異世界転移した俺は異世界ライフを満喫する事にした

森崎駿

魔法の紙と半年の猶予

「魔法の紙だと…それは一体なんだ、早く申せ」
ディオニスはユートの手に持っている紙の説明を急かす

「ヒューイ、俺のこれまでの経緯を知ってるなら俺が住んでる館を入手したルートと知ってるんだな?」
ユートはそう言ってヒューイに確認を取ると勿論ですと返答される

「俺はとあるクエストで今住んでる館を手に入れた」
「恐らくこの場にいる貴族の誰かさんにな」
ユートがそう言うと最も扉に近い位置にいた、いかにも民から搾取している様に丸々と肥えた貴族の男の心拍数が上がるのをユートは『命の音メッセンジャー』のスキルによって聞こえてきた

「まぁその貴族の話は置いといて…つまり俺は現在八十平方キロメートルの土地を持ってるって訳だ」
ユートがそう言った途端に辺りの貴族達がザワつく
そして心拍数が上昇した貴族が急に立ち上がる

「そんな訳なかろう!あそこを買ったのは私だ!このガストロの土地の所有権まで貴様如き平民に譲った覚えはないぞ!」
ガストロはそう息を荒らげながら必死にユートに食いかかってくる

「ふ~ん…でもこの『契約書』には館とその周りの土地を譲渡するって書かれてるんだが?」
ユートはそう言って手に持っていた紙を見せびらかす

「そんなバカな事があるか!そもそもだ、その契約書をどこで手に入れたんだ!…まさか盗んだのではないだろうなぁ…所詮は平民よ」
ガストロのその言葉にレイカは怒り殺気を出そうとするがユートに静止される

(落ち着けレイカ、任せとけ)
ユートは静かにガストロの前まで行き契約書の内容を読み聞かせる

『本クエスト報酬で館とその周辺にある土地の全てを譲渡する』
『ガストロ・ローレライ』

「確かにお前のサインと拇印が押されてるが?」
ユートはそう言ってガストロに契約書の紙を手渡す

「……っ!こんな紙切れなんぞ破り捨てればゴミ同然だ!」
ガストロは手渡された契約書の紙をビリビリに破り捨てる

「まぁコピーはまだまだあるから別に破っても俺は構わないが…お前のイメージが下がるだけだぜ?」
ユートはそう言って辺りの貴族達の顔を見張ると全員がヒソヒソとガストロの事を話し始める

「それで?ユートよ、その契約書の紙が何だと言うのだ?」
ディオニスはその一連のやり取りを黙って見ていたが遂に痺れを切らしてユートに尋ねた

「あぁすまんな、つまりは俺は凄い土地を持ってるって訳だ…だから俺を貴族としてこの土地を統治させてほしい…その際にはこの国の一部を支配してるという事で税金も支払うおう」
ユートのその言葉にディオニスは耳を疑った

「本当に良いのか?貴様があれ程S級になるのを拒んだのは我が国に縛り付けられるのが嫌だったからであろう?」
ユートはその問に対してため息で返してから言葉を続ける

「確かに俺は自由気ままに冒険者ライフを過ごしたいが…こうなった以上はそうはいかない…」
「だったらせめてもの抵抗としてお前らに縛り付けられるのなら、お前らの管理下の内で盛大に好きにやらせてもらおうという訳だ」

「だから俺は街を作る、豊かで暖かく住んでる者すべてが笑顔になるような街を作りたいっただけだ」
ユートのその演説チックな言葉は一部の貴族からは盛大に反感を買ったが…その逆もあった…その理想に賛同する貴族もいる

こんな空気の中でディオニスはユートの申し出に断る事など出来ない
否、出来るわけがない
なぜなら…ユートに賛同した貴族の多くがユースティア内でも一際目立った貴族達ばかりだったからだ

「…良かろう…但し条件がある」
「『半年』の猶予をやろう、その間に一つの街として万全な土台を作り上げるのだ…もし半年後に土台が出来ていなければ…どうなるかわかっているな?」
ディオニスは条件付きでユートの申し出を受託した
無条件で許すのは反感している貴族から言われる為だ

「半年もあれば充分だ…だがまぁ…人員や費用等は国の費用から最低限貰っていくぞ…」
ユートのその言葉にディオニスはため息を吐きながら了承した

「そ…それでは改めてS級昇格式は?」
ヒューイはディオニスにそう聞くと続けろと指示が出た

その後の一時間程は昇格式が行われユート達は館への帰還の馬車に乗っていた



「あのガストロって貴族…ユート君の事をバカにして…絶対にぶっ殺す」
レイカは静かに殺気を漏らしているとユートに頭を小突かれた

「別にあれで良いんだよ…むしろやるきが出てきた…絶対に吠え面かかせてやるってな」
ユートはクククと怪しげに笑う

「街を作るのですか…勿論私達も協力しますよ!ユート!」
「ドーラも精一杯ユート様の力になるっす!」
アルカとドーラは立ち上がって握り拳を上げる

「ふむ…街を作るとなると…やはり病院や住宅地を優先させるべきか…いやしかし…」
イリーナはもうブツブツと街の内装について考え始めていた

「だが…旦那様はそういった建築関係の知識を持っているのか?」
リンカはユートにそう尋ねると返ってきた答えは「何とかなるだろ」との事だった

「《深刻》ユートは物事を楽観的に考え過ぎでは」
「お姉ちゃん、申告の字が違うよ?」
「《解答》いえ、ユートの能天気加減は深刻だという事なので間違ってはないです」
ランカとレンカそんな会話でクスクスと笑っている

「あぁそうだ…」
「お前ら…あと少しで館に着くが…何が良い?顔面崩壊必須なお仕置きかトラウマを植え付けられるようなお仕置きか…はたまた失禁必須なお仕置きか…選ばせてやるよ」
ユートはそう言って女性陣の一同にニヤリと笑って通告した

(終わった……)
全員がそう思ったのだという…

そしてその後…ユートの館から悲鳴が聞こえてくる事は…また別のお話で…

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