最強転生者は無限の魔力で世界を征服することにしました ~勘違い魔王による魔物の国再興記~

kiki

その33 魔王さま、入学を決意する






 魔王城に戻った僕は、みんなを集め真剣な顔でこう言い放った。

「エイレネ魔法学園に入学したいと思う」

 ……反応はない。
 聞こえてないのかな、ならもう一度――

「エイレネ魔法学園に……」
「2回もいわなくても聞こえてるぞ、まおーさま」

 なんだ、聞こえてたのか。
 なら少しぐらい反応してくれたっていいだろうに。

「あの魔王さま、急に何を言い出してるんですか?
 魔王さまほどの力があれば、今さら学園に入る必要などないはずです!」
「そうなのです、何を言っているのかさっぱりわからないのです」

 グリムだけでなく、ちょうど居合わせたレモンまでもが批判的だ。
 まあ、わかってたことではあるけど。

「グリムもレモンも落ち着くがよい。
 マオ様のことだ何か考えがあってのことなのだろう」

 ここでもフォローに回ってくれるニーズヘッグ。
 頼もしいというか、ここまで無条件に信じてくれると純粋に嬉しい。

「なあ魔王サマ、なんで理由をすっ飛ばしてそっから話すんだよ」
「反応を見ておきたくて」
「わざとかよ……」
「魔王君、まさか以前言っていた学校制度のために侵入するつもりか?」
「それもある」

 ディアボリカの住人も増えた今、学校の建物は以前よりも大きくなっているし、勉強を教えているのはフォラスだけじゃない。
 ケットシーが計算を教えたり、オークの武術教室や、フェアリーの裁縫・料理教室、あとはマーメイドの水泳教室に、マンドラゴラのダンス教室。
 他にも色々な授業が増えて、学校周辺はいつも賑やかだ。
 ただし、正式な職業として教師が存在しているわけじゃなく、半ばボランティアとして子どもたちに教えてもらっているのが現状。
 物事を教えてもらっているのは助かってるんだけど、好意によって成り立っているシステムと言うのは往々にして脆弱なものだ。
 早いうちに学校制度を固めたい。
 そのために以前からフォラスとの話し合いを進めていたのだ。

「ついでにそっちも進めるつもりではあるけど、本命は人工モンスターの方だ」
「人工モンスター、ですか?」

 グリムが首を傾げる。
 昨日の段階では例の化物については謎が多かったので、無駄に不安を煽らないために、フォラスとヴィトニル以外には伝えていない

「先日、エイレネ共和国の北の森で遭遇した謎の化物が居てね、会話は通じないんだけど人間の言葉を喋るんだ。
 フォラスの解析によると、獣の体なのに人間の脳を持っているらしい」
「あの後さらに調べてみたが、やはり無理やり人間の脳を獣に移植したようだ。
 脳の持ち主の年齢はおそらく15歳前後か」

 学生と同じ歳……か。

「えげつないことをやる輩が居たものだな。
 それで、その人工モンスターとやらは一体誰の仕業なのだ?」
「さっき、ヴィトニルの鼻を頼りにして人工モンスターの匂いをたどってもらったら、幸運にも犯人らしき人間に遭遇したんだ。
 で、そいつ追っかけたら、実は魔法学園から来た人間だったってわけ」

 ようやく話が繋がり、不満げだったグリムとレモンも納得したみたいだった。

「まさか、魔王さまが直々に潜入捜査をするつもりなのです?」
「そういうこと。
 このまま放っておいたら、エイレネ共和国民の魔物に対するイメージは低下する一方だからね、早くどうにかしないと。
 それに、魔法学園が関わってるってことは、人工モンスターには政府も関わってる可能性が高い、連中の弱みを握れば今後の活動の武器にもなる」
「でも、何もマオさまが直接行かなくても!」

