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第四十二章 夢の終わりと新学期

何か怖い物に追われていた夢を見た

「あれ・・・なんでベッドで寝てるんだろう」

 目を擦りながら体を起こす
全身びしょ濡れで・・・最近多いな
 それにしても夢の中で怖い物に追われて・・・金髪っぽい女の子に・・・ルピー?
あのハングリー娘は夢にまで飯をせびりにきたか・・・

 ごちゃごちゃになった夢に頭抱えながらスマホを確認すると朝の6時を過ぎている

「ついに学校の日か・・・」

パソコンのディスプレイで自分の姿を確認する

「体は戻ってないか・・・」

 現実逃避気味にスマホでBGOの公式サイトを確認すると
 ログイン可能になっている
同時にイベントの概要が目に入る

「さてさて俺を倒した不届きものは~」

ニヤニヤしながら読み進めていくが

<炎の精霊使い 討伐者 不明>

 討伐者不明・・・?
イベントアイテムの強奪対策か?
それともNPCである俺を倒した事で俺が逆恨みするとでも・・・ないとは言えないが
 もしグレイあたりが討伐者だったら簀巻きにして高レベルモンスターの巣に捨てている事だろう

 ぐーっという音と共に思考が現実に戻って来る
 お腹すいた・・・まるで一日中何も食べないでマラソンでもしてた気分だ

「なんにせよ朝ごはんの準備か・・・」

 朝食を作るべく鼻歌を歌いながら
床に寝そべって朝のニュースを見ている姉を踏み超える

「ちょっとひろー!なんでわざわざ踏んでいくの!?」

 台所には姉が買ってきたであろう子供用エプロンが置かれている
本日何度目かの溜息をつきながらエプロンをガスコンロから漂う炎の精霊で燃やそうとする

 チリッという音と共に炎の柱が立ち上がりエプロンは消し炭になった
 あれ・・・?なんか炎の威力上がってない?
ぼーぜんとしているところをのんきな姉の声で現実に引き戻される

「ひろー?なんか焦げ臭くないー?」
 「あー大丈夫・・・なんかコンロの調子が悪くって」

 何事もなかったかのように食卓に朝食を並べると
姉が向かいの席でニコニコしながら手を合わせる

「「いただきます」」

 軽いトーストとベーコンにスクランブルエッグ
 ありきたりな朝食を食べて学校に行く準備をするが・・・

「着ていく服がないぞ・・・?」

 学校に行くにあたってあらゆる問題点を先延ばしにしすぎていた

一番の問題は体が小さいということなのだが・・・
 うちの学校に指定の制服はないがなんでも良いわけではない

俺の服は小さい頃に捨てている
兄の服は厨二真っ盛り
姉の服は可愛いひらひら
頭を抱えながら叫ぶ

「くそ!どうしてこうなった!」

ちなみに学校に行かないという選択肢は無い
 どんな状態であれずる休みはしないのがポリシーだ
先生にも説明すればきっと理解してくれる・・・事が無い気もしないでもない
打開策を見つけるべく頭をフルスロットルで回転させているとLINEが飛んでくる

『起きとるー?家の前おるから準備できたら一緒にいかん?』
 『起きてるけどちょっと問題が起きた』

ふるやんのLINEを適当に返す
 あ・・・そうだ

『ふるやん子供服持ってる?』
 『突然なんや・・・わいに幼児趣味はないよ?』
 『え?ないっけ?』

 最近あいつの周りに幼女予備軍が集中しているので疑っていた

 じゃなくてふるやんの子供の頃の服』
 『・・・あるけど』
 『よしきた!ちょっと貸してくれ!』
 『普通に嫌やけど・・・頭大丈夫なん?』
 『頭は大丈夫だが体が問題なんだ!百聞は一見に如かず!』

 LINEを打ちながら玄関まで来ていた俺はドアを勢いよく開けて両目を見開いているふるやんに一言

 「服を貸してください!」
 「え?はぁ!?アズ!?」
 「そうだアズもとい青葉大和だ!訳あってゲーム内の姿になってしまって着ていく服がないんだ!」

おーふるやんのこんな顔初めて見る
姉が全く動じなかったからいけると思ったんだがなぁ

「と・・・とにかくまってくれへん?今の大和の状況じゃあ学校どころじゃ無いから!」
 「ズル休みはいけないんだぜ!」
 「なんやねんそのキャラ!これはもうズル休みのレベルやないって!」

