覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

 転章 ②

 「―――――以上が曹丕等の動向になります」とユダ。
 どうやら、曹丕たちの動向を報告していたようだ。
 一体、どうやって?そんな情報網を構築しているのか?
 それは不明であるが……
 そんな詳細な情報を聞き終え『神』は、ただ「うむ」とだけ呟いた。
 続けて「宇喜多は?」と聞く。
 「曹丕等と別行動を行っている宇喜多直家と吉備真備の動きはどうだ?」
 「はい。――――旧都『ガラシアーノ』へ向かい、『魔王』軍の幹部と接触。『魔王』本人―――ハンス・ルーデルと対面した模様です」
 「接触したか……手を結ぶと思うか?」
 「それは……」とユダは言いよどみ、間をあけてから「分かりかねます」と正直に答えた。
 「だろうな。同盟を結ぶとしても、どちらがアドバンテージを奪うかで揉める。必ず争う事になるだろう」
 「そうでしょうか?」とユダは疑問の声をあげた。
 《渡人》を貪欲に集めている『魔王』軍。最初は1人から始まったそれは、『軍』に相応しい規模へ拡大していた。
 もはや一大勢力と言っても過言ではない。
 その首領に対して曹丕達の勢力は4人。新たにミノタウロスと西行法師が加わったと言え6人。
 明らかな勢力差があるにも関わらず、対等な立場で同盟を結ぶ事があり得るだろうか?
 だが『神』は―――

 「あり得る」

 断言だった。

 「彼らに取って、数は力の1つに過ぎない。少数が多数を食い破る。《渡人》なら、幾度となくより遂げた事柄にすぎぬ。だから、下に見ぬ。上に見ぬ。測るのは互いの力量であり、それが左右する。そして――――やがて、彼等は私の前に立つであろう」

 『神』は立ち上がり、彼らを―――
 《渡人》を高らかに語る。
 それをユダは不思議そうな顔で見ていた。
 事実、ユダにはわからない。
 そもそもだ。そもそも、《渡人》を召喚しているのは『神』本人だ。
 なぜ、彼は? 『神』は自ら、敵対心を持つ存在を呼び込んでいるのか? 
 そんなユダの心情を読んでいたのか
 「そんなに不思議か?ユダよ」を言った。
 「ええ。不思議でなりません。なぜ、貴方は《渡人》を呼んでいるのですか」
 ユダは正直な気持ちを口にした。

 「それは、世界を安定させぬためよ」

 『神』の言葉はユダに衝撃を与えた。
 安定させぬ。本当にそう言ったのか?
 つまり―――世界に混沌を生み出すために《渡人》を呼んでいる?

 「私が最初に作った世界は、イノセンスな世界を目指した。純粋で無邪気な子供たちの世界。しかし、子供は成長し、知恵を身につけた。狡猾で獰猛で、他人を蹴落とす技を身につけた大人へ変貌していく。その度に私は――――
 自らの手を汚した。
 殺したよ。幾度も幾度も、かつては純粋だった子供たち。けれども、堕落した大人たちを―――」

 『神』の言葉にあるものは、奇妙な迫力だった。
 言葉は穏やかで優しさすら内包している反面、反論も疑問も許さぬという強制力。
 ユダは『神』の言葉を待った。

 「だから、新たに作った世界。この世界には、業を持つ人間を外部から発生させ、内部の純度を保たせるのが目的――――そのための《渡人》だ」
 「つまり―――それは―――」
 「そう、狡猾で獰猛で、他人を蹴落とす技を身につけた大人。その役割の全てを《渡人》で補っている。

 「この世界……

 ネバーランドの純度は彼らによって保たれているのだ」

 

 

  

 


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