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第㊙の4話 クリスマスイベント(前編)

凍てつくような寒さに息が白くなる季節
グラフ王国では大量の兵が緊急の招集を受けていた

そんな兵達を見下ろせる位置にいたまだ若きグラフ国王

「ついにこの日がやってきたな・・・」

国王は眼下に広がる万を超えるグラフ兵を見下ろしながら笑みを浮かべる

「陛下・・・どうか考え直してくだされ・・・!!」
「くどいぞ爺!」

国王は紫ローブをしかりつける

「しかし陛・・・・!?」

尚も何か言いたげだった紫ローブは突如後ろから現れた白い影に驚き後ずさる

「この方はまさか・・・!?」

目の前に現れた白髪の少女の不気味な赤い服に愕然とする紫ローブ
国王はその様子に満足したかのように頷くと眼下の兵に向けて声を張り上げる

「皆の者!今日この日!この国の存亡をかけた大事な日である!」

今日何故ここに集められたのかさえ知らされていない兵達は国王の言葉にざわつくが、国王が手を挙げると辺りが静寂につつまれる

場が静かになったのを見計らって今度は赤い服の少女が兵達の前に躍り出る

何が起こるのかと喉を鳴らすグラフ兵に
少女はニヤリと笑みを浮かべると肩に担いでいた白い袋に手をつっこみ兵達に向けて振りまく

振りまかれた物は七色の光を浮かべながら雪のように万を超える兵達の手元に落ちていき・・・
様々な物に形を変える

あまりに意味不明な出来事に困惑する兵達に向けて国王が再び声を張り上げる

「皆の者!鬨の声を挙げろ!!!」

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どうも皆さんこんにちは、アズです
世間は恋人達が愛をささやくクリスマス
そんな事とは関係無く
俺は今日も今日とていつものようにBGOにログインしています

そう・・・いつものようにログインした俺は
いつものように白い部屋のロード画面を挟み
いつものように前回ログアウトしたフィールドに出現して
いつもと違う寒さに体を震わせていた

「さむ!?は!?さむ!?」

さっきまで最高に暖房を決めた部屋にいた俺にこの温度差はヤバイ!
急ぎアイテムストレージから水色のダッフンコートを装着する

「ふぅ・・・あったかいなりぃ・・・」

ひとまずの温かさを手に入れた俺はホッと息を吐く

「しかし・・・」

俺は木漏れ日荘を再度視界に収めると・・・
一面の白さに目を丸くする

「そうか・・・12月だもんな・・・」

グラフ王国はBGOの中でも唯一季節というものが存在する

「こんなに寒くなるなら冬の間だけ夏の国にでも行けばよかったかなぁ・・・」

溜息を吐く俺の目の前では何やらお知らせの文字がピコピコ輝いている
どうやらメッセージボックスに運営からメールが届いているようだ
タイトルにはクリスマスイベントの文字

「なになに・・・」

『本日クリスマスイベント開催!!』
『〇〇の皆さんおはようございます!運営のフィーです!
今日も今日とて〇〇な顔で〇〇してる〇〇に朗報です!
本日地球ではクリスマスという事で私からとびっきりのプレゼントがあります!』

自主規制で文字欠けしている文章を読みながら顔を顰める

「あれ?クリスマスにはイベントの予定は無かった筈だが・・・」
「あずちゃーん!」

メールに添付されたアイテムを受け取っていると軽い衝撃が背中を襲う
顔だけ衝撃の方を向けると青色の髪の少女が満面の笑みを浮かべている

「アクアさんアクアさん?今日はご機嫌だね?」
「うん!今日はくりすまうだからね!」

冬という概念は存在するが本来BGOの世界にはクリスマスなんて存在しない筈だが・・・
ニコニコしているアクアの手には王国から発行されたであろうチラシのような物が握られている

「今日は大事な人と過ごす日なんだって!」

大事な人・・・ねぇ・・・・
恐らくアクアが言う大事な人と王国が発行したチラシの大事な人は意味が違うだろうが・・・
わざわざ目の前の少女の笑顔を崩すような発言をする必要も無いだろう

「そうだな・・・今日は木漏れ日荘の皆でクリスマスパーティーだな!」

そうと決まれば街に買い出しに行かなくてはならない!
俺は意気揚々と添付されたアイテムを取り出し・・・視界に妙な違和感を感じる

「あれ・・・?ステータスバーのUIが文字欠けしてる?」

なんだろう?新手のバグだろうか?
急な出来事に困惑しているとイベントアイテムが自動で起動し始め、いつかのように目の前にホログラムで白い髪の少女が現れる

『よう冒険者の〇〇野郎共!今回〇〇野郎共に渡すプレゼントはずばりログインして初めて接触したプレイヤーと強制的にクリスマスを一緒に過ごす権利だ!』

ピー音と共に嬉しそうに白髪を揺らすフィーがイベント内容を語る
ん?あれ?
強制的とかいう物騒な事を言っているがそれは元々フィーの口調が汚いからだよな?

