クラウンクレイド

さたけまさたけ/茶竹抹茶竹

[零2-2・部隊]

0Σ2-2


 私は言われるままに頷いた。レベッカの格好も所謂未来の服装というやつなのだろうか。黒色のロングコートとマントの合の子の様な上着は丈が長く、膝下までの長さがあった。下に着ているのは身体のラインにピタリと合わせたレザースーツで、それもまた黒と深い紺色で構成されていて、よく「なめして」いるようで鈍い光沢を湛えている。首元から腰の辺りまでジッパーが伸びていて、どうやら一つつなぎの造りであるようだった。レーサーなどが着ているものをもっと引き絞ったような感じだ。その丈の長いマントと肌の露出を抑えたその格好は、ゾンビに噛まれない様に工夫したものな気がした。

 腰と両足の太腿にはベルトで備え付けられたホルスターが付いていて、腰のホルスターの方には先程のハンドガンが収められている。それと、観察していて気が付いたが、彼女は何かを背負っているようだった。マントのせいで背中の方は見えなかったので気が付かなかったが、肩から伸びているベルトらしきものは、背中に背負っている何かのショルダーストラップだと分かった。

 レベッカがその手に何も持たないまま、髪をかきあげ耳の辺りに触れる。耳に装着された非常に小さなヘッドセットに指を触れたらしく、それが何かのキーであったかヘッドセッドから小さなランプの光が点滅する。
 私には聞き取れなかったが、誰かと通信しているのは間違いが無かった。数分後、ガラスの向こうで黒い影が踊って、それは突き破って室内に突入してくる。驚く私を余所に、それは華麗に室内に着地した。彼等、4人組の男女で、レベッカと同様の格好をしており、そしてまたワイヤーガンらしきものを持っていた。それと共通点がもう一点、彼等は翡翠色をした粒子を引き連れていて、それが室内に充満した。それらはたちどころに離散していき消失していく。ワイヤーによる移動に何か関係しているのだろうか。

 4人の中で最年長らしき男性が一歩進み出た。切れ長の目元にはシワが寄り、彫りの深い顔をしている。頬は少し痩け、顔の所々には切り傷の跡がある。顔の造形は50代半ば位に見えるが、髪は長くそして黒かった。彼は私の全身を、一瞬のうちに鋭く見据える。その様子にどこか猛禽類のそれを連想した。私が目を逸らさずにいると、彼はやや間を置いて口を開く。

「ウンジョウだ。ダイサン東京区画のハウンドを指揮してる」

 ダイサン東京区画、そしてハウンド。未だ得体の知れぬ言葉ではあるが、聞き覚えはあった。レベッカの所属しているグループらしき何かの代表格ということになるのだろうか。今、彼の後ろに並ぶ三人も同様にハウンドということかもしれない。
 曖昧に頷く私を見て、レベッカが口を挟む。

「隊長、そう言っても分からないみたいです」
「祷です」

 同意の意味を込めて私はわざとらしく肩を竦め、そして名乗った。
 何か進展を望めるとは思っていなかったものの、彼は私の名前に興味を示さずに言葉を続ける。

「あの施設にいた生存者ということになるが、何処から入った?」
「気付いたらあそこにいたので、なんとも言えません。そこに至るまでの記憶もないですし」

 多分記憶障害です、そんな言葉でレベッカは口出しした。今が西暦2080年であるという現実を認め、なおかつ私が西暦2019年にいた事を長い悪夢であったと片付けないのであれば、双方の意見を擦り合わせるとそんな結論になるらしい。西暦2080年という事実に大分歩み寄ってはいるけれども。
 面倒な事に、私が今直面している現実は少なくとも私のいた時代とは確かに異なる様相ではあった。
 夢なら早く醒めてくれ、そう再度自分に言い聞かせる。
 ウンジョウ氏とやらがレベッカに指示を出す。

「とにかくダイサンへ帰還する。レベッカ、君が彼女を担当しろ」
「えぇー、あたしがですか」
「空中機動中にUTS15は使えないだろう。彼女を誘導する事に集中しろ。カイセ、予備のAMADEUSーアマデウスーを彼女に貸せ」

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