覇王の息子 異世界を馳せる
老人の語り
なぜ、それを聞くのか?
曹丕と老人を除く3人は、同時に同じ感想を抱いた。
しかし、関羽だけは心当たりがある。
曹操の一族。
曹操の息子として周囲から閉ざされた空間に純粋培養されて結果、曹操の意思を濃く受け継いでしまっているのではないか?
女性に対して酷く無知で、接し方がわからないのは、近い歳の女子と接したことがないからであり、逆に自身の恋心を公言するのに恥じらいを覚えないのは、恋、愛に対して、どこまでも真っ直ぐだからではないか?
その関羽の推測が正解かどうかはわからない。
「なぜ、そんな事を俺に聞く」
マキビが老人の言葉を訳す。老人の口調も再現させているのだろう。
明らかな不快感を滲みだしている。
しかし、老人の態度など、どこ吹く風か。曹丕に全く気にした様子がない。
「この中では、一番年齢が高く、人生経験が豊富のように見えますので、何かご助言でも承りたくおおもうのですが?」
老人は曹丕の言葉を「フン」と鼻で笑う。
「俺には3人娘がいたが・・・・・・。全員死んだ。なぜだかわかるか?」
「何があったのでしょうか?」
老人が口にした言葉は重い物があったが、曹丕はさらっと聞いた。
本当に「何があったのか?」と純粋に知りたい感じだった。
「敵対勢力に嫁として送った。要するに人質だ」
「はぁ」と気を抜けた返事を曹丕は返す。
時代は違えど、戦場の世界。男は戦場に向かうが、女は戦争の道具にされる。
老人の言葉は曹丕に取って、当たり前の事であった。
しかし、次の老人の言葉は―――
「実の娘を敵へ嫁にやり、敵対勢力と和睦を結ぶ。そうやって、相手が油断した所で滅ぼす。徹底的に滅ぼし、滅する。もちろん娘は死ぬが、そうやって俺は戦国の世を勝ち残ってきたんだ」
老人の顔に強烈な笑みが張り付いていた。
「俺は実の娘ですら、女をだまし討ちの道具に使っていた男だ。そんな俺に女心を師事してくれと、お前は言うのか?」
だが、曹丕は一言だけ返す。
「なぜ、そこまでなさっていたのでがざいますか?」
「なぜ―――だと?」
無論、曹丕が聞いている質問が「なぜ、そこまで徹底して娘を利用していたのか?」という意味だと分かっているはずだ。
だが、老人はすぐに答えが見つからないようだ。
さっきまで浮かべていた笑みは引っ込み、黙って考えこんでいる。
やがて―――
「結局、俺は女が嫌いだったのだろう。いや、違うな。信頼していなかった。信頼できなかった」
「信頼ですか?」
「そうだ。女だけじゃない。男だろうが、女だろうが、周囲の人間に信頼がおけなかったのだ。
俺は幼少の頃から裏切られていた。
祖父が味方だったはずの者から騙し討ちに合い死んだ。同時に領地も失った。
一緒に逃げた父上は、身を隠すのに世話になった娘とねんごろになって、再起を諦めおった。
俺の身にいた人間は、俺を裏切り去っていく。だから、俺は裏切る側の人間として生きてきたのだ」
老人は捲し立てた。
「なるほど。そうでございましたか」と曹丕は言うと
「そうだ。そして結局――――俺の死後、裏切られる事になる」と老人は答えた。
「死後、裏切られる?」
その奇妙な表現に曹丕は引っ掛かりを感じたらしい。
「俺には息子がいる。娘は道具のように使い切っていたが――― 俺だって家の存続は大事だ。息子だったら大切にする」
その独特な言い回しから、大切だったのは事実だろうが、大切に育てていたわけではないであろう。
大切ではあれ、この男に取って、息子すら道具だったのだろう。
だが――――
「どうやら、俺の息子は天下人まで近づいたらしい」
その言葉に曹丕は体が稲妻に打たれたが如くの衝撃を受けた。
『天下人』
おそらく、自分たちの世界で言う天子のような存在。
この男、目の前にいる男。その息子は天子に取って代わるまで上り詰めたというのか?
「俺もこの世界に来てから聞いた話だ。俺が病気で死期を悟った時、唯一いた友に息子の面倒を頼んだ。人の懐に入るのがうまい男だったよ。当時、最大勢力と言われていた男の幹部だったからな。
とりあえず、この男に任せれば我が家は安泰だと考えた。
ところがどっこい、なんの因果か、そいつが国を治めちまったわけよ」
老人は笑った。今までの笑みとは違い本当に楽しそうな笑いであった。
「俺は人生を、勢力維持で費やしちまったが、息子は俺の手の届かぬ所へ行っちまうらしい。
正直、我が子が羨ましい反面、嬉しいもんさ。
けど―――
結局、息子も裏切られる」
曹丕と老人を除く3人は、同時に同じ感想を抱いた。
しかし、関羽だけは心当たりがある。
曹操の一族。
曹操の息子として周囲から閉ざされた空間に純粋培養されて結果、曹操の意思を濃く受け継いでしまっているのではないか?
