見えてきたとこ」

 2人を起こさないよう音量を落としながら、プラナスに返事をする。

「そっちは何か動きがあった?」
『はい、ミズキと手を組むことにしました』

 僕はすぐさま言葉を返すことができなかった。
 しばしの沈黙。
 ガラガラと車輪の回る音と、少女2人の微かな寝息だけが響いている。

「ごめん、よく聞こえなかったんだけど」
『ええ、ですからミズキと手を組んだんです。今からその理由を説明しますので、聞いてもらえますか?』

 どうやら僕の聞き間違いじゃなかったらしい。
 水木と言うのは、あれか。あいつか。殺しても殺し足りないほど憎いあいつのことなのか。
 で、手を組んだと。
 水木と誰が? なんて自問する必要はない、プラナスだ。
 それを僕に告げるプラナスの声はやけに落ち着いていた。
 王国魔法師なんて名乗るぐらいなんだ、プラナスはおそらく頭がいい。
 湧き上がる怒りがゼロと言えば嘘になるけど、まずは話を聞こうと思った。
 彼女には彼女のなりの正当な理由があるはずだから。

「聞く、から。僕が我慢できてるうちに言って欲しい」
『わかりました。それではまず、先の話をするのに必要となりますんで、王都の現状から説明させてもらいます』

 プラナスは理路整然と語り始めた。
 城で何者かが暗躍し、大臣や王が精神的な攻撃を受けているということこと。
 その現象を彼女は”汚染”と呼び、汚染現象は日に日に規模を大きくしているということ。

「オリハルコンは素晴らしい物質です?」
『ええ、取り憑かれたように繰り返すんです。他の話題なら普通に会話が成立するんですが、少しでもオリハルコンが絡むと理屈が通用しなくなります』
「まあ、プラナスたちがすごく追い詰められてるってのはわかった。けど、どうしてそこで水木が出てくるわけ?」

 アイヴィもまだ無事だと言うのなら、2人で問題解決を目指せばいいだけの話だ。

『私だって最初は突っぱねました。ですが、少し考えてみたんです』
「何を?」
『水木の目的は、汚染回避、及びシロツメさんと戦うための”力”の取得です。それって、あなたが望んでいることですよね』

 プラナスは、真偽を確かめるためというよりも、わかりきった問いの答え合わせをするために聞いているようだ。
 なら素直に答えてしまおう。

「確かに、僕は水木に自分を恨ませるためにあえて狙撃したよ。あっちから近づいてきてくれた方が手間は省けるからね」
『水木が汚染状態になるのも望むところではないのですよね?』
「まあね、どうせ殺すなら正気の方がいいかな」

 三洗の時はフリーシャに助けられたことも含めて、いまいちスッキリしなかったし。

『私としても、身近に情報源と味方は欲しいですし、だったら手を組む方が利口だと思ったんです。本当に役立つかはわかりませんが』

 言い方から察するに、プラナスは水木の人格に関しては一切信用してないみたいだ。
 それでいい、あいつは善人の面をしながら他人を騙せる悪人だから。

『それに、水木は私とシロツメさんが手を組んでいることを知りません。まさか自分がもたらした情報があなたに漏れているとは思いもしないでしょうね』
「なるほど、それは面白いね」
『でしょう?』

 無自覚ってあたりが特に良い。
 他人を弄んで遊ぶあいつにはお似合いの罰だ。

『というわけで、今後は水木の情報もそちらに渡せると思いますので』
「それは嬉しいんだけど、汚染とやらは本当に大丈夫なの?」

 王まで巻き込まれてるとなると、逆にプラナスやアイヴィが無事なのが不思議なぐらいなんだけど。

『感染源もわかったので大丈夫……と言いたい所ですが、もし私が妙な言動を初めたら、それ以降はまともに取り合わないようにしてください。そいつは私であって私ではない存在でしょうから』
「……わかった。ちなみに、原因って何だったの?」
『食事に混ぜてあったんですよ』
「薬物ってことか……」
『だったら良かったんですけどね』

 プラナスはため息混じりにそう言った。
 食事に混ぜられるのに、薬物ですらない。
 なら一体、何を使って城の人間たちは汚染されたって言うんだろう。

『アイヴィに城の厨房を調べてもらった所、緑色のキラキラ光る粉末が見つかりまして』
「まさか……」
『そのまさかです。薬物でも何でも無く、粉末状のオリハルコンそのものだったんですよ』

 三洗が侵食され、最終的に結晶化した時点で怪しいとは思っていた。
 しかし、こうなると、もうただの妄想とも言い切れない。
 馬鹿げた話とは思いながらも、ここは異世界、自らの常識を振り払いプラナスに尋ねる。

