クラウンクレイド

さたけまさたけ/茶竹抹茶竹

『9-1・キロク』

【9章・彷徨い歩く者達】
これまでのあらすじ・ネタバレ注意

 内浦市に住む高校生「弘人―ひろと―」は、学校をサボっていた所を幼馴染の大学生「香苗―かなえ―」に見つかってしまう。弘人の父は出張がちで年の離れた姉は仕事に打ち込んで帰ってこない、そんな環境の弘人を心配をする香苗。だが弘人はそれを多少鬱陶しく思っていた。
 そんな中、弘人達の目の前で通行人の容態が急変する。突如苦しみだした彼の身体は、突然破裂し、周囲に血の雨を降らせた。


 同日、女子高生の「祷―いのり―」は、友人の「明瀬―あきせ―」、「矢野―やの―」と共に、昼休みを利用して科学室でプラネタリウムの鑑賞を行っていた。だが、学校中が混乱状態になっていることに祷は気が付く。
 一部の生徒が他の生徒に噛み付き襲っていたのだ。先輩の「御馬―おうま―」と共に様子を見に行く祷達だったが、錯乱した生徒に御馬は噛まれてしまう。すると噛まれた途端、彼も様子が急変し、祷達に襲い掛かってくるのであった。
 襲い掛かってくる生徒に明瀬が噛まれるも、祷と矢野は錯乱した生徒をモップで殴り倒し撃退する。しかしその生徒は痛がる様子も見せずに再び襲い掛かってきたことから、祷は明瀬と矢野を連れて科学室へ逃げ込んだ。


 科学室へ逃げ込んだ祷達は、錯乱した生徒達が他の生徒に噛み付くだけでなく、その血肉を喰らっている所を目撃する。人を喰らい、噛まれた人間も様子が急変する、それはまるで映画に登場する「ゾンビ」の様だった。
 明瀬は、噛まれた自分もゾンビに変わってしまうのではないか、と泣く。祷は御馬の時と違い、時間が経っても明瀬の身体に何の変化も起きない事を指摘した。噛まれてからゾンビ化するまでには数分のタイムリミットしかないと祷は推測する。
 しかし、そうしている間にもゾンビは科学室のドアを破ろうとしていた。


 退路は無く、助けも来ない。絶望的な状況の中、祷は起死回生の一手があると言いゾンビに立ち向かう。ドアを破りゾンビが雪崩れ込んできた瞬間、祷が唱えたのは呪文だった。
 突如何もない空間から炎を撃ち出してゾンビを焼き払った祷。祷は、現代社会では既に途絶えた、「魔法」を継承し続けてきた魔女の家系の生まれであった。炎を操る魔法を目の前に、明瀬と矢野は驚愕する。

 しかし、そんな二人に祷は説明する。近代化によって魔法の必要性が薄れていくに伴い、魔法の技術は殆どが形骸化した。炎を出せる技術など現代社会において殆ど役に立たず、魔女らしい事は殆ど出来ないと。だが、祷の魔法にして可能性を見出した矢野と明瀬は科学室からの脱出を画策する。二人の提案に、祷は教室のロッカーに隠してある魔女の杖があれば可能だと答える。その可能性に賭けて三人は行動を開始した。


 ゾンビは視力と平衡感覚、思考能力の低下が見られ、歩行を苦手とする。それらを補う様に聴覚と嗅覚が発達している。それらの事実に気が付いた祷達は、何とかゾンビの襲撃を避けて校内を進む。
魔女の杖を確保した祷であったが、突如現れたゾンビの群れに襲われ、目の前で矢野が死亡してしまう。

 矢野の死を目前にして尚、祷は即座に状況を判断し、階段がゾンビに埋め尽くされていることから校舎から脱出は不可能と結論付ける。失意の明瀬を連れて、校舎最上階まで移動した祷を出迎えたのは、一年生の「佳東―かとう―」、「葉山―はやま―」、「小野間―おのま―」の三人であった。
 教室にバリケードを築き籠城するという葉山の案に、祷も協力する事になる。水の確保が出来ている以上、一月近く籠城が可能と言う葉山。その理由は佳東が水を操る能力を持っているからであった。それは明らかに魔法だと祷は見抜く。佳東は魔女の家系ではないようで、突如魔法の才能が発現したようだった。

 一方、弘人と香苗はゾンビの襲撃を逃れて駅前商業ビルの最上階に居た。そこで彼等が出会ったのは「鷹橋―たかはし―」と名乗る男性だった。彼は地下駐車場の車で脱出することを提言し、弘人達はそれに協力する事になる。車まで辿り着くも、香苗が駐車場の車に置き去りにされている幼女を発見。彼女を助け出そうとするも、車にはロックがかかっており上手く行かず手間取ってしまう。そこに現れたのはチェーンソーを背負った少女「桜―さくら―」だった。
 桜が手を翳すと電撃が走り車のロックが解除された。幼女を救い出した弘人達と桜は、鷹橋の車で駐車場から脱出する。助け出した幼女は、名前を「葉山梨絵―はやま りえ―」と名乗った。


 弘人達一行は、郊外のコンビニで物品の調達に向かうも、そこで大型のゾンビと遭遇する。鷹橋を難なく吹き飛ばす程の身体能力に、桜は鷹橋を置いて逃げる事を提案するも、弘人はそれを拒否し一人で大型ゾンビに立ち向かおうとする。
そんな弘人を制止した桜が、大型ゾンビへと電撃を放った。驚く弘人に、桜は自身を魔女だと名乗る。桜の魔法によって、何とか離脱した弘人達は、市内のホームセンターに生存者が集まっているという情報を入手する。


