異世界転移した俺は異世界ライフを満喫する事にした

森崎駿

哀の重みと偽善の押し売り

ユート達はニュクスの街で一際目立っているコロッセオに向かって進んでいる

その道中、すれ違う人の殆どがユートの顔と後ろにいる二人の顔を見てヒソヒソと耳打ちで何かを話している
ユートは内容が気になり『豊聡耳ヒステリックイヤー』を発動させて耳打ちの内容を聞き取る

(あの男…二人も獣人の奴隷を飼ってるなんて何処のガキかしら)
(でも男の顔見た?とびきりイケメンという訳では無いけど好みの顔だったわ)
と言った具合のユートの容姿に関わる事や後ろにいるアルカ達について話しているようだ

アルカ達が着ているローブの『認識阻害』の魔法も対して効き目がない事が同時に判明してしまった…
二人の顔や容姿について言われてはいない為、本当に個人が特定されない程度にしか『認識阻害』が発動していないらしい

「結構あのローブに魔法効果付与エンチャントするの大変だったんだけどな…」
ユートはそう呟いて、すれ違う人達の事についてはもう深くは考えない様にする事にした

「あの『ころっせお』の入口が見えてきましたよ」
アルカがそう言って指を指した方向はまさに人が賑わっていた

祭りや何かしらの大会等のああいった盛り上がりではなく…何やら人が集まって何かしらを見物している様だった、それはまるで野次馬のようである

「野次馬…何か事故でも起きたのか?」
ユート不審に思い近くにいた人に何があったのかを聞いてみる事にした


「あぁ、あんた見ない顔だな…今年のゲームの参加希望者か?」
「実はな…たった今そこで我らの女王様に挑んだ他国の貴族様がいたんだが…完膚なきまでにやられたそうでよ」
男がそう言って人混みの中心に指を指すとそこにいたのは全身裸になった女の人が十字に磔られていた

「あの娘…若いのに可愛そうなこった」
「完膚なきまでにやられたのに負け分を払えなかったからあぁやって磔られてるんだ…」

「何処かの金持ちがあの女に金を恵んでくれるまで一生あのままなんだよ、見てみろ…こんなに人が集まっているのに誰も金を女に恵んでやろうとなんて思っちゃいない」
この男の言う通り、ざっと数えて最低でも20~30人程度は余裕でいるだろう

『可哀想』の言葉が磔られた女に強くのしかかる
この場にいる全員は目の前の女を哀れむだけで救ってやる気など毛頭ないのだ

「…アルカ…すまない」
ユートは一言アルカにそう言うと察したアルカは静かに頷く


ユートは人混みを割って進んで行き、女の前で立ち止まる
女の横には看板が立っている

『金貨1000枚』
この磔られた女の金額なのであろう
ユートは無限収納アイテムボックスからサイフを取り出して中から大量の金貨を地面に滝が流れる様に取り出す

「お前も購入する、金はこの通りだ」
ユートがそう言った瞬間に地面に盛り上げられた金貨の山が消え、磔られていた女の手足を縛っていた縄が消え去る
その後、ユートの目の前に一枚の紙が出現する

「ありがとう…ございます…」
解放された女は手足の自由を確認した後にユートに一礼する
その首には奴隷の証として真っ赤な首輪が付けられている

「もう無謀な賭けなんてするんじゃねぇぞ」
ユートはそう言って出現した紙を女が見える様にビリビリに破る
すると、女の首に付いていた首輪も綺麗さっぱりと無くなった

「これでお前は自由だ…何処にでも好きな様に行きな」
ユートはそう言って無限収納アイテムボックスから一枚の布を取り出して『練成士アルケミスト』のスキルで綺麗なドレスを錬成する

「何故ですか…何故…私を奴隷として買ったのでしょう?」
「なのに…貴方は私を存外に扱ったりしないのですか?」
貴族の女はユートに対しこう投げかけるとユートは半笑いで答える

「なんで?…なんでも何もあのまま見過ごしたらここにいる他のクズ共と同列になる…それは嫌だったからだ…変な期待はするな詮索もするな…」
「ただお前は自由になったその両足でしっかりと立ち上がり、自由になったその手で新しいチャンスを手放すんじゃないぞ?」
ユートはそう言い残して人混みを掻き分けどこかへ去っていった

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