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湖底洞窟
湖底に出現した洞窟を前に、ヒロキ、シュン、レイ、リンは息を呑む。
水が全て無くなったのは驚いたけど、私は一度洞窟を目にしているのでそこまでの驚きはない。
「まじ、かよ…」
「やったじゃんヒロキ、大当たりだよ!」
「あ、ああ」
レイが喜んでヒロキに抱き着く。
当のヒロキは、自分が言い出したことなのだが、本当にここに隠し洞窟があるとは思っておらず、呆然とその剥き出しとなった洞窟を眺めていた。
「他のプレイヤーに見つかる前に早く入っちゃおうぜ!」
「…そ、そうだな」
出現した洞窟に興奮を見せるシュンが、ヒロキを急かす。
ようやく戻ってきたヒロキが頷いて歩き始めた。
「それじゃあ行きましょうか。マチさんも行きま……しょ…」
「ん?……あ」
私の方へ振り返ったリンが、急に目を見開いて固まった。
改めて自分の姿を見てみれば、未だ【《神獣降臨》】を解くのを忘れてて変態したままだった。
「おい、どうした――」
「こっち見ないで!」
「モガァ!」
私達がまだこないことに気づいたシュンが振り返ろうとしたので、私は咄嗟に【《海竜の水牢》】――水がないので、少し小さめ――をぶつけてしまった。
リンやレイに見られるのは我慢できるが、ヒロキやシュンに見られるのは恥ずかしくて悶死してしまう。
危うく見られそうになったけど、シュンは必死に水の中でもがいているので心配ない。
私が【《神獣降臨》】を解除すると、ようやくシュンも【《海竜の水牢》】から解放された。
下半身の装備もしっかり反映されているのを確認して、私は少しやりすぎたかなと思って溺死寸前になっていたシュンに駆け寄る。
「あー、ごめん。大丈夫?」
「あー、死ぬかと思った…」
ゲホゲホと肺に入った水を吐き出しているシュン。
「確かにあの姿はちょっと恥ずかしいわね。でも、私があの姿だったら人前で見せるのはちょっと躊躇うからあの反応はしかたないわよ」
「り、理不尽な…」
うん、本当にごめんねシュン。
「おーい、みんな早く行くぞー!」
既に洞窟の前までたどり着いていたヒロキとレイが私たちに向かって叫んでいたので、シュンとリンと一緒に向かう。みんな合流したところでいよいよ洞窟の中に入っていく。
「中は意外に広いんだな」
入り口はかなり狭かったが、中に入ってみると十分なゆとりがあった。この広さなら敵がいても問題なく戦えそうだ。
落ち着いたところで一つ気になった質問をレイにしてみた。
「あの蟒蛇を倒した時に使ったスキルって何?」
「ふっふ~ん。驚いたでしょ!あれは私の切り札よ!【《アルテミス》】と言ってね、私の【《増殖》】の応用スキル」
流石に切り札というだけだけあって、あの威力はすごかった。威力だけなら獣化して発動できるスキルと大差ないように感じられる。
「弓だと外殻の硬い敵には効果がどうしても薄くなっちゃうから、なんとかならないかなと思って色々試した結果編み出したスキルよ。まあ、一撃必殺ではあるんだけど使い勝手は悪いわね。それにあれを使っちゃうとMPがすっからかんになっちゃうから外したら何もできなくなっちゃうの」
私の大技と一緒でレイも【《アルテミス》】を使うとMPがすっからかんになってしまうらしい。だけど、レイは【MP自動回復】のスキルを持っているので、なくなっても時間が経過すればまた戦うことができる。 私は【MP自動回復】なんて持っていないので、MPを使い切ってしまったらそれで終了だ。一応悪あがきとして刀スキルをもっているから何もできずにやられるということは回避できる。
「敵が現れたぞ」
話を中断させて、現れた敵に集中する。
亀型の魔物は鈍重な動きで私たちの前に現れる。
今日は既に獣人化を二度も使用しているので、MPが半分もない。ボス戦まで温存しておきたいので、後一回くらいしか使いたくない。
手強い相手だったら使うつもりだったのだが、目の前の魔物はそこまで強くなかったので使う必要はなった。
とても憶病な魔物だったらしく、ヒロキが剣を構えただけで甲羅の中に身を引っ込めてそのまま動かなくなってしまった。
この状態で、炎魔法とか打ち込めば倒せそうなのだが、この憶病っぷりを見て倒すのがかわいそうになってしまった。
「ん~、どうする?」
「害はなさそうだからこのまま放置するか」
「そうね」
結局倒さずに放置して素通りすることにした。
私たちが通り過ぎた後も甲羅の中から一歩も出てこない憶病っぷりだった。
「なんか拍子抜けね」
リンの言う通り、この洞窟内にはさっきの亀のような魔物しかおらず戦闘にすらならなかった。蟒蛇との戦闘が激しかったので、なんかこう、ギャップがすごい。このまま何も起こらないなんてことはないよねって警戒はしていたけど、本当にそのまま何事もなくすんなりボス部屋前の扉にたどり着いてしまった。
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