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第七十五章 死者の王と悪魔の王

見慣れた病室
横たわる人物の頭を優しく撫でる

「じゃあ姉さん・・・行ってくる」

日課となった病院での挨拶を行う

グラン王子との戦いの末、BGOで姉を取り戻す事に成功した俺達
だがリアルで姉が目を覚ます事はなかったのだ
ただ一つ変わった事といえば・・・

俺はスマホを取り出して姉にLINEを送る

[学校行ってくる]

しばらくして既読がつくと返信が返ってくる

[いってらっしゃーい!]

その短い文字に姉の温かみを感じながら頬をゆるます

「今日も一日が始まる・・・」
     
       ◇

珍しく誰もいない木漏れ日荘のホールで一人ぼーっとするアズ
今日は木漏れ日荘の食堂を開いているのだが人っ子一人来ない

そう・・・従業員含めて全員

「なんで誰も来ないんだ・・・?」

今からでも閉店して街に繰り出そうか?
攻略中の大迷宮九十九に行くのもありだな・・・
溜息を吐きながら椅子でくつろいでいると不意に背筋に寒気が走る
気温が急に低下して入口の扉がガタガタと揺れる
ゴクリと喉を鳴らし杖を構えると、か細い声で扉に話しかける

「誰・・・ですか?」

扉の揺れがおさまる
気のせい・・・か・・・?
そう思い安堵した瞬間ドアが勢いよく開き椅子からずっこける

「のわぁぁぁぁ!?なんだ!?なんだ!?」

椅子の後ろに隠れながら入口の扉を見ると二人の人影がうつる

「わははははは!悪戯大成功!」
「ハハ!やり過ぎだヨ!」

豪快に笑い声をあげる長身細見、白い肌に白い牙、黒いマントを羽織った男
黒マントの隣で笑う小柄な白い肌に手術痕のような痕が残るゴスロリ服の少女
BGOに来て初めて見る異様な風貌にドギマギしながら話しかける

「えっと?お客さん・・・ですよね・・・?二名様で?」

俺の言葉を聞いた二人が笑うのをやめて近づいてくる
なんだなんだ?

「どうだリッチー?この者は使えそうか?」
「えっとね!うんとね!」

リッチーと呼ばれた少女がくりくりした目を見開きながらこちらを見る
いや・・・こちらを見ているが瞳はこちらを見ていない
なんとも言えない恐怖にかられ一歩後ずさる
追いかけるように少女も一歩前に歩みでて・・・限界まで開いていた目から眼球が地面に落ちる

「あ!」
「え?」

え?
一瞬の思考停止
少女は「てへ☆」と言いながら片手で軽く自分の頭を小突いて自分の眼球に手を伸ばす

「まだわからぬのか!?リッチー!?」

黒マントが俺達の間に割り込んでくる

プチ!

「あ」
「ん?」
「え?」

黒マントの靴の下には小さい血だまりが出来ている
それを確認した少女は自分の顔を覆う

「目がー!目がー!」
「す!すまん!リッチー!悪気はないのだ!」

あたふたする黒マント
俺は狂気にも似た光景に恐怖で動くことも出来ない
二人はそんな俺をじっと見つめると、ニヤリと笑う

「「悪戯大成功!」」
「よし表出ろ」

怒りが恐怖を乗り越えた俺はこめかみを押さえて杖に力を込める

「待て待て!これは我々にとっての挨拶のようなものだ!」
「そそそそうだヨ!からかってるわけじゃないヨ!」

慌てて弁明する二人に毒気を抜かれドサッと椅子に座る

「で?何の用?」
「申し遅れた!我が名はヴァンプ!偉大なるバンパイアにして悪魔種の王だ!」
「ボクの名前はリッチー!死霊種の王様サ!」

とんでもない大物が来てしまった
だが俺は最初のインパクトのせいでもはやこの二人に敬意や恐れを抱く事はなかった

「で?」
「う、うむなかなか図太い神経だな!実は最近この辺りで大量に人が死んだようでな!」

ん?それってこの前のプチ戦争の事か?

「それでボク達の国に亡者が溢れかえってしまって領地に収まりきらないんだヨ」
「・・・それで何故人間の国に?」
「ウン・・・正直こんなに亡者がいても困るからラ」
「亡者共をこの街に帰還させたいのだよ!」

なるほどなるほど・・・
しかしこの前までこの街に住んでいた住人だとしても亡者は街にいれるわけにはいかないのではないだろうか?

「亡者って・・・ゾンビとかそんなやつですよね?流石に俺の判断だけじゃあ厳しいかな」
「むむ?ああ!人間は生人死人に敏感であったな!」
「じゃあじゃあその人間達を生き返らせよう!」

は?生き返らせる?

「そんな事出来るんですか!?」

リッチーはきょとんとした顔でこちらを見る

「まぁボクは死者の王だしネ」

死者の王マジパネェ!

「そこで死者の国からこの街への道案内が必要になってな!」

ヴァンプが人差し指をこちらに向ける

「わはははは!合格だ!君に死者の国と生者の国の案内係になってもらおう!」

ええええええええ!?

