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[神速剣]ジークvsヒロキ



 控室から出てみんながいる観客席のところまで戻ってくるとヒロキを除いた全員が座っていた。

 「ただいま~、あれっヒロキは?」
 「おかえり!ヒロキならさっきマチとすれ違いで控室の方へ向かっていったよ~」
 「それよりもマチさん、さっきの試合すごかったわよ。あのスキルのこともそうだし、何より[双牙]に勝っちゃうなんて」
 「あれがあったからマチはあんなに自信があったのね」
 「うん、あれが通じなかったら切り札を出すしかなかったけどね」
 「え!?まだ何かあったんですか!?」
 「う、うん。決勝戦以外で使いたくはなかったけどね」

 あれ以上にまだ何かあるのかと興奮気味に身を乗り出して迫ってくるリンさん若干引き気味になりながらそう答えた。

 『そろそろ決勝トーナメント第二回戦を始めたいと思います![神速剣]の異名をもつジーク選手と相対するは予選で熱い戦いを見せてくれたヒロキ選手だ!』
 『[神速剣]とどんな戦いを繰り広げてくれるのか楽しみね』

 「おい、そろそろヒロキの試合がはじまるぜ」
 「そうだった、ほ、ほらリンさんヒロキの試合が始まりますよ!」
 「む~、まだ何も聞けてないのに…」

 若干不服そうにしながらもリンさんは自分が座っていた席へと戻っていった。

 試合の開始を知らせるゴングが鳴り響くと同時にヒロキが飛び出していった。力任せに振るわれた一撃はジークさんへ届く前に銀色の刀身によって阻まれた。刀を地面へと突き刺すことで力任せに振るわれた一撃を受け流した後、刀身を地面から引き抜いてカウンターを放つ。ヒロキはそれを身を捻ることで躱していく。
 試合の序盤は特に変化がなく一進一退の攻防を繰り広げていた。

 「あれが神速剣なの?普通の攻撃に見えるけど…」
 「ん~、[神速剣]とは戦ったことがないからよくわからないけど、確かに普通ね」

 試合が後半戦へと進むにつれ、ある変化が訪れた。

 「オラ、オラ!神速剣はこんなものか!」
 「はぁ!」
 「っ!」

 ジークさんは一旦ヒロキの大剣を大きく弾いて距離を取り、刀を鞘に納めた。そして、動かずに相手の出方を窺うようにじっとし始めた。

 「なにをするつもりか知らねぇが、くらえ!」
 「…遅い!【《神速剣 途逸といち》】!」
 「なにっ、がぁ!」

 勢いよく踏み込んで垂直に振り下ろされたヒロキの大剣がジークさんに届く直前に、それまで抜いていなかった刀を高速で抜刀した。抜き放たれたジークさんの刀はヒロキが持っている剣の腹に吸い込まれていき、その軌道をずらした。空を切ったことで体制を崩したヒロキのもとへ強烈な回し蹴りが顔面に向かって放たれた。体制が崩れていたことで防御が間に合わずにもろに直撃を食らい地面へとたたきつけられた。

 「今の一撃目で追えなかった!」
 「私もよ、今のが[神速剣]の本領なのね」

 ピクリとも動かないヒロキを確認して踵を返そうとしたとき、その足を掴んだヒロキが顔を上げていた。

 「……まだ、負けてねえぞ」
 「その状態で何ができる」

 ふらふらと立ち上がるヒロキに対してそう言った。

 「力とスピードどっちが上か勝負だ…」
 「ふっ、おもしろい……こい!」
 「いくぜ、【《暴走バーサーク》】!」

 そうスキル名を呟いた瞬間ヒロキの髪が逆立ち、目が赤い輝きを放ちだした。

 「!…それはユニークスキルか?まさかお前も持っていたとはな」 
 「グオオオオオオオオ!」
 「【《神速剣 途逸といち》】!」

 雄たけびとともに繰り出された大剣をジークさんは先ほどと同じように剣の腹をたたいて軌道をずらそうとした。

 「何!?」
 「がああああああ!」
 「ぬ、ぐううう………なんとでたらめな!」

 剣の腹を叩いたが異常な力によって強引に軌道を戻され、そのまま大剣が振り下ろされた。間一髪のところで当たる瞬間に避けることができたが、ヒロキはそのまま地面へとめり込んでいる大剣を強引に横へと移動させ地面を抉りながらそのままジークさんを薙ぎ払った。咄嗟に剣で防御したが数メートルも吹き飛ばされた。

 即座に距離を詰めて振り下ろされたヒロキの一撃をなんとか防いでいるとだんだんとヒロキの勢いが徐々になくなってきた。

 「ハァ、ハァ……」
 「大分息があがっているな…なるほど、そのスキルはスタミナを酷使するようだな」
 「ウオオオオオオ!」
 「【《神速剣 梶斬りかじきり》】!」
 「グガアアアアア!」
 「これでとどめだ!」

 勢いの失って振り下ろされた大剣はジークさんにいなされ、ジークさんはそのまま懐へ飛び込みスキルを発動させた。先ほどよりも鋭く高速に、下から上へ繰り出した。切り裂かれたことで悲鳴を上げて後ずさったヒロキの首元に向けて刀を一閃させた。首を刎ねられてHPが全損したヒロキはそのまま後ろへと倒れていった。そしてヒロキの身体へと光が集り、それが収まるとそこには首がつながって意識を失った状態で倒れているヒロキがいた。
 本イベントでは闘技場内で死亡するとその場で復活する仕組みになっているため、HPが全損したヒロキはその場で復活した。

 『死に戻りが発生したあああああ!よって勝利したのはジーク選手だああああ!』
 『第二回戦も白熱した試合だったわね』



 「…うぅ、ここは…?」
 「ここは闘技場だ」
 「……くそっ、負けちまったか」
 「いい試合だった、ありがとう」
 「マチは手強いぞ」
 「見たことのないスキルを使ったあの女性か」
 「ああ。…次やるときは負けないから覚悟しとけよ!」
 「楽しみにしている」

 ふっと笑い、そう言い残したジークさんは闘技場を後にした。


 『第三試合は20分の休憩を挟んだのち、始めたいと思います』




 ◇



 「あ~ヒロキ負けちゃったか」
 「途中まではいけるとおもったんだけどなぁ」
 「マチの次の相手は[神速剣]みたいだね。大丈夫?」
 「うん、負けるつもりはないよ!」
 「応援してるよ!」
 「って、レイは人の心配してる場合じゃないよ!次の試合はレイでしょ!」
 「あ、そうだった!」

 それじゃあいってくるね!と言い残してレイは控室の方へと向かっていった。


 (次の試合どちらかが勝ったらアイリスさんとぶつかるのか…) 







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