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襲撃2
PKのリーダーらしき男が弓から剣に持ち替えて私の首に添えた。横にいる他のメンバーはこれから私に待ち構えている光景を予想したのか、にやにやと笑みを浮かべている。悔しいけど今は反撃することが出来ない。足だけじゃなく、手も麻痺しているため剣を握ることもできない。
「じゃあな、[獣姫]!」
(やばいやばいやばい!…お願い動いて!)
そして、別れの挨拶とともに剣を大きく振りかぶって、私の首筋目掛けて振り下ろした。いざとなったら【《獣化》】でこの状況を打開できるかもしれないが、【《獣化》】を使い終わった後はステータスの低下と倦怠感。そして、スキル使用不可の弱体化が待っている。
(動いて!)
どうにかして避けないと、首筋に攻撃を食らったらいくらHPがあろうとも即死してしまう。力の入らない全身に、それでも力を込めようとすると、少しだけ力が入る感覚があった。私は手と足に全力をこめて、その場から転がるように逃げたことで、首ちょんぱされることは回避できた。
「なにっ!?」
なんとか敵の攻撃を回避することは出来たが、立ち上がることはまだ出来そうにない。
(やった!…でも、完全に麻痺が解けるにはまだ時間がかかりそう。これじゃあさっきとあまり状況はかわらないよね)
「ちっ、完全に麻痺が解けたら厄介だ。お前らも見てないでやるぞ!」
「「おう」」
(前言撤回!さっきよりも状況が悪くなった)
控えていた他のメンバーも次々と武器を構えて、こちらに近寄ってきた。先ほどよりも状況が悪くなった展開に私は冷や汗が出てきた。一回攻撃を躱しても、次の攻撃が飛んでくるのは目に見えている。【《獣化》】を使おうか悩んでいる間にも、どんどん敵は近づいて来る。しかも、私を逃がさないように、囲むように接近してきている。逃げ場はもうない。
(使いたくなかったけど、使うしかないかな)
「お前ら、やれっ!」
リーダーらしき男の掛け声とともに、一斉にとびかかってくる。私は覚悟を決めて【《獣化》】を発動させた。
「【《神獣降臨獣化》】!」
「うわっ、なんだこの光!」
「ただの目くらましだろ!構わず殺せ!」
私の身体をまばゆい光――実際には普通の光だが、周りが暗いため眩しく見える――が包み込み、その光に一瞬動きが止まるPKメンバーだったが、リーダーからの喝ですぐに統率を取り戻し、光の中心目掛けて剣を振り下ろした。PKメンバーが振り下ろした剣は最後まで振り下ろされることはなく、途中でモフッとした感覚によって受け止められた。
「モフ?」
「なんだこの感触は?」
「っ!手前らそこから離れろ!!」
「……【《暴風拡張》】」
その呟きが聞こえると同時に、光を中心として強烈な暴風が吹き荒れた。危険を感じたリーダーは咄嗟にその場から距離を取ったことで大きく体勢を崩して地面に転がる程度で済んだが、暴風地点にいた他のPKメンバーは零距離からその攻撃を食らい、車にはねられたかのように弾かれ、大きく宙を舞った。中には衝撃に耐えきれずに光の粒子となって消えていくメンバーもいた。光が収まると、そこには自分の1.5倍の高さはありそうな白い巨狼が立っていた。
暗い中でもよく見える真っ白い純白の毛並みの巨狼を見つめていたリーダー男に気づいたのか、その巨狼はこちらを向いた。その迫力に息を呑み、こいつをどうやって倒せばいいのかと悩んでいると、急に巨狼の姿は視界からいなくなった。そして、次の瞬間には自分の目線が高くなったような感じがした。リーダー男は何が起こったのかわからないまま視界はブラックアウトし、光の粒子となって消えていった。
(はぁ~、終わった)
PKメンバーの最後の一人が光の粒子となって消えていく光景を見て、スキルを解除した。元の姿に戻った私はその場にドサッと座り込んだ。スキルを解除した途端、すぐに倦怠感が襲ってきて立っていられなくなった。
【《獣化》】を発動させると、麻痺の状態異常はなくなった。【《暴風拡張》】が発動する前にその場から飛び去ったPKメンバーのリーダーがこちらに武器を向けていたが、仕掛けてくるわけでもなくその場で構えているだけだったので、遠慮なく【《双風爪》】で倒した。他のPKメンバーは【暴風拡張》】を諸に食らっていたので、後はとどめを刺すだけだった。
(体は怠いけど街に戻って宿を取ってログアウトしないと…)
私は重い身体を持ち上げてフェンハイルまで戻ろうとした時、ウルバ鉱山を下りた先にある森で感じた禍々しい気配を感じ取り、急いで後ろを振り返った。暗闇で何も見えないが、…いる。あの時感じた気配は遠かったが、今はかなり近く感じる。
「グググググ、見つけたぞ神獣!」
私は咄嗟に声が聞こえた方向に剣を引き抜いて防御の姿勢を取った。硬質な音が響き渡り、私の身体は力が入らず吹き飛ばされる。怠い身体を無理やり起き上がらせて、私を吹き飛ばした元凶を見た。その元凶は、身体に邪悪な光を纏い、4足歩行の犬型をしていた。
「ググググググ、姿形は違えど我にはわかるぞ。その力は神狼だな」
(神狼って何?ロキアのこと?)
「大分力は弱まっているが、お前は神狼だな。……あの封印からどうやって抜け出した」
「神狼ってロキアのこと?」
「っ!……ググググググ、そうかお前、記憶がないのか!これは滑稽だ!あの戦いで我を追い詰めたあの神狼が記憶喪失とは実に滑稽だ!」
(だめだ、話が通じない…)
「グググググ」と不気味に笑う、全く話が噛み合わない人の言葉を話す犬型の魔物が何者なのかはわからないが、過去にロキアとの因縁があったらしい。どうやって話を聞いてもらおうか迷っていると、急に笑いを止めてこちらを睨んだ。
「記憶がないのなら実に好都合だ。今度は封印ではなくしっかりと殺してやろう【《邪風咆哮》】!」
(……やばい!殺される!)
強烈な殺意と共に、犬型の魔物から攻撃が放たれた。逃げ出そうとした行動も空しく、スキルを使えなくなった私はその攻撃に為すすべもなく呑まれ、呆気なく光の粒子となって復活地点まで飛んで行った。
「フンッ、この程度の攻撃で消滅するとは、落ちたものだな神狼の。我と競い合っていた時はこんなものではなかったはずだぞ……」
犬型の魔物は自分が放った攻撃でマチが消滅した場所を見て少しだけ悲しそうな表情をし、次の倒す敵を求めてすぐに跳び去っていった。
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