覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

シンの心中

 馬車は進む。ゆっくりとだが、僅かな揺れを感じさせ。
 この旅の目的は、曹丕と関羽の2人が、この世界で生活の拠点になるであろう都へと向かうための旅である。
 だが、山賊の如く襲い掛かってきた宇喜多直家。その軍師である吉備真備が仲間となり、4人共、元いた世界へ帰還するのが目的である。
 4人。確かに馬車の中には4人の男達が好き勝手にだらけている。
 だが、もう1人・・・・・・。
 馬車の外で馬車を操る少女の事を忘れてはなるまい。
 彼女の名はシン。金髪碧眼の少女であった。
 そんな彼女が、馬車内の男共を見て思う感想は―――
 (どうして、彼らそういう事をするのだろうか?)
 その連続であった。
 文化が違い、伝統も違えば、理解するのは難しい。
 だけれども、それらを否定してはならない。
 そう子供の頃から教え込まれてきたけれども・・・・・・
 やっぱり、彼らの行動はわからない。
 特にあの―――

 「横に座っても、いいですかね」

 !?
 来た。彼は、曹丕さんは、こちらの返事を待たずに横へ腰をかける。

 「やぁ、本日はお日柄もよく・・・・・・ところで、私の元に嫁ぐつもりはありませんか」

 どこに、嫁ぐ話を振る部分があったのだろ?すごい、この人。

 「えっと、私には婚約者がいまして・・・・・・」
 「私は一向に構いませんよ」

 ??? 話が通じてないように感じるのは私の気のせいなのかしら?
 なにか、言葉は通じているのに意味が通じていないような感覚が怖いように感じられます。

 「私は女性を愛したことがありません。されど、女性の扱いには長けているつもりです」
 「は、はぁ」
 「だから、私の物になってください」

 毎日のように、この押し問答が行われていた。
 この人はわたしのどこがいいのでしょうか?わけがわかりません。

 「お話の最中に失礼します」と関羽さんが後方から顔をだしてきました。
 「うむ、話せ」と曹丕さん、明らかにご機嫌斜めの様子でいいました。
 「いえ、シン殿にお尋ねしたい」
 「え?わたしですか?」

 これは、少し意外。関羽さんは寡黙な方で、わたしに話しかけてくるのは希です。
 無口で大柄でヒゲです。正直、怖い風貌なのです。

 「道が荒れてきてますな。この周囲は、元から、このような感じの場所なのでしょうか?」

 そういわれて見ると少しおかしな感じがしてきました。
 道に小石が転がっています。ひとつ、ふたつなの、自然なのですが・・・・・・
 少し、多い感じがします。
 その事を関羽さんに伝えると「うむ」とだけ言って、馬車の奥へと戻っていきました。
 なんだったのでしょうか?

 しばらく、曹丕さんの話相手を続けながら、馬車を走らせていました。
 どのくらい走らせたのでしょうか? やがて、わたしにも不安が感じられるほど、周辺地域が荒れてきました。
 本来、舗装されている道にはひび割れが目立つようになり、たまに見かける周辺の建物は荒れ果てた廃墟のように・・・・・・

 「シンどの」と曹丕さんがわたしを呼びます。
 「予定では、その先の村で食料の補給などを行う予定でしたね」
 わたしは頷いた。
 それに対して曹丕さんは―――
 「このまま通過しましょう。食料は暫く、狩りにでも興じればいい」

 わたしは、またも頷くしかありません。
 何かが起こっている。それだけしかわからないのですから・・・・・・
 おそらく、曹丕さんや関羽さんには、その何かに感づいているのでしょう。
 やがて、村が見えてきました。
 わたしは―――
 いえ、わたしたちは異世界からやってきた《渡人》を案内するべき育てられてきました。
 当然、幼い気頃から、村から都への道を学ばされる。
 この先の村だって、年に1度は1人で馬車を走らせる練習で向かわされてきたのです。
 でも、村に近づけば、近づくほどに記憶にある道から、遠くに外れていく感覚が不思議とします。
 そして、見えてきた村は、まるで廃村のように朽ちていました。
 このまま村を素通りするにも、村の中を走らなければなりません。
 今までの道と違い、死角から人が飛び出し来るかもしれません。
 馬車の速度を落とし、村の中へと入っていきました。
 廃村のように見えても人はいます。けれども、隠れるように家の中から出てきません。
 わたしに取って、こんなに奇妙な出来事はありません。

 この世界に住むべきもの、発展のため《渡人》をもてなすべし。

 これは、どこの村でも共通認識だったはずなのですが・・・・・・
 誰も、出てきません。正直に言いますと不気味です。
 つい、馬の手綱に力が入り、馬車の速度をあげてしまいました。
 いや、もしかしたら、不安から早く解き放たれたのかもしません。
 だからです。
 だから、急に飛び出してきた子供に反応が遅れてしまったのです。

 
 

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