覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

宇喜多直家、遭遇する

  旧都『ガラシアーノ』 

 自らを『魔王』と名乗る男 ハンス・ルーデルが支配する町。
 かつては都として栄えていた場所であったが、300年前に行われた『エルドレラ』の遷都により、衰退の一方を辿り、今ではゴーストタウンのように落ちぶれていた。廃墟が立ち並び、亀裂の走る道は補修されることはない。人はどこにいるのだろうか?表通りを歩けば、人間よりも野生動物に出会う確率が多い。
 歴史は、その地域、国、世界の文化と直結していて、人々の起源―――つまりはバックホーンとしての存在。本来ならば旧都という場所は敬われてしかる場はずだが、なぜ衰退してしまったのか?
 遷都の直後、戦争があった―――否。 戦争と呼ぶにはあまりにも規模の小さなもの。
 ただ、1人の男が神に挑み、そして敗れた。それだけの話だ。
 だが———当然の事ながら、それだけで終わるわけでない。
 小さな余波が生まれたのだ。
 その男が拠点としていた場所が、生まれ故郷が『ガラシアーノ』だった。
 それだけの理由で、『ガルシアーノ』は旧都という歴史的文化よりも、呪われた場所として悪名を世界に刻む事になった。
 なったのだが……

 「いらっしゃいませ!いらっしゃいませ!」

 「奥さん!良いモロヘイヤとマンドラゴラが入ってるよ!」

 「はい、見るのはタダ~見るのはタダ~ お代は買ってからだよ~」

 「お立ち合い!お立ち合い!今日の商品は鎧兜一式だよ。あのね、これないと死んじゃうの。これ売らないと死んじゃうのは僕。同情してくれるなら買ってて!」

 旧都『ガルシアーノ』から少し離れた村では活気に溢れ、商人たちの声が道行く人を妨げる。
 旧都『ガルシアーノ』を中心に経済が極度に活性化していた。
 幾度となく行われた魔王討伐部隊の投入。そして失敗。
 その結果である。
 普段ならば人の寄り付かない村々が部隊の拠点とされたり、大量に発生して負傷者の滞在。
 そこに付け込んだ商人たちが相場を大幅に上回る商品を持ち込んだ。
 一時期は、戦場でのぼったくりの商売が問題にもあがったが、見えざる手―――需要と供給、同業者との価格競争によって相場が自然と適正価格に修正される現象。これによって現在は価格も落ち着きを取り戻し、その活気はそのままだった。 
 そんな中、馬を連れた3人が通る。
 宇喜多直家、吉備真備……そしてもう1人は何者か?

 ―――時計の針を戻してみよう。


 ―――1日前―――

 曹丕が本格的な魔法の習得を行うと決め、関羽は『エルドレラ』で足場を固めると決めた後、宇喜多直家と真備は旅に出た。文献を広めるための旅であり、最初の目的地に選んだのが戦場である『ガラシアーノ』 だった。

 「うむ、少し慣れてきたか」

 直家は誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
 旅に向けて購入した馬の事である。直家自身、戦場で馬を駆けらせる経験がないわけではない。しかし、この世界の馬は、本当に同じ生物かと疑わしくなるほどの違いであった。
 まず、足が異常なほど細く長い。そして、直家が知る馬とは比べ物にならない速度で走り抜ける。
 よくよく見ると後ろ脚の筋肉が尋常ではないくらい隆起している。
 前から見れば、前足に繋がる胸筋がくっきりと浮かんで見れる。 
 ただただ、速く走るために品種改良を行われた種類の馬。
 直家の時代よりはも遥か遠く未来の日本に伝わるサラブレットに近い。

 「……直家殿」と馬を近づけたマキビが直家を呼ぶ。
 直家も「うむ」と答え、馬の速度を上げる。
 何者かが、こちらを窺っている。
 敵意はない。しかし、悪意は見え透いている。 

 「マキビ、仕掛けてくるぞ!」

 直家の叫びと同時に、何かが近づいてくる。
 轟音を唸り上げて接近してくる。
 「なッ!?」
 それが何か、直視した瞬間に直家は声を上げた。
 それは人であった。
 馬の最高速に匹敵する人間。その速度域は60キロ以上。 
 そんな馬鹿馬鹿しい存在。
 そいつは姿を見せた直後には、直家に急接近。間合いを詰めると、文字通りに飛びかかってきた。
 直家は敵の情報を即座に分析する。

 (帯刀なし、主だった武器はなし、無手による強襲……しからば!)

 直家は、馬の速度を落とさずに抜刀と同時に敵を切り払う。
 直後に響いたのは金属音。
 直家の剣戟は防がれた。無手であるはずの人間が、どうやって剣を防いだのか?
 答えは―――

 手刀であった。

 つまり、日本刀の一撃を素手をぶつけて防いだのだ。

 (むッ!魔法?肉体強化?それにしては金属音?)

 直家は馬の手綱を緩め、馬上から飛び降りた。

 「何者か!名乗れ!」

 怒気を含んだ直家に叫びに敵は動きを止めた。
 その人物は直家に似て、野性味が溢れだしている。激しい獣臭が放出させてる。
 そして、その人物は名を名乗る。

 「……舩坂弘」


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