フィーは俺の心の疑問に答えるかのようにニヤリと笑みを浮かべる

『ちなみにこの最高に〇〇なイベントを実行するにあたって〇〇野郎共のクリスマス期間のログアウト権限を剥奪させてもらったぜ!』
「何やってんの!?」

俺は大急ぎでログアウトがあったであろう場所を実行するが全く動作しない
ログアウト出来なくなるとかどこのデスゲームだよ!!

「あずちゃんどうしたの?・・・くりすまう嫌いなの・・・?」
「・・・いや・・・そんな事ないよ」

運営の暴挙に頭を抱える俺を
心配そうに見ているアクアの頭を撫でる

よくよく考えたら俺と一緒にクリスマスを過ごそうとかいう物好きはいないだろうし
元々クリスマスはBGOで過ごす予定だったのだから問題ないだろう

「よしアクア!俺は今から食材の買い出しに行ってくるから部屋の内装を頼む!」
「合点承知の助!!」

敬礼のようなポーズをこちらに向けてとことこと木漏れ日荘に引っ込むアクアを見送る

「しかし・・・BGOの世界でクリスマス料理を作るのは至難の業だな・・・」
「はぁはぁ・・・その事に関しては・・・はぁはぁ・・・問題ないみないだよ?」

いつの間にかランズロットさんが隣で眼鏡を直している
恐らくグレイ辺りを探しに来たのだろう
というかランズロットさんがグレイ以外の要件で木漏れ日荘に来る事は余程の緊急時以外ありえない気がする

「というと?」
「ふぅ・・・実はクリスマスイベント実装と共に色々と専用アイテムが実装されたみたいでね」

そう言いながらランズロットさんが中空で手を動かすと、七色のエフェクトが地面に落ちていき
数秒もしないうちに芽が出て巨大化していく

「おお!?これはまさか・・・!?」

そう!あのクリスマスで代表的なもみの・・・
あれ?

「ランズロットさん?なんかこのツリー形が反対じゃないかな?」
「ああ・・・この世界の植物を使ってるから形が反対らしくてね・・・冬の大陸にあるみもの木を使っているらしい」

俺は何とも言えない表情を浮かべてみもの木を見上げる

「ところで俺はログインしたばかりでグレイの居場所は知りませんよ?」
「ああ・・・それなら心配いらないよ」

そう言いながら再びランズロットさんが手を中空で動かすと何やらレーダーのような物が現れる

「・・・なんですかそれ?」

俺の質問にランズロットさんが嬉しそうに頷く

「実は今回のクリスマスイベントに隠れて、フレンド以外のプレイヤーの場所を名前で検索できるアップデートが行われてるんだよ・・・」

言われてシステムをいじっていると確かに実装されている
一応自分がログインしているのを隠せるようには設定できるみたいだが・・・

目の前で再び息を荒げるランズロットさん
その目は血走り完全に変質者のそれになっている

あれ?これヤバイシステム実装されてないか?
俺が軽く引いているとランズロットさんが彼にしては珍しく不気味な笑顔を浮かべる

「それじゃあアズさん・・・良い聖夜を・・・!!!」

その言葉を最後に四つん這いになったランズロットさんは獰猛な肉食獣のような動きで木漏れ日荘に向かって走り出す

『!目標確認!青髪の少女だ!!』
『皆の者!目標を迅速に国王陛下のもと』
『邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
『うわ!なんだこいつ!?』
『『『アッーーーーー!!!!!!』』』

けたたましい喧騒を残しながら木漏れ日荘に突入していったランズロットさんを見ながら溜息を吐く

「なんか雲行きが怪しくなってきたな・・・」

俺は木漏れ日荘に児玉する悲鳴を聞きながら商店街に足を運ぶのであった

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