覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

曹丕対関羽 決着

 魔術魔法を使う。しかし、それは武術的な技の延長として使うのだ。
 外部の魔力を利用して自身を強化する。それは技か?
 自身の内部に貯蔵されている魔力を自身の強化に利用する。
 それは技か?―——それは技だ。
 あくまで使う技術は、自分の体内に持っている物。
 外部の力を利用する。それは不意打ちに等しい。
 自分の考えが正しいか、どうかわからない。

 例えるなら、関羽の足元に魔力で具現化した罠を仕掛けて動きを止める。

 例えるなら、不可視の壁を関羽の周りに出現させ、凶悪な攻撃呪文を唱える。

 そうすれば勝てるかもしれない。
 だが、何かちがう。関羽と戦うという事はそうではない。
 自分は納得したいのだ。自身の力で関羽と戦えるという事を―——



 曹丕は関羽との間合いは、一気に縮める。
 なぜなら、それは武器の差。
 関羽の青龍偃月刀。両手で長い柄を握り、遠心力を加えた一撃は強烈である。
 それに比べ、曹丕の武器は宝剣と魔剣の二刀流。
 両手で受けても、関羽の一撃に耐えれるか怪しい。片手で受ければ、武器も、腕も耐えれる保証は0に等しい。
 だから、間合いを詰める。関羽の青龍偃月刀が自由に振り回せないほどの接近戦に持ち込むためにだ。
 しかし、関羽とて曹丕の考えに気づいている。容易に懐へ招き入れる真似はしない。
 接近戦まで間合いを詰めるには、必ず関羽の間合いを通らなければならない。
 関羽の間合いに入った瞬間、一撃で仕留めるために繰り出される攻撃を曹丕は潜り抜けねばならない。 そして、それはきた。
 號―——
 音を上げ、振り落された関羽の一撃。
 それを曹丕は受けた。事も有ろうに片手でだ。
 受けたのは、左の武器。すなわち魔剣の方。そして、受けた瞬間に魔法を発動させる。 
 衝撃を体内で受け流す魔法。
 左手から受けた衝撃が、曹丕の体内を通って、左足へ抜けていく。
 その刹那。曹丕は左足で地面を蹴った。
 本来、左足へ受ける衝撃を地面に流し、自らの肉体を前へ急加速させたのだ。
 一瞬の加速。
 その速度を利用し、曹丕は右手に握る宝剣を前へ突き出す。
 吸い込まれていくように関羽の顔面へ向かう宝剣。
 しかし———

 (これを躱されるのか)

 曹丕の一撃を関羽は、僅かに顔を動かし避けた。
 そして、曹丕を蹴る。己の間合いへと、蹴り剥がすような蹴り。

 「むっ!」

 しかし、曹丕を動かなかった。まるで両足に根が生えたように、関羽の蹴りに耐えた。
 そのまま、曹丕は前に出る。片足の関羽は体制が崩れる。
 今度は曹丕が宝剣を関羽の頭部へ向け、振り下ろす。
 関羽は柄でそれを受けようと青龍偃月刀を上げる。

 (それを待っていました)

 甲高い金属音。
 曹丕の宝剣は受けられた。しかし、曹丕は二刀流。
 宝剣を受けてがら空きの胴へ、魔剣を突き刺そうと動く。
 だが、その直前に気づく。関羽は青龍偃月刀を片手で持っているという事に―——
 ならば、もう一本の腕はどこに?
 まるで蜷局を巻いた蛇が獲物に飛びつくが如くの速度。
 関羽の腕は、曹丕の魔剣―——それを持つ腕を捕縛しようと伸ばしていた。
 力差、体格差、武の技能。それらに勝る関羽に片手を掴まれたなら、一瞬で勝負は決まってしまう。
 そう判断して曹丕は、魔剣を引く。遅れてきた関羽の手は宙を掴む。

 宙を掴んだはずの関羽の手は、そのまま硬く、強く、拳を握る。
 そして、曹丕の顔面を強く叩いた。
 そのまま、後方へ倒れていくように、大きく曹丕の体が仰け反っていく。
 薄れゆく意識の中、それでも曹丕は足を後ろに出し、堪える。
 勝機は、この間合いにしかない。
 何とか耐えきり、関羽に顔を向けた曹丕。しかし、それは絶望だった。
 関羽は既に数歩、後ろに下がっていた。
 それは、関羽の間合いだった。

 號―—— 號―—— 號―——

 と、青龍偃月刀から唸りを上げる音が出る。
 最初の一手、魔法を使った受けは、もう使えない。
 関羽は武器破壊を行おうとしている。受けた武器をそのまま破壊する剛腕。それが関羽には十分に備わっている。
 そして、それがきた。

(どうする?どうすれば?)

 混乱する曹丕。しかし、それがよかった。
 冷静さを失ったからこそ、日常的に叩き込まれていた技術を無意識に、そして反射的に行っていたのだ。

 すなわち、生き残る事のみを重視された技。

 振り下ろされる関羽の一撃。二本の剣を重ねて受けようとする曹丕。
 当然、曹丕の腕では関羽の一撃を受け切れない。
 そのまま、勢いに負けて、体が沈んでいく―————ように見えた。
 だが、違う。曹丕は自ら、低くしゃがみ込む。
 そのまま、前へ飛び込むように進む。両手の剣は、既に捨てた。
 刃の部分をやり過ごしたが、柄の部分が曹丕の背中に直撃し、曹丕は潰れていく。
 しかし、曹丕の体は勢いを失わない。
 そして、ついに関羽の肉体へ到達する。
 関羽の両足を、曹丕の両腕が包み込んでいく。

 (タックル……だと!?)

 関羽は、曹丕の動きから、かつて戦った相手であるプラトンを思い出す。
 相手の動きを捕縛する無手の技術。レスリングの技だ。
 両足を後方へ放り出して、両手で相手の上半身を潰す。
 本来の関羽なら、タックルの対処法を行えた。しかし、不意をつかれ、想像すらしていなかった曹丕のタックルを無防備で受けてしまった。
 関羽の巨体が後方へ倒れた。まるで切り倒された巨木のように大きな音を立てて倒れる。
 下半身を抑えられ、満足に動けない関羽。
 地面に仰向けに倒れてしまうと、長い獲物である青龍偃月刀は振る事ができなくなってしまう。
 そして、関羽の抑え込む曹丕の口には、いつの間にか短剣が咥えられていた。

 「お見事。まいりました」

 関羽の言葉に曹丕は捕縛を外して立ち上がる。
 そして、深くため息をつくと一言。

 「随分と手加減をなさりましたな」

 関羽は笑う。

 「手加減はしましたが、本気で戦いましたよ」

 曹丕に取っては、虚しさすら感じる言葉だった。 

 

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