クラウンクレイド
[零3-4・散弾]
0Σ3-4
私の声にレベッカは反応しなかった。ワイヤーの長さの限界に近い。伸ばしきったワイヤーは、その限界に達した時に硬直しその反動が発生する。そうした場合、レベッカを抱えていられる可能性は低い。二人とも空中に放りだされるだろう。しかし、それでもレベッカは反応しなかった。
フレズベルクが翼を畳んで急降下して弾丸の様に突っ込んでくる。グレーの羽毛の光沢や、鈍色に輝く嘴と鉤爪はまさにそれに見えて。体長6メートル近いその巨体が私達を地表に叩き付けようと迫った。その寸前。
銃声が轟く。鼓膜に達して脳の奥までも揺らす鋭く重たい轟音。そしてその反動が、彼女の身体を通して私の身体にのしかかる。銃が激しく跳ね上がって、それを抑え込んでいた彼女の右腕から肘にかけてが思い切り私に食い込む。
銃口から撃ち出された弾丸は、空中で炸裂して細かな弾丸をばら撒いて。それがフレズベルクの胴体を貫いた。細かな羽毛が空中に散って、力を失いバランスを崩したその巨体は錐もみ回転しながら重力に引かれて落下していく。私は即座にレベッカの手にWIIGを握らせて、その身体を真横へ押し退けた。ワイヤーを巻き上げる。
落下の勢いに勝てずにワイヤーの巻き上げる力がぶつかり合い反動が発生して、私の身体は空中で二回転ほどした。視界が反転しては戻るを繰り返す。
正常になった視界の中で、フレズベルクが地表に叩き付けられる瞬間が見えた。ビルに囲まれた都市の空から、大地へと叩き落されたその怪鳥はその翼を衝撃によってひしゃげさせて、息絶えたように見える。その身体が、まるで生物ではなく何か不可解なオブジェであったのように、生物の区切りを失くしたそれは地面に転がっていた。フレズベルグの亡骸は地上に落ちたが、ゾンビ達はそれに見向きもせず、ひしめき合ったまま空中の私に向かって力無く手を伸ばしている。その無数の指先が私に向けられていることが気味悪く、私は目を逸らす。
今まで何度か気になっていたものの、ゾンビの食性はやはり人間にだけ限定されるようだった。しかし、大型の鳥に見向きもしないのであれば、あの大量のゾンビを維持できるだけの食糧があるとは思えなかった。明瀬ちゃんの言っていたように、ゾンビが体内で超超高分子化合物を生成できてそれを利用して長期間の生存を可能にしているのとして。
それならば、どれだけの期間生き残ることが出来るのだろうか。西暦2080年のこのゾンビ達はいつから発生しているというのだ。
「無事ですか!」
ワイヤーを伸ばし壁面を蹴りながら、私の側まで降りてきたレベッカが切羽詰まった声で言う。 
「何とか」
「あんな馬鹿な事、二度とやりませんからね!」
「次はもっと上手くやるよ」
「やりません!」
レベッカがそう言い返してきて、私の中で緊張の糸がようやく緩んだ。ワイヤーで身体を吊るしたまま、眼下を見下ろす。今、目の前で撃ち落とした脅威は消えて。それでも、世界の状況は欠片も変わっていなくて。
レベッカの持っているショットガンの引き金を引けば、一体のゾンビは葬れるだろう。けれども、今地表を埋め尽くすこの無数の群れを、全て葬るのにどれだけの銃弾がいるのだろうか。これを燃やし尽くす程の余力は人類には残っていないということなのだろうか。
今は、布の切れ端すら見えなくなったカイセさん達の姿を想いながら、私は唇を噛み締める。
彼等はきっと、この世界の全てを壊す、初めての存在なのかもしれない。
『レベッカ……聞こえるか』
ヘッドセッドからはウンジョウさんの声がした。
私の声にレベッカは反応しなかった。ワイヤーの長さの限界に近い。伸ばしきったワイヤーは、その限界に達した時に硬直しその反動が発生する。そうした場合、レベッカを抱えていられる可能性は低い。二人とも空中に放りだされるだろう。しかし、それでもレベッカは反応しなかった。
フレズベルクが翼を畳んで急降下して弾丸の様に突っ込んでくる。グレーの羽毛の光沢や、鈍色に輝く嘴と鉤爪はまさにそれに見えて。体長6メートル近いその巨体が私達を地表に叩き付けようと迫った。その寸前。
銃声が轟く。鼓膜に達して脳の奥までも揺らす鋭く重たい轟音。そしてその反動が、彼女の身体を通して私の身体にのしかかる。銃が激しく跳ね上がって、それを抑え込んでいた彼女の右腕から肘にかけてが思い切り私に食い込む。
銃口から撃ち出された弾丸は、空中で炸裂して細かな弾丸をばら撒いて。それがフレズベルクの胴体を貫いた。細かな羽毛が空中に散って、力を失いバランスを崩したその巨体は錐もみ回転しながら重力に引かれて落下していく。私は即座にレベッカの手にWIIGを握らせて、その身体を真横へ押し退けた。ワイヤーを巻き上げる。
落下の勢いに勝てずにワイヤーの巻き上げる力がぶつかり合い反動が発生して、私の身体は空中で二回転ほどした。視界が反転しては戻るを繰り返す。
正常になった視界の中で、フレズベルクが地表に叩き付けられる瞬間が見えた。ビルに囲まれた都市の空から、大地へと叩き落されたその怪鳥はその翼を衝撃によってひしゃげさせて、息絶えたように見える。その身体が、まるで生物ではなく何か不可解なオブジェであったのように、生物の区切りを失くしたそれは地面に転がっていた。フレズベルグの亡骸は地上に落ちたが、ゾンビ達はそれに見向きもせず、ひしめき合ったまま空中の私に向かって力無く手を伸ばしている。その無数の指先が私に向けられていることが気味悪く、私は目を逸らす。
今まで何度か気になっていたものの、ゾンビの食性はやはり人間にだけ限定されるようだった。しかし、大型の鳥に見向きもしないのであれば、あの大量のゾンビを維持できるだけの食糧があるとは思えなかった。明瀬ちゃんの言っていたように、ゾンビが体内で超超高分子化合物を生成できてそれを利用して長期間の生存を可能にしているのとして。
それならば、どれだけの期間生き残ることが出来るのだろうか。西暦2080年のこのゾンビ達はいつから発生しているというのだ。
「無事ですか!」
ワイヤーを伸ばし壁面を蹴りながら、私の側まで降りてきたレベッカが切羽詰まった声で言う。 
「何とか」
「あんな馬鹿な事、二度とやりませんからね!」
「次はもっと上手くやるよ」
「やりません!」
レベッカがそう言い返してきて、私の中で緊張の糸がようやく緩んだ。ワイヤーで身体を吊るしたまま、眼下を見下ろす。今、目の前で撃ち落とした脅威は消えて。それでも、世界の状況は欠片も変わっていなくて。
レベッカの持っているショットガンの引き金を引けば、一体のゾンビは葬れるだろう。けれども、今地表を埋め尽くすこの無数の群れを、全て葬るのにどれだけの銃弾がいるのだろうか。これを燃やし尽くす程の余力は人類には残っていないということなのだろうか。
今は、布の切れ端すら見えなくなったカイセさん達の姿を想いながら、私は唇を噛み締める。
彼等はきっと、この世界の全てを壊す、初めての存在なのかもしれない。
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ヘッドセッドからはウンジョウさんの声がした。
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