覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

VSミノタウロス ③

 ミノタウロスは攻撃を繰り返す。 
 何度も何度も力任せに大剣を振り下ろす。
 しかし、関羽には通じない。
 次から次にへ切りつけてくる剣戟を簡単に片手で受けていく。

 何が起きたのか?ミノタウロスは困惑していた。
 全力で放った一撃を、腕力によって受け止められるならわかる。
 だが、今、目の前で行われている事はそれとは違っている。
 打てないのだ。
 どんなに大剣に力を込めても力が抜けてしまう。
 目の前の人間が持つ武器に当たる頃には力が抜け、弱々しい攻撃になってします。
 一体、目の前の男は何をしたているのか?
 ミノタウロスは考えた。そう、まるで人間のように考え始めていた。
 そして、それは、怪物の野生は身を潜め、人間として知能が目覚めかけている証拠でもあった。

 さて、関羽がミノタウロスに何をしたのか?
 答えは「技」である。
 単純な技。
 相手の攻撃に合わせて、間合いを詰める動作を行う。
 しかし、その動きは偽物。騙すためのまやかしにすぎない。
 頭と腕の動きで前進しているように見せかける。
 しかし、その実は、足捌きを利用して僅かに後ろに下がっている。
 すると相手は無意識にこちらの動きに合わせて微調整を行う。
 ミノタウロスは無意識下で、前に出てくる関羽を――――その動きからタイミングを予測して攻撃を繰り出すようになる。
 しかし、関羽は前に出ていない。それどこらか下がっているのだ。

 野球には、真芯を外すという言葉がある。
 バッターは向かってくるボールに対して最強最高のインパクトを狙う。
 しかし、僅かなタイミングのずれでも、十分なインパクトがボールに伝わることなく、ボールを打ち上げてしまう。
 例えとしては、やや強引ではあるが、それに近い現象を関羽は技を持って起こしているのだ。

 
 目の錯覚を利用し、相手の間合いを狂わせる。

 言ってしまえば、それだけの事である。
 だが、それだけ。それだけの事でミノタウロスの猛攻を無効化しているのも事実である。
 そしてミノタウロスに混乱を起こした。
 いや、混乱しているというのならば、人の知性を奪われた時点で、既に混乱していたのだろうけれども……
 ミノタウロスは頭部に強い衝撃を受ける。
 それは比喩ではなく、実際に受けた物理的な衝撃である。
 今まで防御に徹していた関羽が攻撃へ転じたのだ。
 関羽の青龍偃月刀はミノタウロスのツノを強烈に叩いた。
 関羽が選んだのは、剣戟ではなく打撃。鈍器として青龍偃月刀を操り始める。
 ミノタウロスに取ってツノは強烈な武器であると同時に弱点でもある。
 雄と雄がツノをぶつけ合い強弱を決める。
 自然界ではよく見られる行為であり、ツノを持つ生物に取って、ツノは強さの象徴である。
 また、四足歩行の生物の骨。とりわけ、後頭部にある頚椎から尾椎までの脊椎はでかい。
 首を支える骨そのものが巨大であり、頭部の衝撃を抑え、脳の揺れを押さえきる。
 つまり、頭部への打撃により効果は期待できない。
 しかし、牛などの生物が有するツノは頭部の骨が変形してできたものである。
 そして、そのツノには神経が通っており、また血管も通っている。
 そのツノを直接的に叩かれると言うことは、頭部の骨を直接、殴られていると一緒である。

 関羽の攻撃が通るたびにミノタウロスの体が大きく揺さぶられていく。
 もはや、いつ倒れてもおかしくない状態だ。

 だが、しかし――――
 ミノタウロスの目は死んでいない。

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