覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

神の剣戟

 

  ―――扉を抜けると、そこには神がいた―――


 ただ、それだけしか認識ができない。
 床に倒れている直家も、マキビも、西行法師も、ミノタウロスも、意識から外す存在感。
 生死不明の仲間の姿すら意識から削り取る存在。
 一目見て、それが神だとわからされてしまう。

 しかし、その姿は神ではなかった。
 曹丕が事前に聞いていた姿とはまるで違う。
 その姿は―――そう、巨大な老人だったはず。
 しかし、目の前の神は、若い―――まだ少年のように見れる。
 深緑の衣装に身を包み、握る武器は短剣。そんな少年だ。
 だが―――けれども―――断定できる。 断定できてしまう。
 その少年、こそが紛れもなく神だった。

 「始めまして……あぁ、この姿に驚いているのかい?」

 神は言った。

 「こっちが本当の姿で、老人風の姿は仮初かりそめってやつさ。なんせ、人間って生物は見た目に認識が引っ張られるものだからね。威厳ってのが必要だったのさ」

 そう言うと神は笑った。

 「さて、君たち渡人が、ここまで来るのは想定外で愉快な出来事だったけれども……それもお終い。さようならだね」

 神は普通に歩き、曹丕の前に立った。
 そのまま曹丕に短剣を突く付ける。それにも関わらず、曹丕は反応できずにいた。
 関羽共々、呆けた表情を浮かべて、意識を失っているようにも見える。

 「では……」

 そのまま、神は短剣を振るった。
 しかし、神の短剣は曹丕の首まで届かなかった。
 なにか、不可視の物体があるかのように宙で止まる。

 「むっ邪魔をするのか?」

 神は振り向いた。
 その視線の先、立っているのは吉備真備だった。
 いや、マキビだけではない。 直家も、西行法師も、ミノタウロスも―――
 立ち上がり始めた。

 「呆れた。まだ歯向かうつもりなのかい?その元気は渡人同士でぶつけ合って貰いたいのだけど?」

 神は笑みを見せた。
 そんな神に向かい―――― 

 「……それが、目的ですか?」

 そう言ったのは曹丕だった。
 対して神は―――

 「もう、正気に戻ったのか。流石に早いね」

 再び短剣を振るう。
 曹丕は鞘から宝剣を抜き、短剣を防いだ。
 そのはずだった。しかし、神の短剣は曹丕の宝剣が存在しないかのようにすり抜けていった。

 「なっ!」と曹丕は悲鳴を上げる。
 予想外の剣戟になす術はなく―――

 キーンと金属音が響いた。

 いかなる妙術か。曹丕に襲い掛かる神の剣戟を防いだのは関羽だった。
 僅かな隙間。極小の空間。
 関羽は青龍偃月刀を振り、神の短剣を弾いた。

 「ほう、関羽……関雲長、あるいは関帝。擬神化により神の刃をも防ぐか」

 神は呟いた。


 


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