「そうと決まればすぐいくぞ!よしいくぞ!」
「はいはーイ!それじゃあこの魔法陣に乗って・・・はイ目を開けテ!」

リッチーとヴァンプの勢いに飲まれ、魔法陣に乗った俺が目を開けると、目の前に広がる大森林

マップを開くとグラフ樹海の文字
今の一瞬で・・・ワープとかテレポートとかそんな感じか?
まぁゲームだしそれは良いか、しかし・・・

俺は頭にハテナを浮かべる

「あれ?亡者の国に行くんじゃ?この森の先は黄国でしょ?」
「それは正規のルートを通った場合だネ!」
「この森には隠しルートが存在するのだよ」

なんの迷いもなく樹海に入っていくリッチーとヴァンプ
しばらく歩くとリッチーが木についているマークに興味を抱く

「あれれ?ヴァンプ?変なマークか至る所についてるヨ?」
「本当だな、これでは折角の美しい森が台無しだ!」

そう言ってリッチーが指差す方には冒険者達が道に迷わないようにマーキングした木

「あぁ、それは冒険者が道に迷わないように目印にしてるんだよ」

俺の説明に二人は納得したように手を叩く

「なるほど!人間は変な所に頭を使うな!」
「でもでもこれは困った!じゃあこうしとこう!」

リッチーが指を鳴らすと目印がついた木が一人でに動き出す
またまた指を鳴らすと他の木も動き出す

「リッチーさんリッチーさん?何してるんだい?」
「こうしておけば生者が道に迷って亡者が増えいだい!」

無い胸を張るリッチーに無言でビンタする
何やってくれてんの!?

「あれれ?おかしいな?何でだろうヴァンプ?」
「リッチー!アズが怒るのは当たり前だ!」

ん?珍しくヴァンプが俺の援護に?
 
「今から亡者達を減らしに行くのに増やしてどうする!」
「ああ!なるほど!」

ドヤ顔のヴァンプと納得顔のリッチーに頭を抱える
ちがう!そうじゃない!

ややゲンナリしながら二人についていくと昔フォレストゾンビと戦ったフィールドに出る
相変わらず周囲には死体が散乱している

そして・・・

「やっぱりいるな・・・」

死体の中にHPゲージを発見する

「リッチー、ヴァンプ、フォレストゾンビがいるみたいだ」
「いるねいるね当然サ!彼等は亡者の国への案内人だからね!」

は?
リッチーの発言に耳を疑う

「・・・前回俺達が来た時は案内所か襲われたんだけど?」
「そりゃそうサ!死ぬのが一番はやい近道だいだい!」

俺は無言でリッチーにビンタをいれる
というかもしかして俺殺される?

「おや?顔色が悪いぞ?心配しなくてもリッチーがいるからフォレストゾンビは襲って来ないぞ?」

いや・・・なんかもういいや・・・
ムクリと起き上がり敬礼する死体達を感情の無い目で見ながら二人の後を追う

「なんか・・・ヴァンプはわかるけどリッチーって死人の割に明るいよな・・・」

リッチーは俺の発言にキョトンとすると笑い出す

「死人が暗いなんて迷信だヨ!幽霊が喋らないだけ!基本は脳まで腐ってるから明るいよ!」

それは誇る事なのか?
大爆笑するリッチーにヴァンプが険しい顔で話しかける

「それよりリッチー?気づいているか?」
「もちろんサ!ボクが気づかないわけがないだろう?」

そう言いながら茂みを睨む二人
なんだ?何かいるのか?

いつの間にか霧が濃くなっていてよく見えないが、何かいるのは間違いない
周りに注意を払いながら茂みを見ていると
ガサガサと音がなり巨大な影が飛び出してくる

「なんだ!?なんだ!?」

全身真っ黒、成人男性の二倍はある巨体が現れる
この樹海にこんなモンスター出ないはずだぞ!?

「これは驚いた!シャドウデーモンではないか!」
「どうするんだいヴァンプ!?」

驚く俺とリッチーに指を振りながらヴァンプが得意げに前に歩みでる

「わっはっはっはっは!我は悪魔種の王だぞ?シャドウデーモンなど我のギャァァァァァ!」

ドヤ顔をかましていたヴァンプの上半身と下半身がサヨナラする

「ヴァンプーーー!!!このぉぉぉぉぉ!」

リッチーが呪文の暗唱を始め・・・シャドウデーモンに真っ二つにされる

「りっリッチー!!!」

そんな!?悪魔種と死霊種の王がこうも簡単に!?
シャドウデーモンが音もなく俺の前で手を振り上げる
俺は目を瞑り・・・

いつまでたっても来ない衝撃に目を開ける

「「「悪戯大成功!!!」」」
「お前らいい加減にしろよ!」

ニヤニヤしながら笑みを浮かべる三体を杖で殴る

「まぁまぁ!落ち着きたまえ!そろそろ亡者の国への入り口が見えてくるぞ?」

溜息をつきながら視線を前に向ける
今なら霧が晴れて遠目でもわかる

まるでゴーストタウンのような景観、街中には不気味な人魂が揺らめき街を歩く死体を不気味に照らしている
そして一番目を惹く物が一つ

最奥にはとてつもなく巨大な門がそびえ立っており、その上下左右には魔法陣が描かれている
リッチーが扉を指差すとおどろおどろしい声で説明をいれる

「あれが生者と亡者の世界を分かつ扉、あの先に生者は決して入らない、入れば君は亡者の仲間いり」

どうせまたからかう気たろう?リッチーのおどろおどろしい声に軽く睨みをいれ・・・
真面目な顔のリッチーに喉を鳴らす
リッチーは幽霊のように手をヒラヒラさせて舌を出すと、先程までの真面目な顔が嘘のように弾けんばかりの笑顔を浮かべる

「ようこそ!生者と亡者の境の街!ネクロニアへ!」


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