覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

魔王との交渉

 「……ほう」と直家
 「これは……凄い」とマキビ

 舩坂弘は旧都『ガルシアーノ』まで両名を案内したのだった。
 とても旧都とは思えない活気の良さ。
 商人たちの大声が響いている。しかし、それだけではない。
 時折、3人を向けれる視線。おそらくは、全員が《渡人》。
 目踏みするような視線を向けられ、直家は震えていた。
 恐怖による震えではない。そして、武者震いでもない。
 猛りを抑えているのだ。 全ての狂気を解き放ち、視線を向ける全員に切りかかっていけば―――
 どんなに気持ちいいうだろうか?

 「直家殿、堪えてください」

 マキビの進言が、僅かに遅れれば直家は妄想を実行していただろう。
 しかし、直家は悪びれる事無く「わかっている」と分かり切った嘘を吐き捨てた。
 そんな2人を先導しながら、舩坂弘は―――

 (命令とは言え、こうも危うい客人を引き連れてよかったのだろうか?)

 早くも後悔していた。 
 だが、そんな後悔を深める時間はなかった。
 目的地が見えてきたからだ。

 「あちらが目的になります」

 舩坂弘が指差すのは古城だった。
 至る所で修復作業に人が走ってる。 直家とマキビの目には、明らかに戦用の工夫が見て取れた。
 おそらく、本気なのだろう。
 魔王を名乗る男は、本気でこの場所を本拠地として神を相手に戦を起こすつもりなのだ。
 そんな事を考えていると―――

 「おぉ、ついに来られたか」

 そんな声が頭上から降ってきた。
 見上げると、修復作業中の作業員がいた。
 いや、よくよく見ると、作業員は空中に浮かんでいた。

 「よくぞ来られた。私が城主であるハンス・ルーデルだ」


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 場所が変わる。
 城の中で、おそらくは一番豪華な間なのだろう。
 しかし、豪華なのは王座と下に引いてある真っ赤なカーペットだけだ。
 ぽたぽたと天井から雨漏りの水を複数のバケツが受け止めている。

 「それにしても城主が修復作業を行うのか?」
 「ご覧の通りのボロ城だからな。それに元の世界では労働重視の政党に使えていた身であったからな」

 魔王―――ルーデルが答える。
 さっきまでの作業着から軍服に着替えていた。

 「ふむ……それで、我らに何の用だ?刺客まで送って」

 直家は部屋の隅に控えている船坂弘にチラッと視線を送った。

 「ハッハッ、用があるのは君らの方ではあるまいか」

 直家は「チッ」と舌打ちをした。魔王とやらは、どこまで知っているのか?
 このまま、下手に探りをいれるくらいなら、軍師であるマキビに任せるのも手だが……
 そんな直家の思惑を知ってか知らずにか、ルーデルは話を進めた。

 「察するの同盟の申し出に来たようだが、流石の私でも君たちの戦力を知らない。一体、どれほどのものかね?」

 「……4人だ」

 直家は正直に告げた。
 実際には2人の《渡人》が仲間に加わっているが、それは直家の知らぬ事。
 直家の考えでは―――
 元々、4人の戦力で、《渡人》で構成された軍隊と対等である同盟を結ぶ事自体、無理のある話だ。
 笑い飛ばされてもおかしくない。本来なら門前払いを受けてもおかしくない。
 しかし、おめおめと成果なしで帰るわけにはいかない。
 同盟は無理でも何らかの戦果を上げねば、帰るに帰れぬ―――

 しかし、ルーデルの言葉は直家に取って予想外のものだ。

 「よかろう。ただし、条件がある」
 

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