 その頃、祷達一行は校内探索を行っていた。夜間にゾンビの動きが鈍く鳴る事、また教室から2階職員室までの安全な移動ルートが確立された事を利用して、葉山と小野間が食料調達へ向かった。
 教室に残された祷は佳東と会話をするも、佳東は生き残った事を悔やんでおり破滅願望の様な言葉を口にする。それを宥める祷であったが、突然小野間と葉山が教室に戻ってきた。安全なルートが何故か決壊しており、ゾンビの襲撃に遭ったと叫ぶ。その原因は佳東だった。佳東が深夜に、ゾンビを誘き寄せるように仕掛けておいたのだった。

 小野間がゾンビ化するのを見た祷は、早々に見切りをつけた。葉山と佳東を置き去りにして、明瀬だけを連れて学校を脱出する。
そんな祷を襲ったのは従来のゾンビとは違い、圧倒的な走力を誇る新型のゾンビであった。祷は魔女の杖を用い、自身さえも巻き込む魔法によってゾンビを撃退する。炎に照らされた学校を後に、祷は明瀬だけを守り抜くことを決意するのだった。



【弘人SIDE】
三奈瀬 弘人―みなせ ひろと― (18) ・主人公。学校をサボりがちな高校三年生。年の離れた姉がいる。
樹村  香苗―きむら かなえ― (19) ・女子大生。弘人の幼馴染。混乱を逃れ弘人と行動する。
鷹橋  俊介―たかはし しゅんすけ― (32) ・弘人と合流した男性。格闘技の心得がある。
加賀野 桜 ―かがの さくら― (14) ・中学生。雷撃を操る魔女で電動チェーンソーを武器とする。
葉山  梨絵―はやま  りえ― ( 6) ・車に取り残され、親とはぐれていた子供。



【祷SIDE】
祷   茜 ―いのり あかね― (17) ・主人公。高校二年の女子高生。炎を扱う魔女の家系。異常な程、状況判断に長ける。
明瀬  紅愛―あきせ くれあ― (17) ・祷の友人。スプラッタ-・オカルト映画好き。ゾンビに噛まれたが……。
矢野  七海―やの ななみ―  (17) ・祷の友人。天文部に所属。祷の目の前で死亡した。


佳東  一葉―かとう かずは― (16) ・祷と合流した一年生。水を操る魔法が発現した。気弱な性格。
葉山  颯―はやま はやて―  (16) ・佳東のクラスメイト。異常に冷静な性格。妹がいるものの、あまり気に留めていない様子だが……。
小野間 遼―おのま りょう―  (16) ・佳東のクラスメイト。乱暴な性格。ゾンビ化したが……。


【判明している用語・事実】

『内浦市』 ・県南部に位置する人口15万人の市。中心街は商業都市であり、また幾つかの行政機関が集積されている。
『内浦高校』 ・内浦市北部に位置する県立高校。共学、普通高校。
『生存限界』 ・人間は、水が無い状態で3日間、水のみで3週間、生存出来るとされる。


『ゾンビ(彼等)』 ・突如出現した化物。人を襲い捕食する。視力と平衡感覚と思考能力の低下が見られ、聴覚と嗅覚が発達している。
『感染』 ・ゾンビに噛まれることで、他の人間もゾンビ化する。唾液または血液によるウイルス感染が原因と思われる。
『抗体』 ・ゾンビに噛まれても感染の兆しがなく、明瀬や佳東はゾンビ化ウイルスへの抗体を持っている可能性がある。
『シンギュラリティ』 ・「特異性」を意味する言葉、詳細は不明。ある人物が口にした。


『魔法』 ・科学と社会の発展により歴史の表舞台から姿を消したが、一部に受け継がれていた特殊技能。原理は不明。何でも出来るというわけではない、とは祷の言葉。
『魔女』 ・魔法の才能と技術を受け継いできた者達。魔女の才能は遺伝し、女性にのみ発現する。祷の家系であれば、炎に関する魔法しか使えない様に、血筋と魔法は大きく関連している。
『祷の家系』 ・魔法の技術と知識を受け継いできた魔女の家系。しかしながら、近代化に伴って魔法の必要性が薄れてきた為、殆どが形骸化している。祷自身、習練の際以外に魔法を使ったことが無かった。
『呪文』 ・魔女が魔法を使用する際に用いる文言。魔女は魔法の乱用、暴発を防ぐ為に自身に魔法が使えなくなる暗示をかけており、呪文はそれを限定的に解除する。
『魔女の道具』 祷の持っている杖とマント、帽子。杖を持っている間は暗示が解除され、呪文無しでも魔法を使用出来る。マントと帽子は精神統一の助けとなると同時に、耐火性で魔法の火から身を守る為の物。


『ゾンビの種類』 ・確認されているゾンビは四種類。
『ウォーカー』 ・最も個体数の多いゾンビ。歩行を苦手とし、視力が衰え聴覚が発達している。「歩く者」の意。
『スプリンクラー』 ・弘人が目撃したゾンビ。身体が破裂し周囲に血液をばら撒く。感染拡大の原因と思われるが、各地に発生した原因は不明。「撒く者」の意。
『アダプター』 ・弘人がコンビニで遭遇した大型のゾンビ。身体能力が非常に高く、他のゾンビと違い多少の知性がある。「適合する者」の意。
『スプリンター』 ・祷が目撃したゾンビ。ウォーカーと同様に聴覚を頼りに行動するが、走る事が出来るゾンビ。走行能力は高く、祷の足では逃げ切れない程。「走る者」の意。



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