覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

VSミノタウロス ⑥

 攻防の一瞬の中、ミノタウロスは見た。自身に向かってくる男の姿を。
 負けない。衝撃に対して意識の手綱を緩める事がないように備える。
 全意識を集中し、衝突に耐え切ってみせる。
 しかし――――

 その決意も虚しく、相手は視界から消えていく。
 高速で、瞬間的に消えていく関羽の姿。
 何が起きたのか?理解が追いつかない。と同時に後頭部に衝撃が走る。

 打たれた。

 意識の外からの一撃。完全なる不意打ち。
 確かに掴んでいたはずの手綱は、いつの間にか消えうせている。
 次に訪れたのは、未知なる衝撃。その衝撃の正体は、すぐにはわからない。
 まず、最初に伝わってきた情報は硬さだった。
 硬い。まるで大地とぶつかったかのような硬度。
 その硬度が、体全体に伝わってくる。力負けして跳ね返られると思った。
 しかし、瞬時に抵抗が失われる。
 行き場を失った力が解放され、自分の体が前方に放り投げられる感覚。
 それほどまでの浮遊感。
 自分の状態がどうなっているのか?それすらわからない。
 おそらくは、地面に倒れている。仰向け。
 視界は利かない。舞い上がった埃や土が視界を殺している。
 体は? ……動く。
 だから、当たり前のように立ち上がろうとする。
 ……できなかった。なぜ?
 何かが四肢を拘束している。
 それに背中。まるで岩を乗せられたように重い。
 それに抵抗する。重さに、拘束に逆らって体を持ち上げる。
 自分の口から、うめき声とともに赤い液体が零れ落ちていく。
 それでも、それでも、動かしていく。
 やがて、周囲を覆っていた粉塵が薄くなっていく。
 前方に人影。あの巨体の男か?



 ミノタウロスは関羽を想定した。
 再び精神を滾らせる。猛る獣性を振るわせる。
 雄たけびを上げ、反撃に向かわせる。

 しかし、前方に立つ人物は巨体の男ではなかった。

 その人物は曹丕だった。
 彼は待ち続けていた。
 それはいつから?
 それは、ミノタウロスと関羽の戦いが始まる前から。
 彼はここが――――
 曹丕が立ち、ミノタウロスが体を起こそうとしている、この場所が―――――
 決着をつける場所だと、戦いが始まる以前から想定し、陣取っていたのだ。
 

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