異世界転移した俺は異世界ライフを満喫する事にした

森崎駿

甲冑の内面と1358

真っ黒の甲冑に身を包むその女の顔は兜によって顔は隠されていたがその手に持つ刀にユートは見覚えがあった

「『妖刀ー不知火ー』…あの刀は俺の先生の愛刀だ…だがそんな訳ない…不知火はあの事故の時に先生と共に爆発四散した筈だ…」


ユートの刀にまつわる全ての師範にして
才能の塊であるユートと唯一ほぼ互角にあの世界で渡り合った女
『金剛玲華レイカ』はこの世界に来る2年前に燃え盛る火の手の中で一人の子どもを救う為に命を失ったのだ
そしてユートは刀を極める道を閉ざしたのだ


「No.01…No.02…俺が合図したらスグに結界の外に出て麓まで全力で逃げろ…」

仮にあの甲冑の女が金剛先生だった場合…
今のユートには魔法がある為ある程度は立ち向かえるだろうがNo.01達を守りながら戦うのは厳しいと判断したのだ

「《拒否》私も共に戦います」
No.01は制限リミッターを解除してユートの前に立つ

「お姉ちゃんが残るなら私も残るよ」
No.02も制限リミッターを解除してユートの前に立ち甲冑の女の動向を伺う

「……解った…だが…死ぬなよ…目の前で仲間が死ぬのはゴメンだ」
ユートは無限収納アイテムボックスから鏡花水月を取り出し構える

そんなユートの姿を見た甲冑の女の目が一瞬赤い光が光った様に見えた

『アノ男…見コトガ…気ノセイカ』
甲冑の女は一言呟いたかと思うと次の瞬間一気にユート達を自らの刀の間合いに強制的に入れる

『抗ウ前ニ…斬ル』
甲冑の女がそう言った瞬間にNo.01の胴に巨大な切り傷が生まれる
もしもう半歩No.01が踏み込んでいたら完全に切り裂かれたいただろう

「今の速さは…影舞踊だ…あの刀速は間違いなく金剛先生の物だ…」
そして甲冑の女はまた影舞踊の型に持ち込んでNo.01にトドメを刺そうとするが
既にどの様な攻撃か知っているユートはNo.01の前に立ち塞がり切り込まれるであろう位置でガードする

鉄と鉄が激しくぶつかる音が火山の噴火口内で盛大に鳴り響く
ユートのガードしていた手はビリビリと痺れ次の攻撃を防げるか疑問な所にあった
一方甲冑の女は手の痺れなどに気にもとめずに弐撃目に入ろうとするがNo.02が横からフリルに仕込んである刃で切りつけるが甲冑の女は身軽に後ろへ避ける

「《不覚》これ以上の戦闘は困難だと思われます」
No.01は胸の辺りに大きな一筋の刀傷が出来て血が溢れてきている
制限リミッターを解除している為心臓の鼓動が普通よりも早くなっている…すなわち出血の量が普段よりも多くなっているのだ

「No.02はNo.01を後ろの方へ避難させてくれ!そして回復魔法が使えるならそれで痛みを和らげてくれ」
甲冑の女との攻防の合間にNo.02に指示するユート

「解った!お姉ちゃん…下がるよ」
No.02はNo.01を持ち上げてユートと甲冑の女との攻防に巻き込まれない位置まで移動させる

「回復は私はあまり得意じゃないから完全に治す事は出来ないけど…痛みを和らげるよ」
No.02は回復魔法を使用してNo.01の苦痛を少しでも抑える


そしてユートと甲冑の女の攻防は接戦で一瞬の油断も許されなかった
呼吸をする間も一瞬しかなく、逆に限界まで呼吸はする事が出来ないのだ

「これ以上続けてもお互いに体力を消耗するだけだ…この一撃に全てを込める」
ユートは鏡花水月を鞘に収め抜刀の構えをとる

『…イイダロウ』
甲冑の女も不知火を鞘に収め抜刀の構えをとる

場の空気が静まり返る
この場に流れる音は溶岩が煮えたぎりぼこぼこと泡を吐き出している音のみであった

「ふぅ~…」
ユートは体内の酸素を全て吐き出し次の一撃に全ての神経を集中させる

『抜刀術ー天竺葵ー』
ユートが持ちうる最速の剣
その速さは人智を超えており並の人間では斬られた事すら気づかずに死に至る


『終ワリダ…』
甲冑の女も酸素を吐き出しユートの攻撃に自らの最強の剣技をぶつける

『金剛流剣闘術ー真・影舞踊ー』
金剛流剣闘術の中で最も最速の剣
その刀速は影すらも置き去りにする


ユートと甲冑の女の位置は交差しまた場の空気は静寂へと戻る

そんな中、地に膝をついたのはユートであった

『私ノ勝チダ…1358戦678勝678敗2引…ソシテ今回デ1359戦679勝678敗2引ダ』
ユートの鏡花水月は不知火によって切り分けられ二度と使えなくなってしまった

「あーあ…ドーラに何て言うんだよ…カンカンに怒るだろうな」
ユートは柄と小型ナイフサイズの刀身になってしまった鏡花水月を見つめる

『幕引キダ…』
甲冑の女は不知火を振り上げてユートの首を斬ろうとする

「勝利の余韻に浸ってる所悪いが…今回の勝負は俺の勝ちだぜ先生」
ユートはそう言って鞘に鏡花水月を収める
すると甲冑の女が身にまとっていた甲冑がバラバラに斬られて中の金剛の生まれたままの姿が開放される

『バカ…ナ…キサマ最初カラコレヲ狙ッテ…』
兜は五つのブロックに斬られながらもまだ喋っている

「当たり前だ、お前みたいな他人に寄生しないと何も出来ないクズ野郎がまとわりついてる先生に勝っても何にも気持ちよくないんだよ…解ったらさっさと逝きな」
ユートは土属性魔法を使いバラバラになった甲冑の部分の地面だけを元の溶岩に戻し溶かし尽くす

「先生!大丈夫ですか!」
ユートは地に倒れ込む金剛を抱き上げる

「……あぁユートか…久しいな…私を下すとは上出来じゃないか」
金剛はユートの肩に掴まり先程までの洗脳による脳のダメージの性で足元がおぼつかないが立ち上がる

「いいえ…まだ決着はついてませんよ、今回のは引き分けでしょうしね」
結果的に言えばユートの勝ちなのだろうが
あの斬り合いでユートは殺す気が無かったとはいえ負けたのも事実なのだ
つまりは今回の勝負は引き分けとしたのだ

「そうか…勝ち逃げされる所だったが余計な心配だったな」
「そう言えばあの女の子の傷は治さなくては良いのか?早く行ってあげなさい」
金剛はまるで母親の様な口振りでユートにNo.01の元へ行くように言う

「言われなくてもわかってるぜ先生」
ユートも立ち上がりNo.01の元へ歩いていった

「ユート…見ないうちに大きく成長したね…」

今のユートがあるのはこの女、金剛玲華のお陰でもあるのだ
この女に出会う前のユートは常日頃から死んだ魚の様な目でこの世の全てに絶望しきった顔をしていた


これから語られるのは昔々の物語
一人の武士が一人の勇者を助けて助けられたお話である

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