覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

シンの悩み

 シンは部屋に籠ったまま出てこない。まるで天岩戸のアマテラスのようにだ。
 シンの部屋の前、途方に暮れる曹丕。
 彼は幾度となく、部屋に向かい呼びかけていたが、その度に撃沈を繰り返している。
 何が悪かったのか思い浮かべてみるも、逆に曹丕の行動で悪くなかった部分が思い当たらない。
 我を忘れていた。
 普段、感情の上下が少ない曹丕ではあるが、日常的に精神が安定している曹丕ではあるが―――
 命のやり取り。生死の奪い合いの場からの生還。
 猛る心が、あれを行わせていたのだろう。
 正気に戻った曹丕は、彼に珍しく反省している。猛省と言っても過言ではない。
 だから、謝罪をしているのだ。

 一方、部屋に篭っているシンは、曹丕の謝罪を聞きながら思っていた。
 (彼は勘違いをしている)

 彼女が部屋に閉じこもっている理由。
 それには、確かに曹丕に対する嫌悪感や怒りといった感情が存在しているが、それが理由として大きな部分ではない。
 では、なぜ、彼女は引きこもるのか?なぜ、閉じこもっているいるのか?
 それは恥じらいから来ている行動であった。
 責任感。
 この世界の住民にとって、《渡人》の案内人という立場がどれほどの重圧を背負うものなのか?
 それを《渡人》本人である曹丕には理解できないものであった。
 シンは思い出す。
 この村が襲撃され、曹丕たちが戦っていた時、自分は何をしていたのか?
 惰眠を貪り、あまつさえ、曹丕が来た時の自分は―――いびきをかいていた。

 「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 その様子を頭に思い描いた瞬間、シンは悲鳴を上げた。
 首をブンブンと勢いよく左右に揺らす。
 「忘れろ。忘れるんだわたし!」
 自分でも顔が赤面しているのがわかる。
 たぶん、体温が熱くなっている。
 パタパタと両手を内輪のように扇いで体温を下げようとするも、部屋の外から

 「シン殿、どうなされましたか? シン殿!」と問題の発端となった曹丕の声がする。
 (いやぁ~いやぁ~いやぁ~)
 逆に体温は急上昇。部屋の墨に座り込んでいたシンは、体を横に倒して、床を転がりまわる。
 (どうしよう?どうしよう?どうしよう?)
 自分でも矛盾してるのはわかっている。
 案内人とか、立場を優先するなら、すぐに部屋から出て・・・・・・

 「シン殿・・・・・どうか顔だけでも出してはくれませんか?」

 (やっぱり無理~!?)

 しばらくシンは、頭を抑えて悶え苦しむことになる。

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