覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

狂乱 直家

 村長が所有する建物。
 2人の襲撃者は姿を隠しながら、進んでいく。
 建物の中にもかかわらず、轟々と光を放つかがり火。
 それが、何かを演出させている。そう、何かがおかしい。
 予感。そういう曖昧な感覚が経験豊富な兵士の歩みを止める。
 剣士、侍、騎士。そう言った者達には2種類の人間がいる。
 まず、己の剣に感情を乗せぬ者。
 徹底した鍛錬、練兵により心を、自らの意識を消して剣を振るうのだ。
 そして、もう1種類の方は―――自らの感情を剣に乗せる者だ。
 殺意、歓喜、あるいは闘気。自らの感情をそのままに、戦う者。
 感情を放出し、戦いにおいて自身を表現しようとする。ある意味では芸術家のような感性の表現者。
 この先にいる者は間違いなく後者である。
 襲撃者達が普段は眠らせた、あるいは殺している感情を揺り動かしてくる。
 まだ、戦いが始まる前から、まだ、姿を見せる前から
 この先に潜む者を見てはいけない。そういう予感が襲撃者達の足を止めさせたのだ。
 だが、ソイツはやってくる。
 抜き身の刀。峰の部分を肩にかけている。
 着物ははだけていて、半裸状態。
 嗚呼、笑っている。放たれる感情の正体は狂気。
 それが、恐怖を思い出させられる。
 そして現れた者は宇喜多直家。
 襲撃者2人には、その姿が未知の怪物にしか見えず―――
 悲鳴が響いた。


 悲鳴が聞こえてくる中、建物の奥。
 曹丕とマキビは机に紙を広げ、何かを置いていた。
 紙をよく見ると、村の地図だった。
 2人は地図の上に人形をおいていく。
 木彫りで簡易的な小さな人形。おそらくは手作り。
 それは不思議な事に関羽や直家の位置。それどころか、襲撃者たちの位置まで正確に把握されていた。

 「敵は10人。村の外に陣取っている1人が、指示を行っているのでしょう」とマキビ。
 「なるほど。その者と関羽どのが倒した1人を除いて8人」と曹丕。
 2人は素早く人形を動かせる。
 建物の外に関羽を模したような人形。その横に1つの人形が倒されている。
 その周囲に2つの人形が関羽の人形を囲っている。
 建物の中に直家を模したような人形。前方に2つの人形が設置。
 「そして、村の外に大将の人形を置いて・・・・・」
 「残り4つの人形が、建物の裏側から潜り込んでますね。どうしますか?」
 そういう曹丕の質問にマキビはニッコリと笑顔をみせる。

 「いざとなれば、私の友が戦ってくれますよ」
 「友?どこにおられるのですか?」
 「いますよ。私の背後にいつも。そう言っていると・・・・・・ほら」
 とマキビを天井に指を指す。そこには天井に張り付いた襲撃者が襲い掛かろうとする瞬間であった。
 

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