クラウンクレイド

さたけまさたけ/茶竹抹茶竹

[零13-2・顕現]

0Σ13-2

 私がゲームキャラクターだと指差されても私には全く納得も理解も実感もない。だって私は今此処に、肉体と確かな意識を持って立っている。思考も出来るし身体が勝手に動いたりしない。五感全て、痛覚だって心臓の鼓動だってある。時間が経てば空腹を覚える、怪我をすれば血が出る。

「此処に間違いなくいるのに、私がゲームのキャラクターであるなんてことありますか。そんな馬鹿な話が」

 私の見てきたものが、私自身が、ゲームの中の世界であったなんて話があり得る筈がないと私は頭を振る。
 データ上の存在がこの世界に受肉したとでも言うのだろうか。実は秘密裏に冷凍保存技術でも完成していて、本当は2019年にゾンビパンデミックが発生していて、全て嘘を吐かれているのだと思った方が納得できるくらいだった。
 レベッカが私を見つめたままクニシナさんに問う。

「何かの偶然とか、そもそも記憶違いを起こしているのではないでしょうか……」
「名前と容姿の一致は在り得るかもしれません、彼女が何らかの要因でゲームキャラクターに同化を図った可能性もあります。事故や病気でその記憶がゲーム内の記憶と混同しているのかもしれない」

 私の出自はまだ分かっていない。U34という謎の施設にいた生存者。発見される直前に目覚め、それ以前の記憶が無い。あるのは「ゾンビパンデミックが起きた世界」の2019年での記憶のみ。その60年間の時間の開きと歴史の不一致から記憶の不整合を疑われた。何らかの病気か障害ではないかと。
 ドウカケ先生と会ったもその為だ。だが、彼は何かを知っている様子だった。クラウンクレイドというワードを語ったのは意味がある筈で。彼は何を知っていて、何に対して詫びたのだ。

 クニシナさんは言葉を続ける。

「確かに、あの場にいた祷茜というキャラクターをプレイしていた人間が、自身を祷茜であると思い込んでそう振る舞っていった可能性もあるかもしれません。ですが」
「ですが?」
「……魔女である事の説明が出来ません」

 クラウンクレイドにはシンギュラリティと呼ばれる特殊なキャラクターが存在した。その世界には魔法という特殊な能力が存在して、一部の人間はそれを隠し持っていた。
 プレイヤー達はゾンビという脅威から生き延びる為に、強大な特殊能力を持つシンギュラリティを探した。
 シンギュラリティはゲーム内では魔女という文脈で語られ、見た目では分からない。だが味方に出来れば有利になるそのキャラクターをプレイヤー達は求めた。

「ゲームだから魔法も魔女も存在したのです。祷茜という魔法を使えるキャラクターがいても問題は無かった。そういう世界観のゲームとして設計されていたから。けれども、彼女は現実に現れて、そして魔法を使っている」

 科学の発展と共に魔法は御伽噺の存在に変わった。それでも本当は世界には魔法があって、ごく一部の人間だけはそれを知っていた。魔女と呼ばれる彼女達は秘密裏にそれを受け継いでいて、世界や人の為に使う程の力もなくその存在の有無だけを語り継いだ。
 その文脈が存在できたのは、そこがゲームの世界だったからだと。私が見てきた現実は数字とデータで形成された偽りの仮想の世界だったと。
 そんな結末を突き付けられて。納得も理解も出来る筈もなく。

 けれども、それはまたクニシナさんも納得できない事態ではあって。話が綺麗に纏まらないのは、その魔法の存在故であった。
 ゲームの中でだからこそ、魔法は存在できたはずだった。それは仮想の世界であったからこそ、その御伽噺は現実の物であり続けることが出来た。

「秘密裏に魔女の存在する2019年の世界でゾンビパンデミックを生き抜く。FIVRMMOゲーム、クラウンクレイド。そのゲームには確かに祷茜という魔女のキャラクターがいたのです。今、此処で魔法を使って見せた様に」

 だが、今此処にいるのは。存在しない魔法を手にして立つ一人の魔女であった。

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