異世界転移した俺は異世界ライフを満喫する事にした

森崎駿

拮抗状態と妖刀ー不知火ー

「……はぁ~解った解った…だけど…後悔しないでね」
玲華は刀掛けに置いてあった刀を持ち構える

「お先にどうぞ」
玲華は中段の構えになり優翔に先手を譲る

「有難く先手を取らせて貰うぜ」
優翔は下段の構えの為相手にまともなダメージを負わせるには一度振り上げなければならない

玲華はそう確信していた為先手は譲る事にしたのだ
そうでもしなければ自分が一方的に勝ってしまうと思っているのだ

優翔は予測通り竹刀を振り上げ上から振り下ろす様に攻撃する
その攻撃をあえて刀で受け止め柄でカウンターをキメようとした時にふと刀で受け止めている姿勢の為死角となっていた右の脇の下を覗くと
そこでは優翔が足で玲華の横腹を蹴りあげようとしていたのだ

玲華はカウンターを中止してスグに反復横跳びの要領で横に飛び避ける

「ちぃ…流石に見え見えかよ」
優翔は玲華と対局の位置に移動する

「優翔君…一つ質問良い?」
玲華は刀を一旦降ろし優翔の顔を見る

「何で優翔君が最初に下段の構えから始めたかの理由は解ったわ…でも解らない…何で優翔君は私が提示した『先に相手に一撃入れてら勝ち』のルールを予測できたの」

玲華の疑問というのは優翔が下段の構えで始めたことではない
今回のルールに限っては優翔の選択は正しかったとも言えるのだ
なぜなら相手にあえて予測しやすくしてガードさせる

上から振り下ろされた攻撃に対して刀での対処方法など受け止めるや弾き返す位しかない
その両方とも必ず玲華のどちらかの脇の下に死角が現れるのだ

しかし…ここでの疑問は『何故優翔は今さっき考えたばかりのルールを予測できたか』という点だ

「そんなの簡単だ、俺は竹刀でお前は真剣を使うんだ」
「お前は鞘に収めていると言っても総合的に考えてお前の方が圧倒的有利なのは間違いない…だがお前の性格から考えると一方的に俺をボコるなんて事はしたくないだろうと考えた」

「だったら試合のルールは一瞬で片がつく物にしなければならない…例えば…『先に一撃入れたら勝ち』とかな」
「まぁ他にも色々考えうるルールはあったがお前の性格から考えて面倒なルールは避けると思ったからな」
「他に質問はあるか?」

優翔の答えに玲華は驚愕していた
この男には腹の底まで見透かされていると玲華の本能は判断した
ならば玲華のやる事はひとつ…いや殺る事しかないだろう

「優翔君、刀を変えてきても良いかな?」
玲華は先程まで使っていた刀を刀掛けに置いて優翔に一度待ってもらうようお願いする

「別に構わないが…刀が変わるくらいで何か変わるかよ」
優翔が了承したと同時に玲華は刀掛けが置いてある場所にある掛け軸を外す

すると中には空洞が存在しておりそこには刀に詳しくない優翔にも解る程神々しく…そして洗練された美しいと言える刀が現れる

「この刀の名は『不知火』」
「この刀は斬った相手の生き血を吸い取りより輝かしく美しくなると言われているわ」
玲華はそう言うと慎重に持ち上げ不知火を鞘から引き抜く

鞘から抜けた不知火は解放されたと言わんばかりにより一層煌めいた様に思った

「私は普段はこの刀は使わないとしているわ…手加減出来なくなるから…」
「でも…優翔君なら私の全力に耐えきってみせると確信したから」
玲華は刀を肩に掛けて優翔に近づく
優翔と玲華は最初の位置に戻り互いに自らの型を作る

優翔は左手を竹刀の先に添えて玲華に狙いを定める『突きの構え』

玲華は不知火を脇に差し姿勢を低くする『居合いの構え』

型を作ったが動く事はできなかった
互いの型は言うなれば相性は最悪と言えるだろう

優翔が先に動けば単純にリーチの差で届く事は出来るだろうが簡単に夜蹴られその後首元を殺られるだろう

玲華が先に動けば優翔は後ろに飛んで避けその後思いっきり踏み込んで殺られるだろう

つまりはこの試合『先に動いた方が負ける』


互いに動けぬまま数時間が経過した
日もすっかり暮れて辺りは暗くなっていた
しかし互いに相手の位置はハッキリと見えている、極限の緊張が敵の位置を…鼓動を知らせているのだ
瞬きすら死に直結するこの状況はまさに三つ巴…いや二つ巴である

そんな時、山の方から女の人の悲鳴が聞こえてきた

「……一時休戦しよう…異論は認めない」
玲華は他者の危機には身を投じて助けないといけないという信念をもっている
それは緊縛したこの状況であっても変わりはしなかった

「……解った…だが問題が解決したらスグに再開するぞ」
優翔のその言葉を合図にお互いに武器を降ろした

玲華は一目散に縁側から山の方へ走っていった
一人道場に取り残された優翔は玲華の後ろ姿を見送った後しばらくの間その場に佇んでいた

優翔は竹刀を床に落としてしまう
全てが初めての経験な優翔にとってあの状況は好ましくなかった
内心ホッとしていた
「はぁ…はぁ…危なかった…もしあのまま拮抗状態が続いていたら先に崩れていたのは俺だったかもしれない…」

しかし優翔はそのまま黙って女性を危機に向かわせる程非常な男ではない
少し呼吸を整えた後にスグに玲華の後を追いかけた

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