女性に対して酷く無知で、接し方がわからないのは、近い歳の女子と接したことがないからであり、逆に自身の恋心を公言するのに恥じらいを覚えないのは、恋、愛に対して、どこまでも真っ直ぐだからではないか?
その関羽の推測が正解かどうかはわからない。
「なぜ、そんな事を俺に聞く」
マキビが老人の言葉を訳す。老人の口調も再現させているのだろう。
明らかな不快感を滲みだしている。
しかし、老人の態度など、どこ吹く風か。曹丕に全く気にした様子がない。
「この中では、一番年齢が高く、人生経験が豊富のように見えますので、何かご助言でも承りたくおおもうのですが?」
老人は曹丕の言葉を「フン」と鼻で笑う。
「俺には3人娘がいたが・・・・・・。全員死んだ。なぜだかわかるか?」
「何があったのでしょうか?」
老人が口にした言葉は重い物があったが、曹丕はさらっと聞いた。
本当に「何があったのか?」と純粋に知りたい感じだった。
「敵対勢力に嫁として送った。要するに人質だ」
「はぁ」と気を抜けた返事を曹丕は返す。
時代は違えど、戦場の世界。男は戦場に向かうが、女は戦争の道具にされる。
老人の言葉は曹丕に取って、当たり前の事であった。
しかし、次の老人の言葉は―――
「実の娘を敵へ嫁にやり、敵対勢力と和睦を結ぶ。そうやって、相手が油断した所で滅ぼす。徹底的に滅ぼし、滅する。もちろん娘は死ぬが、そうやって俺は戦国の世を勝ち残ってきたんだ」
老人の顔に強烈な笑みが張り付いていた。
「俺は実の娘ですら、女をだまし討ちの道具に使っていた男だ。そんな俺に女心を師事してくれと、お前は言うのか?」
だが、曹丕は一言だけ返す。
「なぜ、そこまでなさっていたのでがざいますか?」
「なぜ―――だと?」
無論、曹丕が聞いている質問が「なぜ、そこまで徹底して娘を利用していたのか?」という意味だと分かっているはずだ。
だが、老人はすぐに答えが見つからないようだ。
さっきまで浮かべていた笑みは引っ込み、黙って考えこんでいる。
やがて―――
「結局、俺は女が嫌いだったのだろう。いや、違うな。信頼していなかった。信頼できなかった」
「信頼ですか?」
「そうだ。女だけじゃない。男だろうが、女だろうが、周囲の人間に信頼がおけなかったのだ。
俺は幼少の頃から裏切られていた。
祖父が味方だったはずの者から騙し討ちに合い死んだ。同時に領地も失った。
一緒に逃げた父上は、身を隠すのに世話になった娘とねんごろになって、再起を諦めおった。
俺の身にいた人間は、俺を裏切り去っていく。だから、俺は裏切る側の人間として生きてきたのだ」
老人は捲し立てた。
「なるほど。そうでございましたか」と曹丕は言うと
「そうだ。そして結局――――俺の死後、裏切られる事になる」と老人は答えた。
「死後、裏切られる?」
その奇妙な表現に曹丕は引っ掛かりを感じたらしい。
「俺には息子がいる。娘は道具のように使い切っていたが――― 俺だって家の存続は大事だ。息子だったら大切にする」
その独特な言い回しから、大切だったのは事実だろうが、大切に育てていたわけではないであろう。
大切ではあれ、この男に取って、息子すら道具だったのだろう。
だが――――
「どうやら、俺の息子は天下人まで近づいたらしい」
その言葉に曹丕は体が稲妻に打たれたが如くの衝撃を受けた。
『天下人』
おそらく、自分たちの世界で言う天子のような存在。
この男、目の前にいる男。その息子は天子に取って代わるまで上り詰めたというのか?
「俺もこの世界に来てから聞いた話だ。俺が病気で死期を悟った時、唯一いた友に息子の面倒を頼んだ。人の懐に入るのがうまい男だったよ。当時、最大勢力と言われていた男の幹部だったからな。
とりあえず、この男に任せれば我が家は安泰だと考えた。
ところがどっこい、なんの因果か、そいつが国を治めちまったわけよ」
老人は笑った。今までの笑みとは違い本当に楽しそうな笑いであった。
「俺は人生を、勢力維持で費やしちまったが、息子は俺の手の届かぬ所へ行っちまうらしい。
正直、我が子が羨ましい反面、嬉しいもんさ。
けど―――
結局、息子も裏切られる」
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