覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

曹丕の追求

 「さて、関羽さんが落ち着いてくれた所で、続きを説明していきましょう」
 そんな事をぬけぬけと言うユダに怒りを通り越して、関羽は呆れるだけだった。
 「知っての通り、この世界に来た《渡人》には生活費が支払えます。必要最低限の金額ではありますが、部屋代と食事代には足りる額です。娯楽や趣味嗜好に使うなら働いてください」
 関羽たちの前に袋が置かれる。どうやら素材は動物の皮でできた袋のようだ。開いて見ると黄金で作られた硬貨が数枚入っていた。
 「月に一度、役所で本人の手続き後にお渡しする生活費です。今月分は、この場でお渡しいたしますので、お受取りください」
 話には聞いていた事だが、実際に無条件で金銭が渡されるとなると、すんなりと受取りずらい。
 しかし、曹丕は「受け取りましょう」とすんなりと手を伸ばす。
 「この金銭を受け取る条件は、我々に魔法の研究を行えという事なのでしょ?」
 「その通りですよ。この地に《渡人》を呼び寄せている理由は、魔法の発展のため……先ほど言いましたか?」
 頷く曹丕を確認してユダは話を戻す。
 「年に一度、研究成果を提出していただければいいのです。貴方たちの仕事は魔法の研究。そう思っていただくと少ない賃金ではありませんかな?」
 いろいろと腑に落ちないが、曹丕が受け取った手前、関羽も受け取る事にした。
 その前に関羽は聞いた。
 「魔法の研究とは、具体的に何を行うのか?」 
 当たり前だが、関羽は魔法を研究しろと言われても魔法に対する知識を持っていないのだ。
 請け負うからには、それなりの形で成果を上げなければなるまい。関羽は、そう思っての質問だった。
 「具体的には……何を行うという事ではありません」
 「何!?」
 「この世界にある既存の魔法に慣れ親しんでいけば、自然と新たな魔法にたどり着ける……要するに何もしなくれも、それなりの成果が得られるから、貴方たちは安い賃金で誤魔化されているわけですよ」
 冗談だったのか、ユダは小さく笑った。
 「それでは、他に質問は?」
 曹丕が手を上げて質問する。
 「では、この世界で我らのような《渡人》が行える仕事はどのようなものがありますか?」
 「―——なるほど。良い質問ですね」
 ユダは机に資料を広げる。
 相変わらず、どこに持っていたの?手品でも使っているのか?わからない早業だった。
 「貴方たちは人間離れした技能をもっていますからね。求められる仕事も多いのですよ」

 資料に目を向けると―——

 『ドラゴン退治募集』 『ダンジョン遺跡調査護衛募集』 『魔王軍討伐兵緊急募集』

 どういう仕事なのか、関羽は想像すらできなかった。


 結局、関羽たちは求人募集の資料と金貨の入った袋を土産に役所を後にした。
 あの男、ユダの言葉をどのくらい理解できているのか?自分でもわからない。
 ただ、精神的な疲労感が関羽に気怠さを感じさせる。
 暫く、曹丕と関羽は無言で歩く。役所から十分な距離を離れてから、曹丕がこう話かけてきた。
 「関羽どのは気づかれましたか?」
 唐突な質問に面喰いながらも、関羽は「何をでしょか?」と聞き返す。
 すると―——

 「あのユダという男。嘘をついています」


 

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