「もしかして、オリハルコンって生きてたりする?」

 人間を取り込み、あるいは人間に取り入り、意志に干渉し成長と増殖を促す。
 僕はそこに、種を残すという本能に近いものを感じていた。

『やっぱりそう思いますか。確証はありませんが、アニマを侵食したり、人間の精神を操ったり、ただの鉱石にこんなことできるわけありませんもんね。似たような存在だと私も思います』

 宿主にオリハルコンがどれだけ素晴らしいかを説かせるあたりは、寄生虫っぽくもある。
 とにかく不気味な存在だ、水木だけじゃなく、クラスメイトたちも無事だと良いんだけど。
 じゃないと殺してもすっきりしないし。

「ミサキさんっ!」
「ん? どうしたのラビー」

 プラナスとの会話に夢中になっていた僕は、焦った様子の声に釣られてラビーの方を見た。

「モンスの様子がおかしいんです。あの煙、炉から上がってるものだと思ったら違うみたいで」
『げ、よりにもよってこのタイミングで始まりますか……』

 ラビーの声を聞いたプラナスが、露骨に嫌そうな声を出す。

「プラナス、何か知ってるの?」
『戦争が始まってからと言うものの、モンスの労働環境はまあ酷い有様でして。労働者と資本家の間に軋轢が生まれてしまったんです』

 僕の視線の先では、まだ小さいものの複数のアニムス同士が戦闘している姿が見える。
 町のど真ん中で、建物を銃で蜂の巣にしようが巨大な足で踏み潰そうがお構いなしだ。

「僕にはあれがただの労働者と資本家の対立には見えないんだけど」
『ええ、本来は武力衝突になどならないはずでした。なにせ資本者側が金の流れを握ってるわけですから。ですが、最近になって帝国が労働者側に支援を初めたようで、彼らは身の丈に合わない戦力を手に入れてしまったんです。で、戦力がほどほどに拮抗して内紛が泥沼化してしまった、と』

 帝国も、その手の工作活動はきっちりやってるわけだ。
 本来なら騎士あたりが出張って収めるんだろうけど、今はそんな余裕もない。
 実はオリハルコンを城にばらまいたのも帝国だったりしてね。

「早いとこ帝国に行きたいんだけど、戦闘は無視してもいいの?」
『可能なら避けてください。どうしても王国を潰したいと言うのなら、労働者側に肩入れしてみてもいいかもしれませんが』
「帝国へのコネも作れると」
『そういうことです。ま、そのあたりの判断は任せます』

 任せられてしまった。
 前向きに考えれば、任せても大丈夫なぐらい余裕はあるってことか。
 つまり背部ブースターの実用化はおろか、次期試験の予定すら立っていないと。
 どうせこの町を抜けたら次は帝国だ。
 プラナスの言葉に乗って、肩入れしてみてもいいのかもしれない。
 あれだけの規模の町ならアニマ使いも居るだろうし、捕食で戦力増強するのも手だ。

「寝起きでミサキの悪い顔を見れたのは幸運です」

 いつの間にか、エルレアのつぶらな瞳がこちらを見つめていた。

「おはよ、そんな顔してた?」

 手で彼女の髪をすきながら言うと、気持ちよさそうに目を細める。

「昨晩、私にいじわるした時と同じような顔をしていました」
「はは、そりゃさぞ悪い顔だったろうね」

 ふくれながら言うエルレアを見て、僕は苦笑した。
 昨晩はほんと楽しかったからなあ、悪い顔だってしたくもなるよ。
 きっと、僕だけじゃなくて百合も似たような顔をしてたんじゃないかな。



 ◇◇◇



「ウルティオッ!」

 単身戦場のど真ん中に突っ込んだ僕は、アニマを発現させる。
 労働者側の戦力は、8機の旧世代機プルムブムと、アニマが1機。
 対する資本者側は、12機の現行機アルジェント、2機のアニマに、金色のやたら派手なアニムス。
 見覚えのない形だな、もしかしてあれが最新鋭機”アウルム”だったりするのか。
 まだ戦場にも十分な数が配備されてないのに、内紛なんかに使ってる余裕があるのかな。

 さて、数の上では圧倒的に労働者側が不利。
 いくらプルムブムがカスタムされているとは言え、数で勝る次世代機に勝てるはずがない。
 それにアニマ使いの数でもあちらが上だ。
 そこに僕が介入して戦況がひっくり返るか否かは……アウルムと、2機のアニマの実力次第かな。

「誰っ!?」

 労働者側のアニマ使いが声を上げる。
 女性の声だ。
 アニマは黄色くてゴツくて、特に右手の三つ爪の無骨なクローなんて、露骨に建設機械を連想させる見た目なのに。
 てっきり髭の生えたおっさんだと思ってたよ。

