覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

これまでの曹丕 ①

 そして夜明け。まだ太陽が顔を出す前から曹丕たちは出発する。
 移動は馬車。この世界に来て間もない頃、案内人の少女が操っていたものと同じものだ。
 関羽の家付近に止めていたらしい。今、手綱を手にして操るのは曹丕だ。
 そう言えば……と関羽は半年前を思い出す。
 「そう言えば、あのシンという少女はどうされましたか?」
 半年前の役所を出た直後、曹丕は魔法の研究、鍛錬を所望した。
 高名な魔術師を見つけ、弟子入りを行った。
 関羽は、同行するわけにもいかず、町に残る。この世界に溶け込むように生活を行い、曹丕の帰りを待っていたのだ。
 その時、案内人の少女は曹丕を魔術師の元へ送り、そのまま帰ってこなかった。
 安否の確認を曹丕に手紙を送ってみたが、返事は一文で

 『問題はありません』

 と書かれていた。それから、少女がどうなったか関羽は知らない。
 そして、どうなったのかを曹丕は簡潔に述べた。
 「彼女とは、紆余曲折ありましたが……先日、婚約までたどり着けましたよ」
 「なんと!?」
 「今は私が修行している場所で寝食を共にしております」
 関羽が聞きたかった『彼女がどうなったのか?』とは、別に恋愛面での事ではなかったのだが……
 結果として、シンの安否が知れた。
 しかし、お目付け役である自分に知らせずに婚約とは、喜べばいいのか、怒ればいいのだろうか?
 無論、めでたい事には違いない。やはり、父上に似たのか、一言で言えば「手が早い」という感想だった。
 「いやいや、それよりも」と関羽は、馬車を操る曹丕の後ろ姿を見つめる。
 一見すれば細身であるが、筋肉の均等な取れた肉体。他者よりも手足が長いために、細く見えるのだ。
 鍛えられた肉体に、身体能力を向上させるために必要な分の脂肪がある。
 よく脂肪は不要なものだと考えられているが、それは間違いである。
 こちら風に言えばエネルギー。脂肪は、その貯蔵庫であり、戦う者に取って必要な物なのだ。
 曹丕の肉体は、鍛錬を詰んだ者の肉体。
 顔は幼さが残るが、全体的に整っており、目元と眉に知性を感じる。そして精悍な顔付き。
 こちら側には「童に顔に神の肉体」という言葉があるらしいが、おそらくはこういう者に使う言葉なのだろう。
 しかし、しかしだ。いや、だから……と表現した方が良いかもしれない。
 誰しもが、曹丕の年齢を忘れる。もはや、貫禄や威厳と言ったものまで身に纏っているが……
 彼は、まだ少年なのだ。関羽の記憶が確かならば……

 曹丕子桓  現在、13歳である。

 

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