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第五十四章 木漏れ日荘の新たな住人

久しぶりの我が家からこんにちはアズです
ドラゴン討伐の時よろしく
現在クラーケン戦で得た触手を持ち込んだ冒険者達で食堂はごった返しています
筆頭は我らがルピーさん、料理が運ばれてくる時間ももったいないと調理室の机を占拠しています
そんな彼女は今日も至福の表情でクラーケンの串焼きを頬張っています

            ◇

「急げ!3番テーブルに新手のお客様だ!」
『『『アイアイサー!』』』

厨房で新手の調理を始めた俺にグレイが変な目を向けてくる

「なんでオクトリアの兵隊がここで働いてんの・・・?」
「ん?なんかここで働かせて欲しいって言われてさ」

クラーケンとの戦後の処理が終わった俺は木漏れ日荘に帰宅
アレクの護衛で来たオクトリア兵に直属の部下にしてくれと頼まれたのだ
今回の志願者はなんと海賊討伐の時の兵隊まるまる30人
オクトリアの兵隊とのダブルワークを希望している

「本格的にこっちに移籍したいらしいからNPC達でレギオンを設立させるのもありかもしれないな・・・」

俺の台詞にグレイが胡散臭そうな目で見つめてくる
視線に耐えれなくなった俺は咳払いを一つ
グレイの眼差しから逃げるように調理を再開する

そんなグレイはクラーケン戦のRを数えている
今回のクラーケン戦に参加した者は全員1000Rが報酬で支払われているのだ
普段手にしない大金を手に入れたグレイ含め冒険者達は総じてそわそわしているのだ
勿論俺にも報酬は支払われているが俺にとっての一番の報酬は新住人兼従業員のアレクなのだ

クラーケンを炭火で焼いているアレクを温かい目で見つめる

「弱みに付け込み従業員として働かせる所流石ですわー」
「うちは慈善事業じゃないからな!」

グレイに向けて杖を叩き込もうとして回避される

「おっと!良いのかなー?今回の戦いの立役者にそんな事しちゃってー?」

そう、悔しいが今回のクラーケン戦
MVPとしてグレイが抜擢されたのだ

「あーあー僕傷ついちゃったなー」
「ったく!開き直ったクズ程めんどくさいやつはないな!」
「おいおい!いくら冗談でもそんな事言われると傷ついちゃうなー・・・冗談だよね?なんで黙り込むの?」

おっと心の声が出てしまったようだ
グレイが喚きだしたがまぁいつもの事か
喚くクズの相手もほどほどに調理の手伝いをしていたアレクを見る

「な・・・なんだアズ・・・さん?」
「今まで通りアズで良いよ・・・しかし問題は服だよなー」

商品として売り飛ばされそうになったアレクの服はお世辞にも良い服ではない
今からでも買いに行きたいが絶賛営業中の食堂を留守にすることはできない

どうしたものか考えていると
ルピーと食事をしていた姉がワクワクした顔で手元を操作している

「そんなこともあろうかと!じゃじゃーん!」

姉が可愛いフリル付きの服を見せつけるように取り出す
あまりの可愛い服にアレクが真っ青になるほどだ

「どうしたのそれ?」
「アリスさんに教わって自分で作ったんだよー!えっへん!」

裁縫スキルか何かだろうか?まるで店に並ぶ商品のようなできに舌を巻く
俺のそんな反応に姉が得意げに胸を張るとアレクに向かって歩み寄る

「ま・・・!待ってくれ!僕はこういう服は着ないんだ!」
「まぁまぁーアレクちゃんなら絶対似合うってー」

恐怖で震えるアレクが姉に連れていかれる
どうやら姉のおもちゃが増えたようだ
帰って来た頃には
暗い顔でうずくまるかわいらしいウェイトレスを抱きしめる姉の構図が出来ていた

しかし・・・
うずくまっているアレクを見る

「似合ってる似合ってるなぁグレイ?」
「ん?可愛いんじゃないか?」

適当な返事をするグレイだが
平常心ではないアレクは可愛いという言葉に赤くなり更に身を縮こまらせる
姉にしては良い仕事をしたのではないか?これでアレクを接客に回せる

正直屈強な兵士達が沢山きた今
調理スタッフよりも接客スタッフのほうが欲しかった所だ
姉に親指を立てるともう一着可愛いフリル服が取り出される

「もう!心配しなくてもちゃんとひろの分も用意してるよー!」
「よし!その喧嘩買った!表出ろ!」

姉の腹にブローを決めて鎮めると
尚もいじけているアレクに向き合う

「これで衣装はバッチリだ!じゃあアレク!接客を頼む!」
「ままま待ってくれ!僕は接客をしたことがないぞ!?」
「そうだなーアレクなら適当にしてたらできると思うぞ?」
「!?」

まるでこの世の終わりかのような表情をアレクが浮かべる

「まったく!これだからアズはわかってない!」

動けなくなっているアレクの肩をグレイが叩くと俺のほうを見る
な・・・なんだ・・・!?俺が間違っているのか?
グレイのあまりの自身に俺が間違っているような錯覚に陥る

「ここは俺に任せな!」

自身満々のグレイがアレクに向き直る

「まずは・・・お帰りなさいませごじゅ!?」
「言わせねえよ」

台詞の途中でグレイの顎を打ち抜き冷たい目で見下ろす

「うちの子に変な事吹き込もうとしたらただじゃおかないぞ?」
「ごめんなさい調子に乗ってました」

地面に頭をこすりつけながらグレイが土下座する
グレイが物理攻撃で震えあがるなんて珍しいな

さて・・・ゴミクズはほっとくとして・・・

「とにかく何も言わなくて良いからこれお客さんに出してきてくれ」
「わ・・・わかった!」

接客をしなくても良いという遠回りの言葉を理解したアレクは
まるで戦場に行くかのような表情を浮かべてホールのドアを勢いよく開ける

勢いよくドアが開いた事により客の視線を一斉に浴びているがな!

「あ・・・えっと・・・」

緊張と羞恥で一歩も動けないアレクの尻を酔っ払い客が笑いながら触る

「おう姉ちゃん!良い尻しべし!?」

アレクが注文の品を客の顔に押し付け冷たい目で見下ろす

「注文はこれで良かったな?コツがつかめた、アズ次の品を貸してくれ」

どうやら初教育は失敗に終わったようだな・・・


この日木漏れ日荘に新たな客層が増えたのだった

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