「説明は後でするから、今は味方とだけ思っといて」
「よくわかんないけど……助かるわ、正直きつかったから!」

 そう言いながら、アニマはアルジェントの群れに突っ込んでいく。
 僕の介入によって攻撃が分散したせいか、敵アニムスが放つソーサリーガンの弾幕には明らかに隙間が出来ていた。

「おおおおおぉおおおりゃああああぁぁぁぁっ!」

 アルジェントの懐に飛び込むと、迫力満点の叫び声と共に腕を突き出し、クローでその胴体を掴む。
 ガシャンッ!
 敵を捉えると、クローの三つ爪は閉じ、掴まれた機体はみるみるうちにひしゃげ、潰されていく。
 いくら相手のアニムスだとは言え、あまりにもろすぎる。
 元から敵が消耗していたのか、それともあのクローが規格外の威力を持っているのか。
 周囲のアニムスがソーサリーガンを向け救助を試みるものの、アニマはびくともしない。
 バキィッ!
 やがてクローによってアルジェントは真っ二つに両断され、完全に機能を停止した。

「まだまだぁっ!」

 気力に満ちたアニマは、すぐさま次のアルジェントへとクローを向ける。
 一方、敵側のアニマは労働者側のプルムブム8機によって足止めされ、隔離されていた。
 アニマ同士ではぶつけさせない、足止めしている間に敵を消耗させる。
 そういう役割分担なんだろう。
 旧世代機のプルムブムと比べると、当然アルジェントの方が1機あたりのコストは高い。
 つまり、戦闘が長引けば長引くほど資本者側が損をするってことだ。
 しかし、いつまでもプルムブムで2機ものアニマを止めておけるはずもない。
 アニマ使いの彼女に求められているのは、一刻も早く相手が撤退を決めるほどにアルジェントを減らすこと。
 つまり僕がやるべきは、そんな彼女の手伝いをして、アルジェントを1機でも多く撃破することだろう。

「早いッ!?」

 一息でアルジェントの懐に入り込み、手甲剣シヴァージーで一閃。
 もちろん周囲からは無数の弾丸が飛んでくるが、HPにはまだ余裕がある、意に介さず攻撃を続行する。
 シヴァージーで斬られた相手はよろめきながらも、至近距離でソーサリーガンをこちらに向けた。
 僕はフリームスルスを発動し、敵を凍らせる魔力を纏った足で、銃口付近を蹴り上げた。
 パキ……。
 ぶれた照準をすぐさまこちらに向けて引き金を引くが、弾丸は出てこない。

「なんでだっ、弾が出ないぞ? 故障か!?」
「違う違う、凍ったんだよ」

 戸惑う男に優しい僕は答えを教えてあげながら、敵の頭部パーツに手のひらを押し付ける。

「アグニッ!」

 そして押し付けた手から火炎放射を放った。
 ゴオオオォオオッ!
 赤い炎がアルジェントを焼き尽くす。
 最初こそもがきながら障壁で耐えていたものの、じきにHPを失ったアルジェントは、頭部から肩に掛けてどろどろに溶けてゆく。
 コクピットの中もいい具合に灼熱地獄になってるはずだ。
 これじゃ機体の機能は無事でも、パイロットは生きてはいまい。

「くそっ、よくも仲間をおぉっ!」
「殺してやるぅぅぅ!」

 ありがちな小物台詞と共に、さらに2機のアルジェントがサーベルを展開して接近してくる。

「スキル発動ブート羨望せよ我が領域ナルキッソス!」

 足元に放たれる弾丸を避けつつ、スキルで空高く跳躍。
 くるりとバク宙を決めながら、空中でもう一度魔力によるブーストをかけ、地表のアルジェントめがけて急降下する。

「使ってみるか……ピールピアサー」

 ヴゥン、とかかとから細く鋭い紫色に光る刃が、垂直に伸びる。
 先日、三洗たちと交戦した時に手に入れた武装だ。
 かかとに小型のソーサリーサーベルを展開、蹴りと同時に相手を突き刺すという使い方をするらしい。
 いかんせん地味で使いにくいと思っていたけれど、こんな具合に羨望せよ我が領域ナルキッソスと組み合わせて使えば――
 ザシュッ!
 高所からの重力を利用した飛び蹴りは、アルジェントの顔面ど真ん中に命中。
 同時に、かかとに展開した刃が杭のように突き刺さった。
 そしてそのまま、横向きに地面に倒れていく。

「おっと」

 倒れゆくアルジェントを蹴って飛び上がり、どうにか着地した。
 アルジェント自体はまだ活動できる程度の傷だったはずけど、突き刺さったサーベルが運良くコクピットに貫通したのかな。

