天の仙人様
第1話 川の向こうにて
気が付くと、目の前には石造りの大きな扉があった。俺一人で開けられそうにはない程の扉である。門というほうが適切かもしれない。
「ここはどこだ?」
目の前には門。後ろを振り返ると川が流れていた。緩やかな流れの川だった。向こう岸には花畑が見える。逆にこちらには草一本も生えていない。石や岩がゴロゴロと転がっている。対照的だった。
俺は少し、いや、かなり嫌な予感がして、川を渡ろうとしてみることにした。見た感じでは、そこまで流れが速くはない。頑張れば対岸へ泳いでいけるのではないだろうかと思ったのだ。
俺は足を川にいれた。
すぐに川を渡るのをあきらめた。
激しい嫌悪感が俺を襲ったのだ。今までに体験したことのない気持ち悪さがそれにはあった。体がぶるぶると震えて、それに伴うように吐き気がこみ上げてくるのである。それなのに、今すぐ体の中のものを吐き出して楽になりたいという思いはなく、ただ、この気持ち悪さを永遠に感じ続けることを強いられているかのようであるのだ。楽になることが本能的にさせてもらえないのであった。
すぐさまにそこから離れる。すると、すうっとその気持ち悪さがだんだんと引いていき、いつもの状態へと戻ることが出来るのであった。ならば、そこを渡ることは出来ないのだとわかった。あまりにもいい情報ではない。
しかし、前に向き直ってもあるのは門。どうやって開けるのだろうか。押せば開くのだろうか?
試しに押してみることにしよう。
「ぐぐぐぐぐぐ……」
びくとも動かない。引くには取っ手がない。横に滑らせようにも手をかける場所がない。つまりは開けようがないわけだが。
死んだら、天国か地獄に行くもんだと思っていたが、そうではないようだ。こんな何もないところに永遠とさまようらしい。
「いや、ここが地獄か」
川の向こうは花畑。渡れば素晴らしいものが待っている。花畑が素晴らしいものかって? 岩肌ゴツゴツの場所よりはましさ。しかし、渡るには並大抵の度胸では足りない。目の前に褒美が見えているのに、それに手を出せないという地獄。
それなら、物語の地獄の方が可愛げがある。何もしない地獄なんて、最も苦痛ではないかね。ここにはやることがない。仕事を求めるほどに、何も存在しない。だったら、石でも積めばいいだろう。気がまぎれる。
石を一個ずつ慎重に積んでいくと、五個ほど積んだあたりで下から崩れる。何度やってもバランスを突然崩すのだ。あたりには俺しかいない。崩れるたんびに周囲を確認している。しかし、何もいない。誰もいない。
「お父さん、お母さん。俺はどうやら、地獄ですら生ぬるい程の罪を犯してしまったようです。この大馬鹿息子をお許しください」
俺は静かに頭を地面につけて親に謝った。涙があふれてくる。死んだときは、死ぬのだとしか思わなかったが、ここにきて、悲しみが体中に満ちてくる。死ぬときに悲しみを感じないことが罪なのだろうか。そうだろうか。死ぬのは誰でも通るではないか。それがたまたま今だけだったというだけなのに……ああ、これがダメなのだろう。もう、俺はこの罪を永遠不変の場所で償うしかないのだ。
どれだけの時間が過ぎ去っていったのだろうか。
数分かもしれないし。数年かもしれない。時間を計れるものなんて一つとしてない。だから、どれほどの時間がたったのかはわからない。ただ、数分だったらいいな、という惨めな願いだけが俺の中にどうどうと巡っているのであった。
ようやくと言っていいのか、目の前の門が開いたのだ。ようやく俺が入る許可が下りたのだ。
俺はすぐさま、門の中へと入る。
門の内側は、建物のようだった。空が見えない。つまりあれは扉でよかったのだろうか。周囲はろうそくで明かりをとっているためかほのかに薄暗く、地面には赤いカーペットが敷かれている。壁は漆で塗られているように感じる。装飾として、柱には、鬼の彫刻が彫られている。そして、目の前には恐ろしい形相で睨んできている大男が玉座に座っていた。