 尚も食い下がるふるやんの懐にダイブ
 ふるやんのアパートの鍵を奪い取ると一目散に走り出す
長い付き合いだ、どこに何がしまってあるかなんてわかっている

「ちょ!ま!てかはやない!?」

 遥か後方のふるやんの絶叫を背中に、目指すはふるやんルームだ

「やつめ・・・多趣味だとは思っていたがこっちもいけるのか」

 突撃隣の晩御飯よろしく現在ふるやん(フーキ)のアパート
ふるやんが困惑していたとはいえ低AGIでも軽々距離を広げれるゲーム内速度は流石だ
目的の物を強奪した後ふるやんが追いつくまで部屋を物色しているアズはお宝本を見ながら顔を顰める

「まぁ最近ネット内でしか会ってなかったからな・・・」

 木造30年の古い格安物件
部屋ではウィンドクーラーがガタガタ鳴っている
 ゲーム以外の物は殆どなく、布団とテーブルにテレビしかない部屋を見ながらため息をつく

「夏場にこの環境でよくBGOできたな・・・」

ウィンドクーラーは光熱費が馬鹿でかいらしく長時間つけれないと言っていた記憶がある
悲しい一人暮らしの惨状
 今度弁当でもおすそ分けにきてやろう
食べた後の弁当箱が床に散らばり
 テーブルの上にはカードが散らばっている
一人でカードゲームをしていたのがひしひし伝わってくるが弁当は床で食べてないだろうな・・・?

 「たまにはリアルでも構ってやるか・・・ん?」

カードの中に写真が混ざっている事に気がつく
 プラチナブロンドの髪の少女を隠し撮りしたような写真だ

「・・・お巡りさんこいつです!」

まさか友人が少しの間に変質者になっているなんて!
 何か見てはいけない物を見てしまった気がする

 ガタッ 

 玄関の物音に気づき急いで写真をカードの中に隠す

「はぁ・・・はぁ・・・・やっと・・・おいついた・・・ってなにやっとるん?」
 「ドロー!モンスターカード!遅かったな!久しぶりにカードを見てちょっとな!」
 「ほんまに?久しぶりにやるのもありやね」

 満面の笑みのふるやん、対人系統ほんと好きだなこいつ
 こっちは冷や汗が止まらないっての

「っていうかもうわいの服着とるんか・・・」
 「ふるやんのぬくもりに包まれてるんだぜ!」

おもいっきり嫌そうな顔をされてしまった
借りたのはどこにでもあるベージュの長ズボンと白のTシャツ
 サイズは少し大きいくらいで長く切っていない髪を後ろでくくっている

「それにしても・・・ほんまにちいさなったんやな・・・」

ふるやんの目が怪しく光る
先程の写真を思い出す

「しまった!ロリコンと二人きり!?」
 「そっち!?」
 「確か昔ショタもロリもいけるとか言ってたような・・・」
 「言ったことはあるが大和にそんな感情無いわ・・・」

ほんとに気持ち悪そうな顔をされた、だが俺は少女の隠し撮り写真を持っているのを知ってるんだぜ?

 「で?ほんまに登校するん?」
 「モチロン!」

これ以上何を言っても無駄と悟ったふるやんは無言で外に出ていく
一人学校に向かうふるやんの顔を覗き込むと難しい顔をしている

昔から頭が固いからな・・・俺の事を心配してくれているのだろう
 そんなロリコン及びショタコンにプレゼントだ
俺はゲーム内で何人もの状態異常者を出した笑顔をつくる

「そんな怖い顔しないで!なんとかなるよ!おにいちゃん!」

かくしてふるやんに侮蔑の視線を送られる事になるのであった


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パトカー周辺
 「こんなところで集団で人が倒れているなんて・・・一体何が!?」
 「先輩!」
 「証言は集まったか?」
 「それが・・・皆一様に天使のような笑顔・・・と」
 「一体何が起きたというのだ・・・!」

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