「おおおおおぉおおおっ!」

 もう1機のサーベルを手にしたアルジェントは、玉砕覚悟で特攻をしかけてくる。

「そんな大ぶりじゃね」

 ブンッ!
 力任せに振り下ろされたサーベルを軽々と回避。
 勢いのまま通り過ぎていったアルジェントがこちらを見ていないことを確認すると、

「スキル発動ブート親愛なる友スウィンドラー

 スキルによって一瞬で”アルジェント”の姿に擬態した。
 すぐさま振り向いた敵は困惑した。
 さっきまで敵が居たはずの場所に味方機が居る。
 おかしい、距離からして一瞬で味方があそこに移動することはできない、しかし敵はどこにも居ない。
 一体何が起きているというのか――と。
 戸惑う彼に歩み寄りながら、僕はすぐさま種明かしをした。

「ヴァジュラ」
「……へ?」

 武装を発動させると瞬時に擬態が解ける。
 相手はようやく目の前のアルジェントが敵だと言うことに気づくも、もう遅い。
 至近距離で放たれる超高温のビームは一瞬にして相手のHPを消し飛ばし――アルジェントは上半身をどろどろに溶かされ、下半身だけとなって倒れた。
 一瞬にして3機も味方を落とされ、残った3機のパイロットの士気は見るからに低下していた。

「やるじゃんあんた!」

 女の乗るアニマは2機目をクローで破砕しながら言った。
 見たところ、近接特化型のアニマか。
 武装の貧弱さを、高い耐久、出力、機動性でカバーしている。
 アニマが使い手の魂を象徴するというのなら、きっとがさつで明るい女性なんだろう。

 僕たちが2機でアルジェント5機を撃破している間に、敵のアニマ2機は3機のプルムブムを撃破していた。
 損失は決して小さくない。
 けれど、相手は12機中5機ものアニムスを失った。
 被害はこちらの比ではない、もはや作戦を続行するのは不可能だろう。
 敵側の2機のアニマが戦闘を中断し、プルムブムから距離を取る。
 同時に、残り7機のアルジェント、そして1機のアウルムも攻撃の手を止めて後ずさった。
 そういやあのアウルム、最新鋭機のくせに何もしてこなかったけど、何のために戦場に出てきたんだろう。
 お偉いさんが乗ってるのか、はたまたあの機体がハリボテだけなのか。

「おととい来やがれ! べーっだ!」

 黄色いアニマは、背中を向け撤退する敵に向けて、舌を出す素振りをして見せた。
 意外と子供っぽいんだな……。

「どこの誰だか知らないけど、助かったよ。ありがと!」
「どういたしまして」

 僕だって本当は助けるつもりなんて無かった。
 まず最優先に帝国への案内人と合流して、話を聞いて、その上で戦闘に参加するかどうか検討するつもりだったんだけど――

『あたしは許さないっ、家族の命を奪ったあんたたちを、絶対にッ!』

 そんな声が聞こえてきて、加勢せずにはいられなくなってしまった。
 帝国や王国の思惑は別として、同じ復讐者として、共感できる部分があったから。
 確かに彼女は王国の人間だけど、彼女に加勢することが王国への復讐になるって言うんなら、ためらう必要だって無いわけだしね。

「あたしの名前はソレイユ・ヘリアンサス。で、このアニマはウェールスって言うんだ。あんたは?」
「僕はミサキ・シロツメ。このアニマはウルティオだよ」
「そっか、よろしくなミサキ!」

 馴れ馴れしい割には、不思議と嫌味に感じない。
 こういうのがコミュニケーション能力が高いって言うんだろうな、羨ましい。

「良かったら、あたしたちの基地に来ないか? お金に余裕はあんまり無いけど、お礼ぐらいは出来る思うんだ」
「遠慮しとく、行かないといけない場所があるから」

 彼らに味方するとしても、一旦案内人とは会っておかなければならない。
 僕はアニマを解除して馬車を追おうとした。
 するとソレイユも追ってアニマを解除し、人懐こい笑顔を浮かべて近づいてくる。
 髪はオレンジ色、耳が隠れる程度のショートカットで、若干ぼさっとしているのが彼女の性格を一番象徴しているように思えた。
 年齢は20歳前後だろうか、エルレアよりは少し年上に見える。

「うわ、思ったより若いんだな」

 そう言いながら、彼女は僕に手を差し出した。
 握手を求められているらしい。
 仕方ないので握ると、思った以上に強い力で握り返された。

「ありがとな!」

 それを言うためだけにわざわざアニマを解除して近づいてきたらしい。

「さっきも聞いたんだけど」
「”ありがとう”は何回言ったって損はしない。助けられたのは事実なんだから、お礼できない分だけ誠意ぐらいは示させてくれ」

 ほんと、これっぽっちも嫌味がないやつ。
 善人なんだろうけど、簡単に他人に騙されそうな危うさもある。
 あまり待たせると百合とエルレアが膨れそうなので、僕はすぐに挨拶を済ませてその場を立ち去るのだった。





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