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第四十一章 炎と現実と非現実

夏も中旬
 少しも涼しくならない気温で更に苛立ちながら呟く

「暇だ・・・」

 自室でネットサーフィンをしている俺
 考えてみればここ最近ずっとBGOをしていたからな・・・
今まで没頭していた物が急になくなると
人間こうも暇を持て余すものなのか

現在BGOでは炎の精霊使い討伐イベントが派生している
討伐目標は炎の魔人に憑依された俺のアバター、アズ
 そのせいか現在俺はログインする事ができずクーラーの効いた部屋でゴロゴロしている
姉は俺のアバターが憑依されてから一度もログアウトしてきていない

「人のアバターを勝手にイベントに使うなよ・・・」

 運営に不満メールを送りながらPCの電源を切る
 どちらにせよ明日から学校、何かと準備が必要だろう

「・・・宿題やってねぇ」

 机の上に宿題をばらまき青ざめる
夏休み少しづつやればすぐ終わる量も最後一日だけとなると途方もない量だ

「今日一日で・・・終わらせれるか・・・?」

こうして夏休みラストミッション、真夏の宿題が開始されるのであった

                                      ◇ 

リーンリーンと虫の演奏が聞こえてくる

「・・・っは!」

 宿題というボスとの戦闘中にどうやら睡眠魔法をかけられたようだ
覚醒した意識の中どれだけボスにダメージを与えれたのかを確認する

「現時刻0時過ぎで3分の2・・・!このペースなら・・・終わる!フフフ!ハーハッハッハ!」

プリントやレポートを見下しながら高笑いをあげる
 しばらくしてくると急に頭が冷める

「・・・少し疲れたな」

 溜息を吐きながらプリントをしまい1Fに降りる
途中太郎兄や姉の部屋をノックしたが返事はない

「姉さんも・・・こんな気持ちだったのかな」

 少し落ち込みながらテレビをつけて冷蔵庫からジュースを取り出す

『先日発見された身元不明の死体が盗難され・・・』
 『目撃者の情報によると死体がひとりでに動き炎を纏って・・・』

 冷蔵庫にジュースをしまいながらテレビから流れてきた情報に失笑する

「なんだよそれ・・・ゲームのやりすぎじゃないか・・・?」

 尚も続く意味不明な証言を鼻で笑ってテレビを消す
黒いモニターの向こうでは青髪金眼の幼い子がこちらを見ている
 その姿を見てありえない予想が頭をよぎる

「まさか・・・な・・・」

 今の俺はボスとの戦闘中だ、不確定な情報で動くわけにはいかない
 けど・・・さっきの場所・・・ここから近かったな

「ちょっとだけなら!」

 誰に言い訳するでもなく呟くと
 コートを羽織り夜の街に繰り出すのであった

足元まであるダボダボコートを羽織り夜の街中を歩く

「・・・?」

 家から出た時から僅かにあった違和感
 街中に近づくにつれその違和感が形を成していく

「今日はやけに人がすくな・・・というかいないな」

 住宅街を抜けた先にも誰もいない

「誰かいませんかー!!」

つい大声で叫んでみたが
声は世闇に溶けていき、虚しさだけが残った
決して怖いわけでも寂しいわけでもないが、人を求めてコンビニを探す

「ここにも誰もいない」

 無人のコンビニに入り人を探すが誰もいない
田舎じゃあるまいし深夜だからといってコンビニに誰もいないってことはないだろう

「裏で雑誌でも読んでるのかなぁ・・・」

 現在深夜1時
 人が少なくなるが決して誰もいなくなる事はない
 コンビニで仕入れたスポーツドリンクを飲みながら(盗んでないよ?)公園で一服する

「変な感じ・・・でも似たような感覚にどっかであった事あるな」

あれは馬鹿兄のデート中だったか?アリスと会った時か?

 「何か思いだしそうな・・・」

ぽつりと呟いたとき視界の端で公衆便所に何か影が入っていくのを見つける
人がいるかもという安心感から疑念を再び記憶の片隅に追いやり後を追う

「もしもーし?」

だがトイレの中には誰もいなかった
 というか汚!公衆トイレってなんでどこも基本汚いんだよ!
 誰かの流してないダークマターを流して外に出る
 さっきの影、まさか今の一瞬でダークマターを生成してどこかにいったのか?

