覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

VSドラゴン ⑤

 死が迫ってくる。
 宙に浮かぶ大量の魔力の塊。
 それはまるで、夜の星空と見間違うほどの数々。
 それぞれが呪いにも似た『死』を司っている。

 そして―——

 それが放たれた。

 人には、決して抗う事ができない攻撃。
 それは、放たれると同時に死を確定させる部類の魔法。
 決して回避は出来ず、決して撃ち落とす事は出来ず、決して生き残る事は出来ない。
 そういう部類の魔法だった。そういう部類の魔法だった……はず
 直後に響いたのは、聞こえるはずのない金属音。
 人間には知覚する事すら困難な魔力の一斉射撃。
 関羽はそれを覆した。
 魔力を弾いたのは、関羽の代名詞である青龍偃月刀。
 毒に侵され、意識は薄い。 肉体から力が抜けていく。
 もしかしたら、魂というもの体から抜け落ちている最中なのかもしれない。
 されど―———
 関羽は青龍偃月刀を振るう。振るい続ける。
 自身に向けられた死の魔法を振るい落とすように……


 そんな関羽の姿にドラゴンは分析を開始する。
 なぜ、目の前の男は魔力を弾けるのか?なぜ、撃ち落とせるのか?
 そして、僅かな時間で結果を出した。

 関羽が行っているのは概念の固定化。
 ドラゴンが放っている魔法。それは、本来なら放つと同時に死という結果を起こす魔法であり、そこに距離や物理法則など存在していない。
 しかし、関羽は矢という形に固定させ、無理やり物理法則に従わせているのだ。
 なぜ、そのような事が可能なのか?

 それは《渡人》が持つ、この世界への影響力。

 それは、新たな魔法制作。

 ……当然ながら、そんなものではない。
 人間が生み出す魔法によって世界の理を捻じ曲げる事は可能かもしれない。
 しかし、関羽が行っているのは、逆である。捻じ曲がったはずの世界の理を元に戻している。
 一度、破壊したものを完全に復元する事は困難な事だ。それは、例えるなら死んだ人間を蘇らす行為に等しい。
 そして、それは魔法の領域ではない。では、関羽は何を行っているのか? 

  『……うむ。民間伝承から叩き上げられた部類の神位。どうやら人間ではなかったようだ』 

 それらの全てを理解しているのは、この場でドラゴンだけ。
 しかし、彼はすべてを語る事はない。
 なぜなら―——

 『しかし、神の領域にたどり着いた所で、我には無関係。―――いや、むしろ人間如きの神程度の存在が


 我の眠りを妨げるなど、万死に価すると思え』


 逆鱗に触れると言う言葉がある。それは、今の状況を持ち得て使う言葉であろう。
 理性という鎖で繋がれた生物が、ただ獣へ成り下がる。
 それは止まらない。生命が尽きるまで動き続ける。
 ただ、殺すという目的だけのために―——
 狂乱の戦いは、さらなる加熱を求められた。


 

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