覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

宇喜多直家が見る夢①


 ―――これは原風景―――

 業火が唸りを上げる音。轟音にかき消されることなく、童の甲高い泣き声が混じっている。
 あれは……あの童は俺だ。宇喜多直家だ。
 俺が、まだ八郎と呼ばれていた時代の俺が泣いている。

 誰かが呼びかけてくる。

 「八郎、起きろ八朗」

 八郎?誰のことか?いや、この声は聞き覚えがある。
 目をそっと開く。
 まだ、周囲は暗闇が支配している。
 いや、開かれたふすまから月の光が室内へ伸び、俺を呼ぶ人物の姿を見せる。
 そこには老人がいた。
 その老人は宇喜多能家。俺の祖父がそこに立っている。
 宇喜多能家の表情は、普段の俺へ向けるものとは別物であった。
 その姿は、まさに『武人』
 家督を親父に譲り、引退したはずの武人が存在している。

 「戦でございますか?」

 祖父は静かにうなずいた。

 いつの間に、ここが戦場になっていたのか。
 おそらく、城の者々は武人へと変貌を遂げているはず。
 なのに、自分はどうか? 戦の匂いに気がつかず、すやすやと惰眠を貪っていた。
 これが恥じ以外のなんであろうか?俺は自分を恥じた。
 そうしていると、部屋へ入ってくる者がもう一人。
 父、宇喜多興家であった。
 俺は父の姿に驚きを隠せないでいた。

 戦鎧に身を包ませた祖父、能家に対して、父、興家の服装は平服であった。
 なぜ、戦いを前に武装をしないのか?
 浮かび上がる俺の疑問。それに答えるように、父は俺にこう言った。

 「おじい様へお別れを言いなさい」
 「なぜ、これから戦いに望むにお別れなどと、縁起でもありますまい」

 俺の言葉に父は困惑した表情を
 祖父は笑みの表情を浮かべていた。

 「お前は父と共に逃げよ」

 予想していた言葉とはいえ、実際に祖父の口から放たれると、それは重い衝撃として俺につたわる。
 「いやでございます」俺は、反射的に叫んでいた。
 だが---
 祖父と父の様子から、城へ攻め込んできた勢力が只者ではないと分かる。
 「一体、どこが攻め込んでまいったのでございますか?」

 落ち着いて考えてみると、妙な話だ。
 昼間の城内の様子を思い出す。祖父も父も普段と変わらぬ様子であった。
 いや、祖父、父以外の城の者共が戦の備えをしていた記憶はない。
 今宵の奇襲。城の者、誰一人として想定していなかった。
 敵勢力は何者で、どこから現れたと言うのか?

 祖父は静かに口を開く。
 「敵は、島村よ。島村盛実じゃ」
 「そんな馬鹿な・・・・・・」

 俺は絶望を理解した。
 島村家は宇喜多家と同じ浦上の家臣。
 つまり、これは---
 浦上が宇喜多を攻めるのを良しとした。
 そういう事なのだ。

  

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