クラウンクレイド
[零1-6・未来]
0Σ1-6
「なんで、こんなの」
眼下全ての景色を埋め尽くすゾンビの姿。数百という数字ではきかない、数千、いや数万に達するかもしれない。それだけの数のゾンビが、蠢きひしめき合っている。道端の石をひっくり返した時に、その下から無数の虫が沸き出た時の光景、そんな気味の悪いものを連想した。目眩と吐き気がする。悪夢ならば醒めてくれと、私は誰に向けてるかも分からない言葉で縋る。
そもそも、数が多すぎる。私が今まで見てきたのは、最大でも百数十程度。今までとは桁が違う程の数だった。その光景をこれ以上認識したくなくて、私は室内へと振り返る。もしレベッカが何かを知っているなら答えてほしくて。けれども、私の眼前で彼女はハンドガンの銃口を私に向けていた。
「あなたは何者ですか」
レベッカの声は冷たく、そしてその視線は鋭く。改めて真正面から彼女の顔をまじまじと見て、当初抱いていた印象とは大きくかけ離れている様に思えた。ショットガンをぶっ放し、押し寄せるゾンビを薙ぎ払っていたとは思えない、ただの普通の少女に見える。鮮やかな金髪の髪と、幼い顔付きながらハッキリとした強い線を描く顔のパーツから、西欧系の人種である事が察せられる。日本人とはまた違う趣きの美少女だった。もっとも彼女の言葉遣いは非常に流暢な日本語で、ハーフだろうかと私は思う。
「私の名前は祷」
「あたしはダイサン東京区画のハウンド所属、レベッカです。あなたは何者です? あの施設で何をしていたのですか?」
「ダイサン東京区画? ハウンド? どういう意味?」
「あたしの質問に答えて下さい」
私は首を横に振る。あの施設と言われても、私だって状況が分からない内に此処まで連れてこられたのだ。ただ、銃口を向けられた状態でそれを叫ぶのはあまり得策ではなさそうだ、と私は努めて平静に言葉を返す。
「私は祷、あの建物にいた理由は分からない。そこまでの記憶が無いから。さっき東京って言ってたけど、此処は東京なの? 私は内浦市に居た筈なんだけど」
「内浦市?」
「茨城県の」
東京都からの距離を考えるに、私が其処まで移動するのに全くの記憶がないというのも奇妙な話だった。しかし、それもまた事実であり。
しかし、東京の状況は此処まで悪くなっていたということに私は驚く。人工密集地でパンデミックが起きれば、街一つを埋め尽くしてしまうのか、と。
そんな私にレベッカは怪訝な顔をした。
「茨城県、ですか? あたしの生まれる前に、都道府県制度があったと聞いてますけど」
「何を言って」
「20年前には消滅している筈です」
「20年前? 消滅? ゾンビ騒動のせいで、ってこと?」
いや、そもそも20年前とはどういう事だ。
仮に、私の知らない間に、国家行政機関が各都道府県を、例えばゾンビの被害によって廃止したとして、20年前というのはおかしくないだろうか。私達の遭遇したゾンビパンデミックが2019年、その時から数えたとして2039年ということになる。私が知らない間に20年経っていた筈が無いし、そもそも身体だって変わりない。魔法が使えないことを除けば何の変化もない。少なくとも、10代だと言って通る見た目だろう。
私の中の記憶でも、シルムコーポレーションの研究所を後にした時の事を昨日のように思い出せる。あまりに辻褄の合わない話に私は逆に問い返す。
「じゃあ何? 今は2040年とでもいうわけ? 」
「本当に? 冗談を言っているわけじゃないんですか?」
レベッカの語調は強いままだった。私に向けられた銃口も揺るがない。この状況下で彼女がそこまで警戒する理由が分からなかった。少なくとも感染していないし、見る限り丸腰だというのに。
レベッカが私の態度を見て、私が冗談を言っているわけではないと分かったのか、その細い眉を綺麗にひそめて言う。
「今は、西暦2080年です」
「なんで、こんなの」
