異世界転移した俺は異世界ライフを満喫する事にした

森崎駿

組手と奴隷の女の子

ユートは現在、館の中庭でアイトと組手をしている
朝起きると同時にアイトが寝室にやって来て組手をしてほしいと言い出したのだ…流石にまだユートからしたら生後五日の赤ん坊であり、そんな危険な事はしたくなかったが…

アイトの熱狂的な目線に仕方なく了承した
ユートは最大限の手加減や全ステータスの値を二桁にする程『劣化』を発動させる

だがまだまだ戦闘経験など皆無なアイトの攻撃は単調でユートにとっては蚊がとまるような速度であった
その為ユートはアイトの攻撃を受け止めずに紙一重で回避する

組手が始まってから十数分経った頃…アイトに変化が現れ始めた
一直線に…真っ直ぐに放っていた拳に鋭さが増したりフェイントを織り交ぜたり、砂を握り目眩しなどの搦め手を入れ始めたのだ

そして等々ユートの頬に拳を掠めた所で審判をしていたレイカが終わりを告げた

「どうでしゅかおとーしゃん!」
終わったと同時にアイトはユートに飛びかかる

「凄いぞアイト、今は仮の試合だが戦闘中に強くなるってのは中々熱い展開だからな…アイトは将来強くなるかもな」
ユートがそう言いながらアイトを撫でるとアイトはニコニコと笑いながらもっと撫でるように頭を押してけてくる

「そう言えばアイトには猫耳とか尻尾は生えてないのか?」
ユートはそれが気になりレイカに尋ねてみる

「いや寝ている時には普通に出っぱなしかな?今は変化の魔法で隠しているんだと思う」
レイカがそう言うとアイトは変化魔法を解除して耳と尻尾を出す

「あぁ…ケモ耳とは最高の文化だなぁ…」
ユートはアイトの耳をもふもふと触りながら頬を緩ませる

そんな事をしているとアルカが二階の窓から飛び降りてきた
「ユートにアイト、それにレイカさんもここにいましたか…イリーナとリンカが呼んでましたよ?」

ユートはそう言われて空を見上げるとすっかり日が昇りきっており朝食の時間もとっくに過ぎているだろう

「あぁすまなかったなアルカ…行こうかアイト、レイカ」
ユート達はそう言って館の中に戻ろうとすると大量の洗濯物を大事そうに抱えながら一人の女の子が出てきた

「あっ…お父様…イリーナお母様達が…ってアルカお母様が既にお伝えしていましたか…失礼しました」
女の子はそう言って一礼するとアルカは女の子から距離をとる

「…先に行ってイリーナ達に食事の準備をお願いしてくるね」
アルカはそう言って全速力で女の子を横切り館の中へ入っていった

この女の子の名前は無い
いや…あるにはあるのだが不明である
この女の子は別にユートの子どもではない…この娘は『奴隷』である

ユートがパルテノン皇国にてドッタンバッタン大騒ぎしていた頃に四賢者シオンがやってきて大きな館をイリーナ一人では家事の手が回らないだろうという事でこの娘を連れてきたのだという

イリーナ達も最初は断っていたのだが…実はこの娘は何件も雇うのを断られており今回雇ってもらえなければ処分されてしまうのだと言うのだ…
そんな事を聞いたイリーナは渋々雇ったという事だ

この娘が何件も断られた理由…それはこの娘は『目が見えない』のである
この娘は風属性魔法の『風読みブレイン』を会得しているが…特に風が強い場所や弱すぎる場所…さらに言えば無風の場所では風読みブレインの魔法など無いに等しい

目が見えない程度ならばユートに治してもらおうとイリーナ達は思っていたのだろうが…現実はそう甘くはない
この奴隷はユートやイリーナの所有物ではなくユースティア王国のとある貴族の所有物でありシオンはそこから借りてきたのだ

他人の所有物に勝手に医療目的で魔法をかけるにしても…それは重罪であり、裁判の内容によっては死刑になりうるものである
なのでユートもこの娘の目を治す事は無理なのである

因みにユートやイリーナの事を『お母様』や『お父様』と呼ぶのは所有者の貴族の趣味である


「足元に気を付けろよ?今日は少し風が強いからな」
ユートはそう言って女の子に声を掛ける

「大丈夫です…この程度の風ならば問題はないです」
「お心遣い感謝しますユートお父様」
女の子はそう言って洗濯物が入ったカゴを持って物干し竿の元へ歩いていった

ユートはそんな女の子の後ろ姿を見送ってから館の中に入っていった


リビングに戻ったと同時にユートは頬を引っ張られイリーナに怒られている
「ユート殿!朝食はみんなで一緒に食べる約束を忘れたのか?忘れたんだな!ユート殿のバカ!」

怒りながらもその表情は愛らしくユートはついついほっこりとなってしまう…するとさらに強く引っ張られた

「とりあえず早く食べちゃってくれ、食器が洗えないではないか」
イリーナは手を離して厨房へ戻っていった

「イテテ…忘れてたものはしょうがないよなぁ?」
ユートは朝食を食べているアイトにそう質問するが当然アイトは首を傾げキョトンとする

「それじゃあ俺も食べますか」
ユートはそう言って席につき味噌汁をすす
口に広がる味噌の風味がたまらない…流石は昔から日本の食卓に並ぶだけの実力はあるとユートは味噌汁の味に浸っていると女の子が一通の手紙を持ってきた

「お父様、先程王宮からの使者様がこれをユートお父様にと」
その封筒は見覚えがあった…しかも王宮からの使者と言われたらあの出来事しか思い浮かばなかった

『12:00に王宮にてS級冒険者の昇格式を開式する  ディオニス』

ユートは薄々気付いていたがため息をつかずにはいられなかった…ついにこの時が来てしまったかと思いながらため息をついた

「ユート様がS級冒険者になるんすね!イリーナ様!今夜は赤飯っす!」
ドーラは立ち上がり厨房に駆け込んでいった

「おい待て、まだ行くとはって…行かなきゃダメだよな…」
ユートは益々ため息をつく…不安しかなかった…育児に専念したいユートにとってS級昇格なんて面倒な事この上ないのだ

「ん?…待てよ…」
ユートはとある事を思い付き、それに付いての算段を脳内て構成していく…そして考えはまとまりそのピース集めに向かう事にした

「今の時間は11時…ギリギリってとこか…」
「アルカ達は先に恐らく俺を逃がさない為にカイトが来ている筈だからカイトの馬車に乗ってみんなは先に向かっててくれ」
ユートは立ち上がり身支度を整え全員に指示を出す

そして一人ポツンと佇んでいる女の子にユートは肩を掴んでこう頼む
「お前は家に残ってアイトとユウの面倒を見ててくれ…頼んだぞ」
女の子はその指示に対して元気よく返事をする

「俺はちょっと遅れて王宮に向かう」
そう言ってユートは転移ワープを使ってどこかへ行ってしまった



アルカ達が外に出るとユートの想像通りカイトがいた

「あれ?ユートは…って逃げたのか…」
カイトは深くため息をつく

「ユート君は後から向かうって言っいたから先に行って待っていましょう」
レイカは手前に出てカイトにそういうとカイトは仕方なく先に向かうことにした

「人数は…8人…うん、全員余裕で乗れるよ」
カイトはそう言って指を弾くと馬車の乗車部分が拡大していく、大きさから推察するに10人分は乗れるだろう

「それじゃあ行くよ、ユースティア王国の王宮までね」

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