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第六十五章 流れる時と災いの兆し

秋の風がカーテンを揺らす病室
横たわる患者の頭を撫でる青い髪の人物が一人
足の届かない椅子に座り優しい笑みを浮かべる

「じゃあ姉さん、行ってくるね」

眠り続ける姉に日課の挨拶をすると
自分の身長の半分くらいあるカバンを背負い病室を出る

ある日を境に原因不明の深い眠りについた姉
ドクターはお手上げ、兄と友人のふるやんは何か思い当たる節があるらしく
現在は家にも帰らずどこかに行ってしまっている
たまに来るLINEには[心配するな]という文字だけ

そんな一時は小さくなり、別人と疑われていた俺は
ドクターの診断、役所での手続き、学力テストを終え
青葉大和本人であると学校に認められ無事に学校生活を送っている
姉がこんな状態でも・・・今日もこれから学校に行かなくてはならない

病室に入ってきたナースに姉の事を任せて病室から出る
そのまま学校に向かう俺は、病院から出てすぐの並木道で見知った顔を見つける

「おーい!天正!奇遇だなぁ!」
「ん?大和か」

つまらなそうな顔をした天正にタックルをするが軽くかわされる

「流石天正・・・何でもできるな」
「なんでもはできないぞ、出来る事だけだ」

こんな事言っているが本当に昔から何をやらせても100点満点の男だ
しかし今日はそんな天正の顔に陰りが見える

「どうしたんだ?暗い顔して?」
「ああ・・・最近僕のいとこが家に来てるんだけど・・・」

天正が顔を険しくする

「チャンバラをしていた所を通りすがりの女性に「君・・・才能あるわね・・・」とか言われて試合を申し込まれたらしいんだ」
「へぇ・・・物騒な話だな」

チャンバラ遊びなんて天正のいとこは随分とやんちゃな男の子のようだな

「警察には届け出を出したのか?」
「いや・・・怪我自体は無かったし・・・帰って早々「お腹がすきました」だったから言ってないんだ」

まるでうちのハングリー娘だな
しかし通りすがりに試合の申し込みなんて・・・あれ?

「なぁ香月さん?」

俺は適当に誰もいない空間に声をかける

「どうしたの?青葉?」

いつの間にか隣を歩いている香月さん
最初は驚いたがこの現象にももう慣れたものだ
それに今話題にすべきはそこではない

「もしかして最近リアルで誰かに試合申し込んだりした?」

香月さんは小首を傾げる

「試合なんて申し込んだりしない・・・」

だよねー!流石に香月さんと言えどそんな辻斬りみたいな・・・

「決闘は申し込んだけど」

お巡りさんこいつです!!!
    
                        ◇

新緑の光降り注ぐ木漏れ日荘の厨房にて心地よい包丁の音が鳴り響く
どうもアズです
現在俺は正式に俺の兵隊になったオクトリア兵に料理を教えている

『寮長!出来ました!』

一人の従業員が料理を持ってくる
今までは俺の作る料理の下準備を任せていたのだが、そろそろ一品作らせても良い頃合いと判断したのだ

今回皆に作ってもらっているのはブルーラットの肉を使った簡易的なシチューだ
手順は普通のシチューと同じなので失敗のしようがないのだが・・・

「見た目は・・・まぁまぁか・・・」

従業員の持ってきた茶色いシチューを匙で掬う
匂いも・・・悪くないな・・・

「それじゃ・・・いただきます」

パクリとシチューを口の中にいれる
口の中に独特の野生動物の味が広がる
噛めば噛むほどに苦くなっていく肉
喉を通るシチューはドロッとしてまるでスライムを連想させる
まるで大量のモンスターに襲われたかのような錯覚を起こし視界が暗転する



「こ・・・ここは!?」

気づけば綺麗なお花畑に立っていた
すぐそばには綺麗な川が流れて対岸では今は亡き爺さんと婆さんが手を振っている

「そうか・・・俺は死んだのか・・・」

無意識に川を渡ろうとした所を誰かの手が後ろに引っ張る
懐かしい・・・最近見なくなった誰かの笑顔・・・



目を見開き体を起こす
周りでは従業員が涙を流しながら俺を抱えている

『りょ・・・寮長!?』
『我らが子供船長が目を覚ましたぞー!』
『『『うおおおおおお!』』』

俺は地面に降りると目の前で縮こまる従業員を見る
無言で剣を差し出す従業員の手を止めて目を見る

「まず一つ」

従業員はゴクリと喉を鳴らす

「凄く不味い」

コクコクと首を縦に振るう従業員
正直下準備が出来るのに、ここまで料理が出来ないとは思っていなかった

「けど・・・何か懐かしい物を見た気がする・・・だから許す」

従業員は涙を流しながら抱きついてくる

『寮長ーーーーー=!!!!』
「うわ!きたねぇ!まず顔を洗え!?」

涙や鼻水を割烹着につけられて思わず殴り飛ばす
アフン!?という声と共に白目をむいて床に崩れ落ちる従業員
やっべ・・・やっちまったか?
そんな状況で空気を全く読まない他の従業員が本を差し出してくる

『寮長!僭越ながら!我らはこの本の指導方法を希望します!』

なになに?新平訓練マニュアル?

『これはとあるアレク嬢の顧客から頂いた物でありまして!』

ふむふむ・・・どうやら新兵を鍛えるいろはがのっているらしい
まずは言葉遣いからか・・・

「この自主規制野郎が・・・お前等は自主規制だ・・・いいか?お前らは自主規制だ!」

口に出して音読する
どこかで聞いたことのあるな・・・どういう意味だったっけな・・・
思い出そうと頭を捻っていると白目をむいていた従業員が起き上る

『貴様ぁぁぁぁぁ!寮長になんてものを渡すんだぁぁぁぁぁぁ!』
『何を言う・・・・!これはれっきとした新平訓練のマニュアルで・・・!』
『寮長は我らが天使!そのようなお方にそのような穢れた言葉を・・・!』

何故か取っ組み合いを始める従業員達
置いてきぼりの俺がただ一つ言える事がある

「お前等ちょっと気持ち悪いから厨房から出てってくれ」
「「「サーイエッサー!!!」」」

何故か厨房にいた全員が出て行ってしまった

「・・・今日も一日一人で乗り切るか・・・」

今日も一日平和な・・・にぎやかになった木漏れ日荘の一日が過ぎていく

          ◇

病室の一室
眼鏡をかけた医師がゴクリと喉を鳴らす

「まさか・・・そんな馬鹿な・・・」

彼の持つスマホには一つのスクリーンショットが映し出されている
彼はスクリーンショットとベッドに横たわる人物を見比べる
つけっぱなしにしてあるテレビのCMでは金髪のイケメンがドラゴンと対峙している

「私のほうで・・・少しさぐりをいれてみますか・・・」

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