眼下全ての景色を埋め尽くすゾンビの姿。数百という数字ではきかない、数千、いや数万に達するかもしれない。それだけの数のゾンビが、蠢きひしめき合っている。道端の石をひっくり返した時に、その下から無数の虫が沸き出た時の光景、そんな気味の悪いものを連想した。目眩と吐き気がする。悪夢ならば醒めてくれと、私は誰に向けてるかも分からない言葉で縋る。
そもそも、数が多すぎる。私が今まで見てきたのは、最大でも百数十程度。今までとは桁が違う程の数だった。その光景をこれ以上認識したくなくて、私は室内へと振り返る。もしレベッカが何かを知っているなら答えてほしくて。けれども、私の眼前で彼女はハンドガンの銃口を私に向けていた。
「あなたは何者ですか」
レベッカの声は冷たく、そしてその視線は鋭く。改めて真正面から彼女の顔をまじまじと見て、当初抱いていた印象とは大きくかけ離れている様に思えた。ショットガンをぶっ放し、押し寄せるゾンビを薙ぎ払っていたとは思えない、ただの普通の少女に見える。鮮やかな金髪の髪と、幼い顔付きながらハッキリとした強い線を描く顔のパーツから、西欧系の人種である事が察せられる。日本人とはまた違う趣きの美少女だった。もっとも彼女の言葉遣いは非常に流暢な日本語で、ハーフだろうかと私は思う。
「私の名前は祷」
「あたしはダイサン東京区画のハウンド所属、レベッカです。あなたは何者です? あの施設で何をしていたのですか?」
「ダイサン東京区画? ハウンド? どういう意味?」
「あたしの質問に答えて下さい」
私は首を横に振る。あの施設と言われても、私だって状況が分からない内に此処まで連れてこられたのだ。ただ、銃口を向けられた状態でそれを叫ぶのはあまり得策ではなさそうだ、と私は努めて平静に言葉を返す。
「私は祷、あの建物にいた理由は分からない。そこまでの記憶が無いから。さっき東京って言ってたけど、此処は東京なの? 私は内浦市に居た筈なんだけど」
「内浦市?」
「茨城県の」
東京都からの距離を考えるに、私が其処まで移動するのに全くの記憶がないというのも奇妙な話だった。しかし、それもまた事実であり。
しかし、東京の状況は此処まで悪くなっていたということに私は驚く。人工密集地でパンデミックが起きれば、街一つを埋め尽くしてしまうのか、と。
そんな私にレベッカは怪訝な顔をした。
「茨城県、ですか? あたしの生まれる前に、都道府県制度があったと聞いてますけど」
「何を言って」
「20年前には消滅している筈です」
「20年前? 消滅? ゾンビ騒動のせいで、ってこと?」
いや、そもそも20年前とはどういう事だ。
仮に、私の知らない間に、国家行政機関が各都道府県を、例えばゾンビの被害によって廃止したとして、20年前というのはおかしくないだろうか。私達の遭遇したゾンビパンデミックが2019年、その時から数えたとして2039年ということになる。私が知らない間に20年経っていた筈が無いし、そもそも身体だって変わりない。魔法が使えないことを除けば何の変化もない。少なくとも、10代だと言って通る見た目だろう。
私の中の記憶でも、シルムコーポレーションの研究所を後にした時の事を昨日のように思い出せる。あまりに辻褄の合わない話に私は逆に問い返す。
「じゃあ何? 今は2040年とでもいうわけ? 」
「本当に? 冗談を言っているわけじゃないんですか?」
レベッカの語調は強いままだった。私に向けられた銃口も揺るがない。この状況下で彼女がそこまで警戒する理由が分からなかった。少なくとも感染していないし、見る限り丸腰だというのに。
レベッカが私の態度を見て、私が冗談を言っているわけではないと分かったのか、その細い眉を綺麗にひそめて言う。
「今は、西暦2080年です」
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