 グリムは心配そうにしている。
 そんなに僕って頼りないかな、それとも離れ離れになるのが嫌なのか。

「と言っても、自然に潜入できそうなのって僕以外に誰かいるっけ」
「わ、私?」

 そんな不安そうに言われても。

「まおーさま、わたしも角が無いからいけるぞ!」

 絶対に無理だ。

「オレは無理だな、どうも学校って場所が苦手なんだ」

 ヴィトニルは学ラン来て不良やってるのが似合ってる気もする。
 セーラー服着ながら戸惑ってる姿も捨てがたいけど。

「私も遠慮しておこう。
 何が面白くて人間たちと馴れ合わなければならないのだ」

 ニーズヘッグは喋らなければ深窓の令嬢と言うか、高嶺の花って感じがする。
 机に頬杖をつきながら、窓の外を眺めている姿が絵になりそうだ。

「結局、消去法で魔王君しか居ないということか」
「さすがに私は小さすぎて無理なのです」
「フラウたちでは無理でしょうか」

 確かに彼女たちは賢い。
 けれど、魔法学院に入るには幼すぎる。

「魔法学園に入学するのは15歳って決まってるんだ。
 で、僕が今年ちょうど15歳になったところ、おあつらえ向きでしょ?」
「ぐぬぅ……そこまでお膳立てが揃っているとは」

 さすがにグリムも反論が見つからなくなったのか、悔しそうに黙り込んだ。

「そんなに心配しなくても、城から通うつもりだから大丈夫だよ」

 毎日ネクトルを売るために往復していたのだから、転送陣さえ使えれば城から通うのは容易いはずだ。
 空も飛べるし、一時間以上も電車に揺られ大学に通ってた昔に比べれば天国みたいなもんじゃないか。

「魔法学園は全寮制だと思っていたんだが、違うんだな」
「フォラスみたいにそういうイメージを持ってる人は多いみたいだね。
 田舎から出て来る生徒が多いから、寮生自体が多いのは事実だよ。
 けど、貴族クラスの人間なんかは実家、もしくは借りてる家から通学するパターンが多いって聞いたことがある」

 エイレネ魔法学院は、1年間で生徒に魔法に関する教育を叩き込み、一人前の魔法師として育て上げるための機関だ。
 クラスは大きくプラーニュ、バーン、フィナスの3つに分けられている。
 僕がさっき口にした貴族クラスとはバーンのこと。
 他にもプラーニュは平民クラス、そしてフィナスは特別クラスと呼ばれていた。

「金持ちはやっぱり違うのです」
「授業内容も貴族だと簡単になるみたいだね」
「不公平ではないか、何のための学院かわかったものではないな」

 ニーズヘッグの憤りには僕も同感だった。

 クラス分けは入試の時点で決まっている。
 名家の人間は、申し込んだだけでほぼ間違いなくバーンに編入される。
 平民はある程度の魔法を使うことが出来なければ入試に合格することができず、また合格してもプラーニュに編入される。
 そしてプラーニュはバーンに比べ、授業は難しいし試験も厳しいんだとか。
 もちろん不公平だという意見は受験生からも噴出する。
 そのガス抜きのために、数年前に作られたのが特別クラスのフィナスだった。

 フィナスは貴族も平民も関係なく、優秀な生徒を集めたクラスだ。
 もっとも、フィナスに編入される生徒は毎年5人程度しか居ない、幼い頃から家庭教師として魔法師を雇い、魔法について学んだ貴族の方が圧倒的に有利なんで、ほぼ貴族専用クラスみたいになってるらしいんだけど。

「ま、まずは試験に合格しないと話は始まらないんだけどね」
「マオさまなら楽勝なんじゃないですか?」
「あくまで調べるために侵入するんだから、それで目立ってたんじゃ本末転倒だよ、加減はするつもり」

 あくまで僕の目的は人工モンスターの出処を探ることだ。
 あまり目立ちすぎて、フィナスにでも編入されてしまえば、自由に動くことが出来る時間が減ってしまう。
 書類を偽造する都合上から、目指すクラスはプラーニュ。
 学院には毎年100人程度の生徒が入学すると聞いている。
 つまりプラーニュで20位程度の成績を取ることができれば、適度に目立たずほどよく自由に動き回れるってことだ。
 微調整か……今までは細かい威力なんて気にせずに、魔法をぶっ放すことが多かったからな、本番でうっかり力調整をミスらないようにしないと。





 それから2週間ほどが過ぎ――
 ヘルマーの協力もあって、申込みに成功した僕は、入試当日、魔法学院の門の前に立っていた。

「なあ魔王サマ。
 何でオレ……こんな格好させられてんだ?」

 紆余曲折あって、グリムたちの手によってメイド服を着せられたヴィトニルと共に。





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