「ここはどこだ?」
目の前には門。後ろを振り返ると川が流れていた。緩やかな流れの川だった。向こう岸には花畑が見える。逆にこちらには草一本も生えていない。石や岩がゴロゴロと転がっている。対照的だった。
俺は少し、いや、かなり嫌な予感がして、川を渡ろうとしてみることにした。見た感じでは、そこまで流れが速くはない。頑張れば対岸へ泳いでいけるのではないだろうかと思ったのだ。
俺は足を川にいれた。
すぐに川を渡るのをあきらめた。
激しい嫌悪感が俺を襲ったのだ。今までに体験したことのない気持ち悪さがそれにはあった。体がぶるぶると震えて、それに伴うように吐き気がこみ上げてくるのである。それなのに、今すぐ体の中のものを吐き出して楽になりたいという思いはなく、ただ、この気持ち悪さを永遠に感じ続けることを強いられているかのようであるのだ。楽になることが本能的にさせてもらえないのであった。
すぐさまにそこから離れる。すると、すうっとその気持ち悪さがだんだんと引いていき、いつもの状態へと戻ることが出来るのであった。ならば、そこを渡ることは出来ないのだとわかった。あまりにもいい情報ではない。
しかし、前に向き直ってもあるのは門。どうやって開けるのだろうか。押せば開くのだろうか?
試しに押してみることにしよう。
「ぐぐぐぐぐぐ……」
びくとも動かない。引くには取っ手がない。横に滑らせようにも手をかける場所がない。つまりは開けようがないわけだが。
死んだら、天国か地獄に行くもんだと思っていたが、そうではないようだ。こんな何もないところに永遠とさまようらしい。
「いや、ここが地獄か」
川の向こうは花畑。渡れば素晴らしいものが待っている。花畑が素晴らしいものかって? 岩肌ゴツゴツの場所よりはましさ。しかし、渡るには並大抵の度胸では足りない。目の前に褒美が見えているのに、それに手を出せないという地獄。
それなら、物語の地獄の方が可愛げがある。何もしない地獄なんて、最も苦痛ではないかね。ここにはやることがない。仕事を求めるほどに、何も存在しない。だったら、石でも積めばいいだろう。気がまぎれる。
石を一個ずつ慎重に積んでいくと、五個ほど積んだあたりで下から崩れる。何度やってもバランスを突然崩すのだ。あたりには俺しかいない。崩れるたんびに周囲を確認している。しかし、何もいない。誰もいない。
「お父さん、お母さん。俺はどうやら、地獄ですら生ぬるい程の罪を犯してしまったようです。この大馬鹿息子をお許しください」
俺は静かに頭を地面につけて親に謝った。涙があふれてくる。死んだときは、死ぬのだとしか思わなかったが、ここにきて、悲しみが体中に満ちてくる。死ぬときに悲しみを感じないことが罪なのだろうか。そうだろうか。死ぬのは誰でも通るではないか。それがたまたま今だけだったというだけなのに……ああ、これがダメなのだろう。もう、俺はこの罪を永遠不変の場所で償うしかないのだ。
どれだけの時間が過ぎ去っていったのだろうか。
数分かもしれないし。数年かもしれない。時間を計れるものなんて一つとしてない。だから、どれほどの時間がたったのかはわからない。ただ、数分だったらいいな、という惨めな願いだけが俺の中にどうどうと巡っているのであった。
ようやくと言っていいのか、目の前の門が開いたのだ。ようやく俺が入る許可が下りたのだ。
俺はすぐさま、門の中へと入る。
門の内側は、建物のようだった。空が見えない。つまりあれは扉でよかったのだろうか。周囲はろうそくで明かりをとっているためかほのかに薄暗く、地面には赤いカーペットが敷かれている。壁は漆で塗られているように感じる。装飾として、柱には、鬼の彫刻が彫られている。そして、目の前には恐ろしい形相で睨んできている大男が玉座に座っていた。
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