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第八十章 神

ログアウトした俺は病院に急行、姉の病室に向かう

リアルで姉が攫われた
もしこれが冗談だったら俺はドクターを再起不能にせざるを得ないな
半信半疑の俺はそう思いながら姉の病室のドアを開き・・・
姉のベッドがあった場所がえぐられたように空洞になっているのを見て絶句する

「アズ・・・青葉さん!来てくださいましたか!」
「ドクター!?何が起きたんですか!?」

顔色が優れないドクターに詰め寄る

「私にもよくわからない・・・だが・・・」

ドクターから手紙を受け取る

[貴方の大事な人は預かった]
[返してほしければ       ]
[東京スカイツリーに来い  ]

「なん・・・だよ・・・これ・・・」

賢者が言っていた事が本当ならこれは馬場が書いたものなのだろう
青い顔で手紙を読んでいると先に読んだであろうドクターが真面目な顔でこちらを見ている

「青葉さん、私は一般人として、ドクターとして、貴方がそこに行くのは反対です」
「ドクターなら・・・そういうと思ってました」

ドクターは「ですが」と前置きを入れて眼鏡を外すとニヤリと笑顔を向けてくる

「行ってこいアズ!グランのやつをぶっ飛ばしてサトミさんを救いに!」
「!」

ドクターの言葉を聞き、急ぎ病院から飛び出した俺は東京スカイツリーに向け走り出す
 
          ◇
 
東京スカイツリーの上層部に到着した俺は目を疑う

「なぁ!?」

扉の先は床、壁、天井が全て真っ白な部屋に繋がっていた
前回来た時はこんな部屋じゃなかったぞ!?
驚きながらも注意深く周りを見渡す
白い部屋の中に人影を見つけ、杖を構えて睨みつける

「グラン!!ねぇさんを返せ!」

グランはそんな俺を見ながら口元を歪ませる

「おぉ!怖い怖い!そんなに睨まなくてもちゃんとお返ししますよ〜」

そう言って指をパチンと鳴らすと目の前の床に魔法陣が出現
中から姉さんが浮かび上がってくる
俺は姉さんを抱きしめながら後ろに下がる

「こいつ・・・!現実で魔法を!?」

病院での惨状を見た時点でもしやとはおもっていたが・・・!
もし彼がゲームと同様の強さであればこの状況は非常にマズイ
嫌な予想に冷や汗を流してグランを睨む

「いやだなぁ〜貴方自身には何もしませんよ〜?それよりいるんでしょう?」

そう言いながら俺の後方を睨む馬場
いつの間に立っていたのかそこにはどこかで見た少女が立っていた
る・・・ルピー?
いや違う、似てはいるが別人だ

「気づいておったか」
「当たり前でしょう?私と貴方の仲ではないですか〜」

仲という言葉に少女から距離を取る

「心配はいらんぞい?私はお主の仲間じゃよ」
「その喋り方・・・もしかして賢者さん・・・?」

賢者はうんうん首を縦に振るとグランを睨む

「それで?私にも用があるんじゃろう?」

グランは満足そうに頷くと天井を見上げて語り出す

「えぇ、えぇ、妻を生き返らせ貴方を超えようとしたのですが・・・しかし思いのほか時間がかかりましてね〜」

グランはまいったまいったと手を振るう

「そこで!もっと簡単に貴方を追い抜く方法を思いついたんですよ〜」

そう言いながらグランが呪文を唱え出す

「!?其奴を捕らえよ!」

賢者の言葉にこれまたいつのまにかグランの背後に忍び寄っていたふるやんと馬鹿兄が同時にグランに襲いかかる

グランは避けもせずに二人の攻撃を受けて地面に大の字に倒れる
その様子を見て俺は呟く

「やったか!?」
「いや・・・間に合わんかったようじゃな」

グランは全身から靄を出し、人形のように不気味な立ち上がり方をする
そんなグランが三日月の様に口角をつり上げる

「さぁ!ひれ伏せ人間ども!神の降臨だ!」

グランから溢れでる靄がどんどん上空に広がっていく

「賢者さん!何が起きているんだ!?」

賢者は無言のまま水晶体を取り出す
そこにはいつもの外の風景が広がっている

上空を除いて

「これが・・・神だというのか?」

無数の黄色い目で覆われている空中を見て絶句する

「アハハハハハハハ!成功です!私は貴方でもなしえなかった偉業を!」
「このバカたれが!」

狂気に彩られた笑い声をあげる馬場を賢者が殴り飛ばす

「賢者さん!あれが本当に神なんですか!?」

尚も笑い声をあげる馬場を睨む賢者に俺が詰め寄る

「・・・その通りじゃ・・・そして・・・最悪の展開じゃ」

唐突に耳鳴りを覚え頭に言葉がよぎる

「世界?失敗?なんだこれ?」
「神々はこの世界を失敗作と判断したようじゃな・・・」

賢者が何もかも諦めたかのような表情でこちらを見ている

「これも私の宿命か・・・」
「何一人で納得してるんですか!わけがわからないよ!」

俺の叫びと同時に上空の神?が目を見開く
ざわついていた周りの人間が悲鳴をあげる
周りの悲鳴が伝染するように俺も半狂乱になりつつある

「神はこの世界を滅ぼすようじゃぞ」

は・・・?滅ぼす?何言ってるんだ?

「止めるすべはない・・・いや・・・」

何か言おうとして賢者がいいとどまる

「何か・・・あるんですね?」
「・・・」

賢者はしばらく黙り込むと首を縦に振る

「その方法を教えてください」
「これは・・・一種の呪いじゃぞ?」

賢者は俺の顔を見て諦めたようだ

「わかった・・・今からお主とお主の過去を入れ替える」

過去を入れ替える?

「それって昔の俺をここに連れてくるって事ですか・・・?俺にそんな記憶ありませんが・・・」
「連れてくるのはゲームで作られたお主、すぐに死に戻り部屋に送るからここでの記憶は無いのじゃよ」

賢者は苦笑しながら「まぁ向こうのお主はしばらくログイン出来んじゃろうが」と呟くと呪文を唱え始める

「良いか?すでに起きた事象は変化しない、お主は新たな事象を作り・・・」

賢者は上空の神を睨む

「人類は失敗ではないと主張する神・・・冥府の神ハーデウスに力を借りるのじゃ!」

賢者が呪文を唱えると目の前に鏡が作られていく
どこかで見た事のあるような鏡
その鏡の向こうでは黒髪の俺がこちらを見ている

「あれ?なんで黒髪?というか俺の部屋・・・?」

俺は無意識に鏡に手を触れ・・・手が鏡の中に入っていく感覚に驚く

「何か掴むものは!?」

体勢を崩した俺は鏡の中の俺の腕を掴み入れ替わるようにこちら側に引っ張る

部屋の床にダイブした俺は起き上り周りの状況を確認する

「俺の部屋・・・だよな・・・?」

現実世界と全く変わらない俺の部屋
だが確実に現実と違う・・・見慣れた半透明のウィンドウが表示されている

<ゲームを始めますかYES/NO>

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