覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

現れた僧

 
 ついに曹丕たちは20層に足を踏み入れる。
 それに比例して死臭がさらに激しくなる。
 それに加えて奇妙な事がある。
 速すぎるのだ。いかに曹丕であれ、いかに関羽であれ、初見のダンジョン。
 その進軍速度は異常なhど速すぎる。そして、その原因に曹丕たちは気がついた。
 魔物の数が少なくなっている事に―――

 ダンジョンにいる魔物は、下に潜れば潜るほど強くなっていく。
 それはダンジョンに生態系が存在し、魔物たちの住み分けができているからだ。

 だが、今のダンジョンが魔物の数が酷く減少している。
 だから、曹丕たちは多数の魔物に取り囲まれたり、同時に襲われたりする事がなかった。
 それが、曹丕たちのダンジョン攻略を早めているのだ。
 ならば、魔物が消えた原因は何か?
 曹丕たちの頭によぎるは新種の魔物。 
 そして26層にて、ついに新種の魔物は姿を現した。

 その層は今まで層と、作りが違っていた。
 迷宮のように、複雑に入り組んだ構造とは違う。
 所々に広々とした部屋のように開いた場所がいくつも存在している。
 それは危険だ。
 魔物に発見されやすく、他方向から囲まれて襲われやすく、逃げにくい。
 そんな場所。そんな場所に大量の魔物が存在していた。

 「なんだ・・・・・・これは?」

 そう声にした関羽は、そのまま絶句する。
 驚きと動揺を隠せないのは曹丕も同じだ。
 広々とした部屋に大量の魔物たち。その種類は様々で・・・・・・ 
 今までの階層で魔物が減っていった原因は一目でわかる。
 一箇所に集められていたのだ。本来ならば、それぞれが別々の階層を根城にしている魔物達を。

 「いや・・・・・・集められた?」と曹丕は自分の考えに疑問の声を出した。
 集められた?それではまるで……いや、間違いない。
 これは自然に集まったのではない。そう集められたのだ。
 何者かによって、人為的に、意図的に。
 ならば、何者が?何を目的に? 考えても答えが出てこない。

 一方、魔物達は―――
 こちらを襲ってくるわけでもなく、顔だけをこちらに向けて、動きを止めている。
 人を襲うという魔物の本能が消え去っている。
 何をどうすれば、そんな事が可能なのか?曹丕には想像すらできない。

 不意に

 「これはこれは、お客さんですか。こんな所まで珍しい」

 人の声である。
 そして、魔物たちの群れが割れて、道ができる。
 その道を悠々と進む者が姿を現す。
 男の姿は、
 衣服は袈裟。頭は剃髪。
 見間違うことなく、日本の僧侶の姿。されど、腰には日本刀。

 「私の名前は西行。お見知りおきを」

 彼は笑みを浮かべる。
 すさまじい笑いであった。


コメント

コメントを書く

「歴史」の人気作品

書籍化作品