 「いくらなんでも早すぎるだろう!」

 俺の叫びと共に再び影が公園の森林地帯に入るのを視界の端に確認する

「まっくろくろすけでておいでー」

 鼻歌混じりに影を追いかけると開けた場所に出る
周りには何も見当たらない

「おかしいな・・・確かこっちにへぇぇぇ!」

 喋りながら歩いていたら思いっきり足元にあるもので転んだ

「誰だよ・・・こんなとこにゴミ捨てたの・・・」

 俺は転ばせた犯人を睨みながら立ち上がり絶句する
 そこには焦げた骨が人の形を残し捨ててあった
 ゲームと比べるのもなんだが和の国にあった死体とよく似ている

「脇道にそれまくって当初の目的にたどり着いてしまった」

 骨に近づき手を伸ばす

「※※※※※」

どこかで聞いたような、声にならない声が聞こえる
骨の周囲が炎上、たちまち周りをかこっていた木々が炎の形をつくる

「へ?」

 突然の出来事に間抜けな顔を晒していた俺に起き上った骸骨・・・炎の魔人が炎の鎖を体から射出する
尚も困惑している俺は避ける事が出来ずに
目を瞑って炎の熱気と鎖に刺される痛みを待つ
 ボフッという音と共に何かに押し飛ばされる感覚
 思ってたのと違うな?そう思い目を開ける

「・・・ジロー・・・ありがとう」

ジローが俺を背に乗せアルが炎の鎖を打ち落としている

「とにかく・・・逃げろぉぉぉ!」

 逃げ出す俺達に向けて
上空に複数の魔法陣が展開され、炎の鎖が射出される

「あっぶ!あっつい!!」

ジローに顔を埋める形で回避したが余熱が体を襲う
 ぬいぐるみ特有のモフモフ感を抱いたまま舌打ちを一つ

「なんで俺達を追いかけてくるんだ・・・!」

 人気が無い道路をジローにまたがり走る
 この時間この道路に人っ子一人いない異常な光景に追いかけてくる化け物

 「まるで悪夢だな・・・!というか夢なんじゃないか!?」

 飛来してきた炎の鎖をアルがカタールで弾く
 ジローと化け物の速度は良い意味で拮抗している、まるで俺が自力で走るのと同じ速度だ
 というかこれ・・・重量制限なくなったジローを足止めにして俺だけ逃げれば良いんじゃ・・・

必要な事であって決して外道戦法等ではない
 そんな事を考えながら前方を見据えると黒い靄が行く手を阻んでいる事に気づき目を凝らす

「・・・あれは?」

 黒い靄は実体があるかの如くうねると獅子の形を形成していく

「ここにきて新手かよ!」

ジローから飛び降りると重量制限から解放されたジローが俺の速度に合わせて並走してくる

「・・・ジロー!アル!後ろのやつの足止め任せた!」

 一切の疑念無く化け物と対峙する二体を背に前方の獅子を観察する
全身真っ黒な靄で形成され、体は成人男性三人分だろうか?
 相手も油断無くこちらを観察しているようだが・・・

「先手必勝!」

ゲームの中にいるように周りにいる精霊を適当に投げつけると周りの照明が一瞬輝き獅子に襲い掛かる

「ゲームには無い電気とかそんな感じか?・・・しかし」

こちらを敵と判断した獅子は何事もなかったかのようにこちらに襲い掛かってくる
 ・・・選択を間違えたようだ

覚悟を決めて目を閉じると強烈な衝撃と共に体が宙を舞う
そのまま叩きつけられたのか第二第三の衝撃が体を襲う
第四の衝撃は・・・何か柔らかい物にぶつかった

「大丈夫かのう・・・」

プラチナブロンドの少女がこちらを心配そうに見ている
誰もいない都心のど真ん中にゲーム内にいそうな化け物

 「やっぱ夢か・・・」

そう呟くと共に意識を手放すのであった

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